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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第21話 安西⑶

 あっ。昨日何で安西って名前にしたのかマニアに聞きそびれてたことを思い出しながら、俺は男子生徒の話を聞いていた。目の前で用意された埃を被った錆びれたパイプ椅子で肩を落とし、力なく俯き、「もうダメなのかなぁーって……」と女々しい言葉を吐いてる、


 人の悩みを聴き、答え的なものを出し、道標を示してやらなきゃならない。しかも、相手の話は繰り返してることが多いし、ある程度進んだと思えば、ふとした拍子で最初に戻っちまう。最初カウンセリングってのは話聞きゃいいだけの楽な仕事だと思ってたが、やってみて分かった。聴いてるこっちがストレス過多でぶっ倒れそうなぐらい結構キツく大変な仕事だ。改めて、楽な仕事なんてのはこの世にはないなと思わされる。


 事件とは全く関係ないが、相談したいと言ってやってきた。無下に返すわけにもいかず、「どうそ」と中に案内。話を聞くと、この男子生徒は2年生で、最近代交代により新キャプテンになったそう。

 短気な俺は人の話をうだうだと聞かなきゃいけないカウンセリングなど当然全くしたことない。ゆえに、どう答えたらいいか分からない。さっきまではなんとなくでどうにかなったが、今回は下手なことは言いづらい。


 仕方ない。マニアから教えられた“最終奥義”を使うか。


「諦めたらそこで試合終了だよ?」


 流れる沈黙。目を見開いてる男子生徒。

 クソっ。「これで大丈夫ですっ!」ってあいつ言ってたのに、てんでダメじゃねぇか!!


 心の中で叫ぶ。


「はい! 俺っ、もう少し頑張ってみますっ!!」


 先ほどまでの憂鬱が嘘のように、真っ直ぐな瞳と伸びた背筋と大きな声で応えたバスケ部キャプテン。


「失礼しますっ!」


 元気よく礼をし、横開きのドアを閉めた。臨時で構えてもらった“学生相談室”が静かになる。俺はそのまま、誰もいないドアを少し見つめた。


 効果てき面だな……


 立て続けにカウンセリングしてた俺は1つ息を吐く。そして、机の上の書類を整えた。

 カウンセリングの期間がほんの数日間だけだったからか、用意された部屋はさほど広くなかった。それに、かなりホコリっぽい。窓とドアを開け、これでもかと換気をしてもだいぶ鼻の中が痒くなる程。しばらく使われてなかった部屋だというのはすぐに分かった。

 その上、部屋にあるのは、倉庫の奥に半分捨てられたように押し込められてたような古いテーブルと少し動くだけでギーギーうるさいパイプ椅子3台だけ。限りなく少ない。

 ま、そこまでウェルカムってわけじゃねぇっつうことは鈍感な俺でもよーく伝わった。


 コンコンとドアが叩かれる。次のまでにはまだ時間がある。てことは、さっきのキャプテンと同様、事件とは別の相談者か?

 ったくドンドン増えてくな……


 「どうぞー」態度が声に出ぬよう気をつける。ガラガラガラと開かれ、顔が見えた。


「どうもどうも」


 まさかの校長・教頭ペア。慌てて立ち上がろうとすると、「あぁそのままでいいですよ」と言われ、腰を落とす。

 2人は目の前に座った。パイプ椅子がようやく2席いっぺんに使われた。まるで、この2人のために用意されたかのようだった。


「それで、どうしてここに?」


 「カウンセリングではありませんよ」校長ジョークなのか本気なのかよく分からない発言に、俺は「ハハ」と例のぎこちない笑みを浮かべておく。


「カウンセリングの進捗状況をお聞きしたかったんですよ。あとどれくらいで?」


 「ええっと」俺は左上をホチキス留めされたカウンセリング希望の名簿をペラペラとめくり調べる。丸がついてない人数を調べる。全てめくり終え、「10名ですね」と顔を上げた。


 この2人があの時校庭にいた生徒は参加するよう学校側に促してもらった。そんなにはいないと聞かされていたが、希望者の名簿を作成してもらったところ、かなりの人数が。


「おぉ、もうそんなにですか? あれだけの人数がいたのに」


 希望者の話を聞いてくとどうやら、「授業中であってもカウンセリングを優先していい」と聞いたかららしい。つまり、しめしめと嘘をついたものがいたのだ。一部、というか殆ど。


「えぇ。みんな協力してくれてるので」


 しかもそんな殆どの奴らは多少足を突っ込んだぐらいの軽い不良、俺から言わせればただの不良になりたいだけの不良系。だから、少し目を鋭くしたらすぐに帰った。それでもダメだった場合は、声のトーンを落として脅しをかけた。

 だが、あくまで殆ど。本当にカウンセリングしたい生徒や当時の状況を吐露したい生徒もいた。中には飛び降りた生徒と同じクラスの生徒がいたから、ここぞとばかりに色々な話を訊いた。せっかく接触できたんだ。有効的に使わないとだ。


「順調そうで何より、なんですがね……」


 含みのある言い方をする校長。同時に、表情が曇る校長と教頭。


「何か言ってましたかね?」


 「何か、と言いますと?」俺は真意を訊く。


「その……生徒の斎藤ヒロキ君が飛び降りる前にこんなことを言ってたとか、飛び降りをしそうな兆候があったとかなんとか」


「それはイジメというようなことでしょうか?」


「まあ……そのような感じのも含まれますかね」


 成る程な。2人の少し緊張した表情から俺は全てを察した。


 2人は「生徒の飛び降りが自殺だったのか、もしそうならその理由が学校側の落ち度として認められてしまうものなのか」を探るために、カウンセラーを呼んだんだ。勿論、生徒の心のケアのためが無かったわけじゃないだろうけど、それメインってことではなさそうだ。

 そもそもそうしようと考えていたのか、依頼者であるあの両親が学校に来たのをきっかけに早急に手を打とうと画策したのか……どちらにせよ、セコい手を考えたもんだ。

 まあ俺もカウンセラーと偽って学校に潜入してる身。人のことをとやかく言える立場にはいないけどな。


「今のところはまだ、そのようなことがあったという話は出ていません」


 嘘じゃない。まぎれもなく正確な事実をはっきり伝えた。飛び降りた斎藤ヒロキ君はイジメ云々で自殺するようなほど追い詰められてはおらず、さらに友人が多い方でそのような兆候も一切見受けられなかったらしい。


 「そうですか!」とたんに表情が明るくなる校長と教頭。


「いやいや、生徒のためにやはり来ていただいて正解だったな、教頭?」


「えぇ校長」


 ガハハハとハハハハが再び。


「あっ、それじゃ我々はこの辺で。あんまり長居してもお邪魔になるだけでしょうし」


 嘘つけ。訊きたいこと聞けたから帰るだけだろ。


 「では引き続き宜しくお願いします」校長と教頭は仲良く出て行く。閉められた扉越しに「良かったですね」とかなんとか話してた。

 ここで話すとは……用心なのか不用心なのかよく分からん2人だな。


 電話がかかってきた。俺はマニアだと思った。依頼主である父親と別れてからマニアのとこに行き、ウィなんとかみたいな名前の学校裏サイトについて調べてもらった。どうやら海外を何度も経由して作られてるらしく、管理人らの情報を得るのは不可能らしい——普通は。マニア曰く「僕には門外不出の裏技がある」らしい。続けざまに「時間はかかりますけどね」とも言ってたっけか?

 まあ、とにかく俺はマニアが色んな情報を得ることができた、てっきりそう思ってた。だが、違った。そもそもマニアからではなかった。


「もしもし?」


 『便利屋、さんですか?』相手は父親。しかも泣いている。ふと嫌な考えが頭をよぎる。


 「どうしました?」耳に全神経を集中させる。


『ヒロキが……ヒロキが……』


 涙鼻水混じりの声に、俺は最悪の事態が脳の中で色濃くなっていくのを感じていた。

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