表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
64/155

第27話 水橋⑹

 撮ってある? もう??

 えっ、だって中身はさっき新しいのに変えたんじゃ……

 先生の表情は曇ってる。さっきの晴れやかな顔つきとは明らかに違う。

 気になった私も先生のそばまで行き、画面をのぞき見た。映像が流れてる。


 「ほらここ」先生が指をさしたのは、左上に書いてある録画日時。あっ、本当だ。私が昼間見つけたのよりも1週間も前の日時がそこには表示されてた。時間はとっくのとうに部活が始まってる夕方の17時43分。だからそこには、誰かが着替えてるとかではなく、無人の部屋がただひたすら映されていた。


 私は画面から先生へ視線を向け、「昔のを使い回したってことですかね?」と疑問口調で訊ねたけど、それで間違いないなっていう答えはもう出てた。


 「それはそうなんだけど……」何かがつっかえてるような言い方をして、先生は続けた。


「こういう人間は大事に保存しておいたり、データを売買したりするために残しておくもんだけど……あれかな、動画だけあれば問題ないタイプの――ん?」


 先生は動画を少し巻き戻し、スピーカー部分に耳を近づける先生。


「何かありました?」


 「いや、気のせいだったみたい」先生はカメラの電源を切った。


「とりあえず残りは私がやっておく。もう夜遅いし、帰りなさい。明日もあるでしょ?」


 更衣室の時計を見てみると、短針はもう10を超え、11にさしかかっていた。


 こんな時間だったんだ……

 確かに帰らないと、塾体験と偽って来た親にも怪しまれる。それに先生も言ってた通り、明日はまだ木曜。学校はある。


 「最後に1つ訊いてもいいですか」どうしてもこれだけは確認しておきたかった。


「なに?」


「私の勝手な考えなんですけど、もしかして先生、犯人が用務員さんだって分かってたんじゃないですか?」


 先生の眉毛がピクリと動く。


「なんでそう思うの?」


「女の勘です」


 ほんの少し沈黙が流れる。そして、固まった空気を壊すように、先生はあはははと笑った。大笑い。


「いいわね、気に入った。そうよ、ある程度は目星がついてたわ。でも最初からじゃなくて、これがきっかけ」


 先生が持ち上げたのは盗撮用に仕掛けられていたあのカメラ。


「夕方見せてもらった動画は夜中から録り始められていた。つまり、夜に仕掛けたってことになる。で、まあ色々と聞いたりしたからっていうのもあるけどとにかく、内部犯の可能性が色濃くなった」


「え?」


 むしろ逆じゃないのかな。夜の学校の方が怪しまれやすいが、人に見られない分、学生や先生のいる昼間や夕方よりかは侵入できやすいんじゃ……


 「理由は2つ」先生は人差し指と中指を立てて見せてくる。


「まず、連続ゴミ箱爆破事件っていうのは知ってる?」


 私は「はい」と頷いた後、「ニュースで見た程度ですけど」と続けた。


「アレが起きてからこの辺りでは、警官の見回り強化がされてるそうなの。学生が危険を加えられぬようにね」


 知ってる。さっきもあった。


「そんな状況なのに、近くで怪しい人が1度も目撃されてないっていうのはおかしい。当然、学校側が隠す必要もない」


「でも先生、それはただ単に見つからなかっただけかもしれないんじゃ」


 「うん。だから、ここで2つ目」先生はまんまと罠にはまった光景を高みから見ているかのような笑みを浮かべる。


「鍵よ」


「鍵?」


「教室には戸締りのために鍵がどの部屋にもついてる。勿論、ここの更衣室もね。てことは、何かしらの手を使って得なければいけない。この時期テストの採点やら大学入試対策やらで先生が残業してる時も多い」


 そうだ。だから、学生玄関に行く時に職員室前は伏せようと思ってたんだもん。


「なのに、撮影が開始された日の夜中もある先生が残業してた。でも、あやしい人はその場にいなかったと話されてる。つまり、外部犯の可能性が低くなって、反対に、内部犯の可能性が高くなったってわけ」


「なるほど」


 「それで、当直の人が誰だったか調べた結果」といったので、私は「この用務員さんだった……」と続けた。それに、「ご名答」人差し指で私を指差す。


 夜に警備のために巡回してるってことは知っていたことだったけど、そういう結論には全く考えてもいなかった。確かに用務員さんなら、職員室の出入りも楽々だし、何より誰に会っても怪しまれない。


「で、今日はこの人の当直で、その上誰も残業しなことが分かった。犯人にとっては絶好のチャンスだったの。だから私が最後に帰ったことにして、待ち構えていたの


 成る程。


「他にも訊きたいことは?」


「いえ。ありがとうございました」


 事件は無事解決。私は学校を後にし、家路に急ぐ。うん、とりあえず今夜は気持ちよく眠れそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ