七 その二
この章は長いので分割します。
麻衣に何が起きていくのか。
物語の重要な話になっていきます。
車で十分くらい移動したあと、隆司の言うとおりに五分ほど歩いたところにそれはあった。山道を歩いたから、てっきり山頂とかに社があると思ったのだが・・・
「崖にあるのね。」
思ったことをそのまま口にする。
「そうね・・・ずいぶんと朽ちてきているけど・・・」
梓は少しがっかりしたように呟く。
「はい。かつては手入れがされていたのでしょうが・・・この村も過疎地となり数十年。高齢者しかいない村ではここまで手が回らないのでしょう。」
梓は隆司の言うことなんて興味がないかのように、社を調べながら言ってきた。
「ねぇ、麻衣。知ってること話してよ。」
「今?」
「そう、この社のこととか何か知らないの?」
「社・・・」
私はこの村の近くで育ちはしたが、来たことはない。なのになんだろう・・・ひどく懐かしい気がする。さっきの洋館もそうだ。どうしてこんな気持ちになるのかさっぱりわからない。
「ねぇ、麻衣。どうしたの?」
「あ、ごめん。私が知ってるのはこの近くの崖で子供が死んだってことだけ。」
そう。それだけのはず。でも・・・おかしい。何かが引っかかる。
「麻衣さんがおっしゃっているのはこのことだと思います。」
そう言って隆司が取り出したのは何かの記事のコピー。とても古い新聞の様だ。
「なにこれ?ずいぶん古いものなんじゃない?どれどれ・・・」
そう言って梓が隆司の手からコピーを奪い取る。
「えっと・・・『高無舞ちゃんが行方不明』か・・・きっと麻衣が言ってるのはこれだね?でも、昭和二十八年?ずいぶん昔ね。私たちのおばあちゃん世代くらいかしら?どうしてこんなところに来て・・・転落したのかしら・・・」
高無舞?なに?なんなのこの不思議な感覚は。
「ねぇ、この名前って・・・あんたにそっくりね。」
「え?」
「だって、あんたは高科麻衣でしょ?そしてこの行方不明の子が高無舞。ね?『し』と『な』が入れ替わっただけでほとんど同じ名前じゃん。」
その瞬間、急に頭痛に襲われる。思わず頭を押さえて膝をつく。
「ちょっとっ、どうしたの麻衣っ。大丈夫?」
梓が心配して駆け寄ってくる。
「だい・・じょうぶ・・・」
そう答えたがどうやら大丈夫じゃない。急に吐き気もしてきた。
「麻衣、麻衣っ。」
そう言って梓が私の背中をさすってくる。麻衣・・・私の名前。高科麻衣・・・それが私の名前?たかしな・・・まい・・・
「先輩、とりあえず、少し休みましょう。麻衣さんをそこの社に少し寝かせましょう。」
そう言ってどこから取り出したのか、バスタオルのようなものを社の縁側に引く。
「そ、そうね。」
梓はオロオロして何もできないようだ。
「先輩、麻衣さんをこちらに。」
「え?」
「では、僭越ながら僕が。」
そう言うか言い終わらないかのうちに、彼は私を抱きかかえてタオルの上に寝かせる。梓はオロオロしながらも親友のもとに駆け寄る。
「う・・・」
梓の顔がうっすらと見える。彼女の眼には涙が浮かんでいる。
『まい・・・やっと帰ってきたんだね・・・』
「・・・だれ?」
「どうしたの麻衣?誰って、私よ?梓よ?」
梓の声は聞こえていた。でも声が出ない。出せない。そこで私の意識は途絶えた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
麻衣は急に意識を失いました。
何が起こるのか。
謎の声によって引き起こされる不思議な話になります。




