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寂夢  作者: 蛍石光
寂夢 七
13/35

七 その三

前回の続きです。


気を失った麻衣が見ている世界になります。

 気が付くと私は病院にいた。妙に古臭い病院。見覚えがない病院だ。


「高無さん、高無愛さ~ん、検温の時間ですよ~。あら、今日は起きてるのね?」


 そう言いながら入ってきたのは看護師と思われる体格の良い女性だ。でも、私の名前は高科麻衣・・・高無愛って誰?そう尋ねようとしたが声が出ない。


「・・・・」


「そう、今日は体調がいいのね。」


 笑顔で私の体温を測り、血圧を測る女性看護師。


「うん、熱もないし血圧も正常。良かったわね。まだ若いんだから、元気にならなきゃダメよ?」


 そう言って蒸しタオルを手に取り、私の顔を拭く。


『気持ちいい。』


 素直にそう思う。けどやっぱり声が出ない。


「ほら綺麗になったわね。鏡で見てみましょうね。」


 そう言って少し大きめの手鏡を移動ラックから取り出し、目の前に持ってくる。そこに写っている顔は・・・少しくたびれた感じの初老の女性。どう見ても私じゃない。私はまだ二十二歳。こんなに一気に老け込むわけがない。それに、名前も違うっ。


「う~~~」


 必死に声を出そうとしたが出た声はこれだけ。言葉がでない。体も思うように動かない。


「あらあら、ごめんなさいね。気に入らなかったかしら・・・」


 そう言ってその女性看護師は鏡を移動ラックにしまう。


「あ~~」


 どうしても声が出ない。いやだ、なんなのこれ?夢なら早く覚めてよ。


「愛さん、どうかしたの?痛むところでもある?」


 痛みはない。でも、わけがわからない。誰か教えてよっ。心の中で強く思う。その瞬間、私はまた意識を失った。

 

********


「舞まーま。今日はテストで百点取ったよ~。」


 今度は意識だけで存在しているような不思議な感覚だ。舞まーまと呼ばれた女性の視界を共有している。そんな感じ。


「こら唯。愛まーまでしょ?」


「だってぇ、舞まーまだもん。」


「そう、私は舞まーまよ?でも、愛まーまでもあるの。でしょ?」


「うん、愛まーま。」


 そう言って唯と呼ばれた少女が抱き着いてくる。可愛らしい少女だ。こんな娘がいたら嬉しいだろうなとふと思った。


「はいはい、唯は甘えん坊さんね。まーまは今ちょっとだけ忙しいの。ごめんね。あと・・・一時間くらい待てるかしら?」


「うん、大丈夫だよ。今日は友達と遊びに行ってくるの。」


「お友達?」


 そう言って視界を共有している愛まーまなのか舞まーまなのかわからない女性が少女を見る。


「うん。」


 そう少女はニコニコして返事をする。


「そう、お友達と遊んでくるのね?遠くに行っちゃダメよ。」


「大丈夫よ、愛まーま。」


「いってらっしゃい。気を付けてね。」


「はーい。いってきまーす。」


 そう言い終わらないうちに少女は部屋から駆け出していく。その姿を見て女性は立ち上がって窓に歩み寄って外を見る。そこには何人かの少女が待っていて、玄関から飛び出してきた唯と呼んでいた少女とじゃれ合っている。


「元気に育ってくれてよかったわ・・・」


 そうつぶやいた瞬間に女性の心が流れ込んできた。一気に・・・濁流のように・・・その激しい意識の流れに私は飲み込まれる。自分の意識が消えてしまいそうなところを必死にこらえる。


「愛お姉ちゃん・・・私は・・・幸せよね・・・」


 そこで私の意識は途切れた。

もうちょっと続きます。


麻衣が見ているのは、どうやら舞のようです。

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