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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第31話 マッド⑷

「お疲れ~」


 万事解決したぼくは、万事解決させてくれた2人の元へ小走りで駆け寄る。


 「お疲れ~、じゃねーし」ハジメ君は目と肩をすぼめる。


「そう言っても仕方ないでしょ? ぼくは戦えないんだからさ」


「はいはい。知ってますよ~」


 「そういうことか……」何か思いついたのか、隣にいるリュー君が口を開く。ハジメ君もだけどさ、たまにあるよね、1人だけ別空間にいる感じのアレ。


 「どうしたの?」ま、気になるから尋ねちゃうんだけどね。


「学校にいたのはこのためだったんだな、マッド?」


 えっ?——あっ。


 「違う違う」ぼくは、すぐさま横に手を振って否定。


「ぼくが恩田(・・)として金戸高校に勤めてたのは、ホント偶然なんだ。偶然過ぎて運命さえ感じたから、調べてたって感じ」


「なら、なんであの学校にいた?」


 まあそう疑問に思うのも無理ないよね。ていうかむしろ普通のこと。

 最初学校で会った時は、目を丸くして驚いてたもん。あんなの初めて見たし。でも、そこは流石のリュー君。一瞬で空気を読んで初めまして感を出して……あっ違うか。自分も安西とかいう偽名だったからそうしてくれただけか。


「頼まれたんだよね、あそこの教諭に」


「教諭?——あぁ……知り合いだったのか?」


 多分リュー君の頭の中には顔が浮かんだんたろうな。


「1年弱前に痴漢撃退グッズを作ってあげた、ってぐらいの薄い知り合いだけどね」


「ちょ待て。教諭って確か、結構なババアだよな?」


 「何だ何だ? 自意識過剰だって言いたいのか?」ハジメ君が問う。「うわーサイテー……そもそもババアって言っちゃうところがサイテー」ぼくも目を薄く開いて責める。


 「いやそういうわけじゃないが……」弁解しようとするリュー君にぼくは「あのねっ!」と注意する。


「女はいつまでも女でいたいもんなの。そんな乙女心分からないと逃げられちゃうよ?」


 「乙女心、ねぇ……」リュー君はぼくの顔を見ると、眉を上げて1つため息をつく。


「あれれ? 何か言いた気ですねぇ~」


 ぼくは、はたと気づいた。


「あっもしかして普段、ぼくがぼくぼく言ってるからとかそういうこと?」


「何も言ってねぇだろ」


「キーッ! 男尊女卑! 女性軽視! 差別反対!」


「だから何も言ってねぇだろって」


「顔が言ってるんですぅーぼくって言ってても、ぼくは()です。女性(・・)ですっ。レディ(・・・)ですっ!」


 「レディじゃなくてガールだろ?」ヘラヘラ笑っているのはハジメ君。


「ここにも敵が! キーッ!!」


「おい探偵、火に油を注ぐな」


「言っておきますけど、ぼくはガールに見られるほど小さくないです~むしろ165もありますから、デカいほうですぅ~百歩譲って178はあるリュー君に言われるならいいけど、173しかないハジメ君に言われるのは嫌ですっ!!」


 「ちょっ待て。なんでお前、俺の身長を知ってんの?」と不思議そうにハジメ君が言うので、「前に寝言で言ってたっ!」と応えてやった。

 「じゃあ俺のは?」と続いてリュー君に聞かれたので、「偶然っ!」と言い放っておいた。


 「いやぁー……分量間違えたな」って頭かきながら呟いてるけどぉ、今更油の量を気にしても、遅いんだからね! もうこの際だから、話しておこう。ガールじゃないって証拠をっ!


「それに昔はさ、新宿・池袋・原宿・渋谷・吉祥寺・八王子……東京のどこを歩いてもスカウト受けてたんだからねっ!」


「おっとぉ~過去の栄光にすがるのは流石に見苦しいんじゃないかい?」


「さらにキーッ!」


「探偵……俺の話聞いてたか?」


 呆れるリュー君に向けて、お手上げポーズをして「もう言わない」とハジメ君。


 ていうか、おかしくない!? 向ける先、間違ってるよね! それはリュー君にじゃなくて、ぼくにじゃないの? ねぇ!!

 もう色々無茶苦茶だよっ!!


「何だい何だいっ! 2人してぼくで遊んだりしちゃってさっ!」


「だから俺は何も言ってねぇって。遊んだのは探偵だけだ」


 リュー君は親指をハジメ君に向ける。


「そんな怒んなって、マッド」というハジメくんの言葉を遮るようにぼくは「ふんっ!」と腕を組み、そっぽを向く。


「で、何でマッドがあの学校にいたんだ?」


 知らない! 知ったこっちゃないっ!


「……マッド?」


 ……優しいぼくのバカっ!


 顔を2人に向けて経緯を話す。


「なんか教師の1人が私情で辞めることになったんだけど、色々あって新学期になるまでの3週間弱だけ臨時で物理の教鞭を執ってくれないかって電話もらったのっ」


 でも、少し強い口調で。


「なんだそのアバウトだらけの採用依頼は……」


 そう言われてもさ、リュー君——


「分からないことは分かんないんだよ。もちろんぼくだって理由は聞いたけど、言い方は違えど『諸事情で色々ありまして』の繰り返しなんだから仕方ないでしょ? で、学校も凄く困ってるみたいだったから断りづらくてさ、結果協力することになったってわけ」


「教員免許なしで教師にって色々法律的に大丈夫なのかよ?」


「ちょっとハジメ君? 勝手に決めつけないでくれます?」


「……まさか持ってんの?」


 「いえす」ぼくは縦にゆっくり頷く。前にも行った気がするけど、念のために一応言っとこ。


「この世のありとあらゆる免許は大抵持ってる。その理由は——」


「「やりたいことに枷をつけないため」」


 やっぱ言ってたね。ていうか、同時に言うってさ……も~仲いいんだから。


 すると、外でサイレン音が。


「おっやっと来たな」


 ハジメ君は右腕だけ高く上に伸ばす。左腕は捕まってた青年を逃さぬよう首根っこを掴んでるからできない。


「これで解決、だなぁ~あ~」


 喋り終わる前にハジメ君は大きな欠伸をした。

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