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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第29話 織峰⑸

「いや~助かったよー、ありがとう」


 ケータイを手にした探偵さんは、ホッとした表情で礼をする。


 “偶然見つけただけですから”ナギは打った文字を見せる。


 「あのー……1ついいですか?」マサが探偵さんに訊ねる。


「なんだい?」


「この犯人の目的って何ですか?」


 ナイスタイミングとでもいうべきか、俺も気になってて聞こうと思ってた。カラーギャングではないことは分かったからこそ、この人が何を目的として爆破事件を起こしていたのか分からない。


「報復だと」


「報復……」


 不穏な言葉だ。


 「何に対しての?」マサは続ける。


「ん? 会社」


 ……へっ?


「最初は、だけど」


 ……どういうこと??


 話をかいつまんで整理すると、犯人は誰もが知ってる超有名大学の4年生。言いかえれば、就活生。就職氷河期でもない今ならどの民間企業も欲しがるような高学歴。要するに受ければどこにだって受かり、落ちることなどないはずだった。だが、いざ蓋を開けてみると、大手はおろかある程度大きな中小企業さえどこも拾ってくれず、就職浪人をすることが色濃く、というか小さく弱々しい企業に入るなどというのは本人のプライド的に許さなかったそうだ。

 大学に行っても家に帰っても、“就職できない”レッテルを貼られたことに、今まで順調な人生を歩んでいた犯人に、どんどんと恨みが溜まり、蓄積されていった。

 その矛先は採用しなかった企業や社会、そして「なんで自分がこんなに苦しんでいるのに、皆笑っているんだ? こいつらみんな恐怖におののけばいい」と、そこで生活を営む人々に移っていき、同時に自分に対して恐れおののいて欲しいという歪んだ欲求に変わり果てていった。


「結果思いついたのが、今回のこの連続ゴミ箱爆破事件だった、ってわけだ」


 探偵さんから犯人の呆れる理由を聞き、だから今まで怪しい人物が誰も上がらなかったわけだ、と納得した。あの大学の学生ならば、職質されても警察に学生証を見せれば全く疑うことなく解放してくれるだろう。それに、いくらゴミ箱でも爆破事件という重大な「就活できなかったから」というあまりにも釣り合わない犯行動機かつ無差別的な犯行——いくら警察といえど、繋がりを見出すのは至難の技。あまりにも関連性が無さ過ぎる。

 同時に俺は、そんなんでいちいち爆破事件を起こされたら、この島は跡形も無くなっちゃうよ……と溜息をつくように心で呟いた。


 「内定貰えへんかったくらいでこないなことするなんて割に合わへんやろ?」俺が思ったことと同じことをマサは口にした。

 すると、「くらいでなんかじゃないっ!」と犯人は突然叫び出した。これにはマサも驚き、ビクッと肩を揺らす。


「あいつらは何も分かってない。俺よりも遥かにバカなあいつらは高学歴の僕を落とした。そんなこと……そんなことっ!」


 「だからだろ」不意に口を開く探偵さん。「だから落とされたんだろうよ」


「何?」


「どんだけ頭がいいのか知らねぇけどどこも採ってくれなかったのは、そうやって自分のことは棚に上げて人を下に見るだけ見てたからだろ。こんな重い罪犯したらどうなるかも気づかねぇレベルだってことが見抜かれたからだろ」


 涙目の犯人の言葉を冷ややかに跳ね返す探偵さん。


「それなのに、なーにが報復だ。こんなことしても余計働き口なんてなくなるだけだって分かんなかったのかよ ? 自分がやろうとしてんのが空にツバ吐いてだけのことだって気づかなかったのかよ?」


 「いいか?」探偵さんは犯人に顔を近づける。


「人のせいにする前にまずは、テメー自身を見つめ直せってんだ」


 静かな怒りを秘めた探偵さんの言葉に、黙り込む犯人。


「ま、高学歴だろうが何だろうが、牢獄行き。反省の時間はたっぷり用意されてるからよ、前科つきで就職どうしよ云々前に、しでかしたことをしっかり償ってきな」


 論破された犯人の肩はガクッと落ちた。はっきりと分かりやすく。


 すると、電話が鳴る。「おっと」その主は探偵さん。


「もしもし?——『出た』、って幽霊じゃねぇんだからよ——そんなことより、今どこだ?——あ?——なら好都合だ。これから行くからそっちで待っと——何? 理由? そんなの見りゃ分かる。ちょっとぐらい我慢しとけ。とにかく、じゃあなー」


 スピーカーから『まだ話はっ!』と男の人が会話を続けようとしていたが、探偵さんは雑に電話を切った。

 そして、ケータイをしばらく見てから「あっトミーからも来てら」と、をボソッと呟くと、少し慌てだした。外国人の知り合いとかか?


「じゃあ俺はこの辺で。もしなんか困ったことあったらウチに来な。ケータイの礼でタダにしとくから」


「あっはい」


 探偵さんは気力のなくなった犯人とともにその場を離れていった。


 「タダやて」「ね」マサとヨッシーが話してたので、「何が?」と訊くと、「こっちの話や」と返された。


 しっかりとはっきりと地面を歩く後ろ姿を、勇ましい後ろ姿を見ながら俺は、少し嬉しくなった。


「なんで笑っとんの?」


 へっ?


 声をかけてきたマサを見る。


「気味悪いで……」


 どうやら自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていたみたいだ。


 「別に。解決してよかったなーって」俺は適当なことを言ってはぐらかし続けて、「そういやリーダーに報告は? もうしたの??」と話題を変えた。


「あ」


 明らかに思い出したような素振りをしながら、マサは慌ててケータイを取り出し、メールを打ち始めた。

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