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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第24話 織峰⑷

 「けえへんな……」腕組みして体を揺らすマサに「もう来るよ」と俺は伝える。


 到着してまず思ったのは「あっ、本当にあの探偵さん(・・)だ」ということだった。同時に「まさかこんなタイミングで再会するなんて」とも思った。あの時と何も変わってない。まあ探偵さんは俺のことを覚えてないだろうけど。

 だから、身分を証明した。本人に聞かれると少し不快に思われるかもしれないとも思い、少しコソコソしながら。今思うとその行動の方が失礼だったかもしれない。まあとにかく誤解まではいかないまでも疑惑は解消され、俺らは軽い自己紹介となんでここにいるかの理由を聞いた。


 すると、不意に「そういや、そっちの公園にスマホ落ちてなかったか?」と訊かれ、俺は驚いた。特徴を聞くとあの、ナギが拾ったスマホと同じ。で、ナギに確認してメールし、探偵さんの提案でパスコードを入れ確認すると、これがまた見事解錠。この爆破魔確保の依頼が来た日に失くしてしまったそうで、かなり困っていた様子。そうして今、ナギにこっちに来てもらってる。犯人は捕まったし、あっちにいる必要はないわけだし。


「いやー良かった良かった。これで一安心だ」


 おもむろに探偵さんはロングコートの右ポケットから何かを取り出す。「あっ終わってら」既に若干クシャッてたタバコを握り潰し、元に戻す。銘柄は多分、昔と変わってなければラッキーストライクだろう。

 「俺のでよければいります?」マサは自分のを差し出した。探偵さんは覗き見るように「銘柄は……アメスピか」と呟く。


 「おっ、その感じもしかして初めてですか?」独特の上がり調子で訊ねるマサ。


「まあな。だけど、物は試し。ありがたく頂戴するよ」


 「どうぞどうぞ」嬉しそうに差し出すマサ。愛煙家ならではの喜びなんだろう。

 中から1本取り、口にくわえる。同じく右ポケットから既に取り出してたライターを手でかざし、タバコに火をつける。


 右肩を叩かれる。振り返るとヨッシーが顔を近づけてきており、少しだけギョッとして顔を遠ざける。


「さっきね、あの探偵の人にね、高校生だって見抜かれたの」


 まるで5歳児のような純粋無垢な喋り方だが、無視して普通に「うん」と軽く頷いた。


「つまり……持ってちゃダメだよね?」


 あぁ……そういうことか。


「高校生だからタバコはNGって言いたいのか?」


「モチのロン」


 「確かにダメだけどさ」美味しそうにふかす真斗探偵さんを一瞥してから、「受け入れてるから大丈夫だろ?」とヨッシーに話した。もちろん、法律的にはじゃなく、ここの間的にはの話。

 「そうだね。まいっか」納得したように顔を遠ざけるヨッシー。


 ふと肝心なことを思い出した。逆に何故今まで忘れてたんだろレベルなこと。俺はヨッシーへ上半身を捻り、小さく手招き。眉を上げながらハテナ顔でまた顔を寄せるヨッシー。


 「犯人はどうか確認したか?」俺も少し距離を縮めてから訊く。とりあえず腕や額にバンダナなどは付けていない。だけど、今は付けていないというだけで、カラーギャングに属してないとは断定できない。


「あっそっかまだゴメンゴメン。大丈夫、カラーギャングじゃない」


 安心しホッと息を吐くと、ヨッシーは続ける。


「聞いてみたらさ、『そんなのに入るわけないだろ』って何故か怒られちゃったよ。一応、服のポケットとかも探ってみたけど、それらしきものもなかった」


 権力の象徴であり所属の証拠となる色付きの物を持ってないとなると、カラーギャングである可能性は低くなる。でも、まだ100じゃない。


「インビジブル、って可能性は?」


 “透明人間”を意味しているインビジブル。一般人に溶け込み、“カラーギャングには見えない者たち”として、何も持っていないという噂がある。


「分からないなー」


 そうなんだよな……分からないんだよな……だから、ややこしく難しい。まあ、透明人間だからといっても何か悪さをしてるわけじゃなく、特に目立った動きがあるわけでもない。だから、まあ注視しておく程度の存在。


「でもさ、あの犯人は違うと思うよ」


「というと?」


「頭でっかち感がプンプンするんだよね、あの犯人」


「頭でっかち、感?」


 ニュアンスは伝わるけど……


「なんていえばいいのかな……こうー『カラーギャングなんかしてるような奴らはなんて愚かなんだろう』ってバカにしてる感が言葉の端々に乗っかってる気がする」


「そっか……」


 ヨッシーはポヤーンとしていて何かと唐突で、何を考えてるか分からない時があるが、仕事は確実だ。今までの経験的にそれは間違いない。「了解。サンキュ」だから、少し肩の荷が下りた。


 ガチャン!


 音のしたほうを見ると、6、7メートル先にあるベンチ辺りで男の人が地面に転がっていた。どうやら頂点が綺麗に禿げている中年男性。両手を必死に使って、ベンチを頼りに立ち上がっている。おそらく、ベンチにぶつかってコケたのだろう。

 おぼつかない千鳥足、頭に巻いたネクタイはあの中年男性が酔っ払いであることを明確に意味していた。てか、頭にネクタイっていつの時代だよ……


 「フラフラだな」探偵さんはタバコをふかしながら呟く。「ですね」そう返事をすると、空気を読んだかのように再びフラつく酔っ払い。

 あぁあぁ、危ないなーもう。うかうかと見てらんないよ——って、あれ? 今、奥の草むらが揺れた気が……


 風は吹いてるけど、微風。だから、あんなにガサゴソと揺れるなんてことあるの……あっ!

 今見えた。はっきり目視した。草むらに4、5人の男がいる。中にはバッドを持っていた奴もいて、なんとも怪しげ。

 するとタイミングを見計らい、男たちは酔っ払いの前に立ち塞がる。その時うっすらと見えた、腕に赤いバンダナをしているのを。


 まさか……


 そのうちの1人が何かを話しているが、はっきりと聞こえない。だが、酔っ払いの「なんだお前らはぁー?」と「金なら俺のほうが欲しいよぉ~」と叫んでいるのを聞いて、内容は把握できた。

 嫌な予感が頭をよぎった次の瞬間、現実となった。酔っ払いが腹にバットの頭で思いっきり突かれたのだ。腹を境に折られたように身を屈め、後ろ向きに倒れる。地面でうずくまってる隙に、その周りを囲み、そして全員から蹴られ始める。頭、胸、腹、腿、挙げてけばキリないほど全身を執拗に。


 早く助けないと——そう思ったのは俺だけじゃなかった。


 「マサっち!」ヨッシーが叫ぶ。だけどもうマサは後方に引っ張っていた。片目を閉じ、折りたたみ式スリングショットのゴム紐にかけた弾を右手でグッと。そして、「分かっとるって」と言うと、右手を離した。

 ヒュンッ——空気を切り裂くような音を立てて、目に見えぬ速さで飛んでいく、親指と人差し指で穴を作った時ぐらいの大きさの弾。


「イテッ!」


 弾は金短髪ヤンキーの脛に命中。あまりの衝撃だったのか崩れるように地面に倒れ込み、当たった部分を両手で押さえて地面でのたうちまわっている。残りの奴らはこちらを見て睨んでいる。


「なんだテメェーらっ!」


 「よしっと」マサは呟く。ヤンキーどもの注意がこちらに向いたから、これで一安心だ。


「手伝おうか?」


 えっ?


 探偵さんの一言に、俺らは振り返る。軽く眉間にしわを寄せながら、タバコを指で挟み、口から取る。白い息を吐きながら「あいつら、倒すのにさ、必要かなーって」とタバコでヤンキーどもを指す探偵さん。


 「お気持ちだけ頂いときますわ」マサが両手をグーパーグーパー準備体操しながら言うとヨッシーが続けて「それに誰か見張りがいないと逃げられちゃいますから」と続ける。


 余裕綽々な反応に「ま、じゃなきゃこっちから喧嘩売らねぇもんな」と小さく笑みをこぼす探偵さん。「んじゃ、万……いや、億が一必要になったら言ってくれ」と空いている片手をポケットに入れる。その姿はまるで遠足を見送る母親のよう。


 俺はマサとヨッシーの顔を見る。2人とも準備はいいみたいだ。見た時に、目を見て頷いてきた。


 それでは、いざ——俺はヤンキー達の方へ向き直し、マサ・ヨッシーとともに間の距離を縮めていった。




「お、覚えてろよっ!」


 漫画でしかほぼ聞かないであろう捨て台詞を吐いて、一目散に去っていくヤンキーども。


 「楽勝だったね」ヨッシーは両手を腰につけながら軽く左右に傾ける。


「赤バンダナ見た時一瞬マズいおもたけど、冠だけ勝手に借りてるへっぴり腰たちやったな」


 「だな」俺が答えると、示し合わせたように一斉に踵を返し、探偵さんのいるところへ歩みを進める。


 「まさに虎の威を借る狐、ってやつやな」マサはスリングショットを綺麗に整え、しまいながら返答する。


「お、またダジャレ~」


 「ヨッシー、ええ加減にせぇよ」冷ややかながら鋭い目を向けるマサ。


「おぉ~怖ッ」


「それにしても、あのヤンキーども、勝手に名前借りてあちゃこちゃやればいつか本家大元からシメられるよな」


 「「確かに」」マサとヨッシーは同時に頷き、口を揃える。


「マサっち、倒れてるヤンキー達に『カラーギャングなめんなよっ!』って叫んどったもんね」


 は?


 「なんで関西弁になんねん」マサが俺の気持ちを代弁してくれた。「あらいけない。つい癖が」口を手で覆うヨッシー。


「お前はバリバリの東京人やろうが」


 語気の強まるマサ。怒りゲージがチャージされてるのがよく分かる。


「あれ知らなかったの?」


「なんや……えっ、もしかして……あっ、そうやったん?? なんや知らんかったわーえっ、そう言うのはもっと早よ言いや」


 嬉しそうな笑みと語調のマサに「1年間千葉にいたことある」と続けるヨッシー。


「……は?」


「だから……東京人ではない!」


 なぜか鼻高々なヨッシー。


「……時間と期待を返しぃーや」


「そんなケチケチしないの。ていうか、マサっちが勝手に勘違いしたんでしょ?」


「それはそうやけどなー……会話には流れってもんがあるやろ」


 「俺っちにそれ求めちゃう?」眉を上げるヨッシーに、「あぁ……すまん、俺がバカやったわ」と遠い目をするマサ。


「ハハハー勝った~!」


 えっ、それって勝ちなの?

 意味合い的には間違いなく負けだよね??


「いやー驚いたよ」


 で、探偵さんの前に着くと、開口一番そう言われた。


「柔道にスリングショットにパルクール……喧嘩売るくらいなんだから勝てんだろなーとは思ったけど、こんなにあっさりとは思わなかった。3人とも強いんだな」


「あざっーす」


 気の抜けた感謝を述べるヨッシーはパルクールを心得ている。きっかけは映画でパルクールを使ったアクションが凄まじくカッコよかったから、らしい。本人曰く、「パルクールっていうのは、逃走も格闘もできる上に、何しても華麗に見えるからモテるんだよね~」、だそう。まあじゃあ傍にそういう人がいたかと言われれば……だ。


「ちゃんとせい、ヨッシー」


 注意するマサはスリングショットを使いこなしており、的中の正確さはピカイチ。100メートル以上離れた所に置かれたコンポタの空き缶をどの辺りに当てるかまで指定した状態でも、撃つことができる。

 で、俺は柔道を少々。一応、全国大会には毎回出てたぐらいの力はあるので、まあそれなりに。


 ヴゥー


 ケータイが鳴った。このタイミングで。しかも探偵さんを除いた3人ともってことは——


“どこ?”


 やっぱり。ナギからだ。俺・マサ・ヨッシーは辺りをキョロキョロ。


「あっ、おーい」


 ヨッシーが左右に手を大きく振る。見ると、向こうから同じく手を振っているナギが走ってきていた。


 ある意味、グッドタイミングだな。

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