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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第20話 甲斐田藁⑵

 「ちょっと待って!」マサっちを小さくも張った声で止める。同時に、慌ててたから思わず手で服を掴み軽く引っ張る。


「な、なんや!?」


 酷く驚いてるマサっちに「見て」と指をさして教える。「ん?」と目を凝らすマサっち。俺っちも視線を戻し、その場所を凝視する。


「もう1人、いるよね?」


「……いるな」


 そう、さっきの誰かの隣に違う誰かがいるんだ。1人目を気づいた時には分からなかった。気づいた今でさえかろうじて見えるレベルだから仕方ないと言っちゃ仕方ない。


「あの2人、互いに顔見知りかな? 距離近いし」


「ちゃうな」


 どこか確信めいた口調で否定されたから、思わず「えっ?」と素っ頓狂な顔でマサっちの顔を見る。


 「首んとこ見てみ」クイッと顎で示されたから、促された通りに見てみた。2人とも街灯のあるところに移動していた。さっきと比べると遥かに見やすくなった。


「あっ、2人とも男だね」


「ああ、せやな」


 「で、首んとこだよね?」俺っちは目を細め、じぃーっと凝視する。


 「あっ」思わず普通の音量で声が出てしまい、口を覆う。

 でも、「気づいたか?」それには全く怒ってないマサっち。むしろ悪いこと考えてる子供みたく、ニタリと笑ってた。怒ってない理由はこれだけ距離があればそれぐらいの声は聞こえないからなのか、それとも単に気づいたことの方が嬉しい的なことだからなのかは分からないけど、とりま良かった。


「掴まれてる?」


 口から手を外し、答え合わせをする。

 襟元をがっしり掴まれて、まるで逃げられないようにしてるかのよう。悪い事して鬼のように怖ーい母親に叱られるみたいな雰囲気をふわりと感じた。


 で、マサっちは縦に首を振りながら、「せや」と一言。当たったみたいだ。


「要するに、あの首根っこ掴まれとる奴は犯人やってことやな」


 ……えっ?


 「な、なんで?」飛躍した論理にしか聞こえなかったからとりあえずその理由を訊いた。早く聞きたかった。すると、俺っちの顔をまじまじと見ながら深いため息をつくマサっち。


「リーダーから送られてきた動画には1人しか映っとらんかったやろ?」


「うん」


「うんって何や?」


「いや、その続きは?」


「あるわけないやろ」


 「……いやいやいやっ!」俺っちは手を顔と垂直にし左右に素早く細かく振った。いや、の後に、あるわけないやろがないやろ、と続けたかったけど、それ言うとどやされそうだったからやめておいて、その先を話す。


「あの動画の日は偶然1人だけだったのかもよ? もしくは偶然映らなかったとか」


「そんなに何度も偶然が起きるか」


「いや、もしくはの話だから、何度もではなくどちらがなんだけど……」


 マサっちは、根が天然というか、バカというか、天然バカというか、とにかくそういう分類に属してるから、会話が噛み合わないことが時々ある。ていうか、それってツッコミにとってはかなり致命的じゃない?


「そもそも仲間ならあんな首根っこ掴んで晒すような真似、普通せえへんやろ?」


 「そうかな?」どこか腑に落ちなかった俺っちは少し眉をひそめ、首を傾げた。すると、根拠を補強するかのようにマサっちは「どちらかというと、逃げへんようにしてるように見えへんか?」と続ける。


 そう言われてもう1回ちゃんと見てみた。あぁー、確かにそう見えなくないかも。

 あと、目が遠くを見るのに慣れたのか、さっきよりも鮮明に情景が見えた。

 まず1つ目。掴まれてる人は掴んでいる人よりも若そうである。おそらく掴んでるほうが20代後半から30代前半ぐらいで、掴んでいるのが20代前半ぐらいなんじゃないかなーって思ってる、俺っちは。自信はない……


 あっ!


「もしかしたら偽装工作かもしれないよ? ほらっ、誰かに見られたら『今から警察に連れて行きますぅー』的な」


 「そこまでするか?」腕組みするマサっち。


「そこまでしてたからこそ、今まで捕まってないのかもしれないじゃん。ていうか、ここで話してても分かんないんだからさ、とにかく聞いてみよっか」


「いや、もう少し考えた方が……」


 なぜか突然渋り始めるマサっち。さっきまで「行くで〜」と意気込んでた人間とは真逆。


「いいから、行くよっ!」


 半強制的にマサっちを連れて、怪しげな2人の元へ向かった。




 俺っちたちは男性に話してみた。すると、自分を探偵(・・)と名乗ってくるじゃないか!

 うん……怪しい。なんとも、怪しい。


 だから、本当にいるのかクザヤっちに聞いてみた。俺っちたち2人は知らなかったから。


 「中央区に探偵っている?」相手に聞かれないように、喋り口のところを手で覆い、こそこそと訊ねてみる。


 『あぁ、知ってる。足蹴りが有名な人でしょ?』さも当然かのようにすぐに返答が返ってきた。


 ほうほう……


 「すいません……」俺っちはケータイを伏せて男性に声をかけた。


「なんだ?」


「足蹴りは得意ですか?」


「は?」


「そのー……足蹴り」


「……ま、まあぁーうん。そうだな。得意と言っちゃ得意かな」


「あっ、ありがとうございまーす」


 俺っちはケータイを耳につける。


「他になんかない?」


『他?』


「分かりやすい特徴、みたいな……」


『そうだなー……いつもロングコート着てて、髪が天パ』


 ロングコートに天パ。ほうほう……


 ちらりと目をやり、こっそり確認。うん、ロングコート着てる。頭は天パ。手入れもさほどしてないからか、意識して見たら一目で気づいた。

 てことはつまり、この掴んでた人は本当に探偵ってことで間違いない……かな?


 あっそうだ。


「クザヤっちは探偵を見たことある?」


『あるよ。昔一度』


「どういう人か覚えてる?」


『ああ』


 好都合だ。


「じゃあさ、とりあえずそっちはナギに任せて、一旦こっち来れる?」


『そっちに?』


「うん。こうやってやり取りしてるよりも、来て見てもらったほうが早いし確実だから」


『でも……』


「大丈夫でしょ、ナギなら」


『まあそうだな』


 そして、『じゃ今からそっち向かう』と電話を切るクザヤっち。


 よし。


 俺っちは意を決して、近づき、「あのぉー……」と今のところ自称探偵に声かける。「ん?」自称探偵は近くにあったベンチで正体不明の男を座らせていた。クザヤっちが来るまでの間に訊けることは聞いておこうって思ったから。


 「なんでここに?」俺っちはそもそもの疑問をぶつけた。


「俺んとこにここの管理を委託されてる企業から依頼があったんだ。『今起きてるゴミ箱連続爆破事件、次に被害に遭うのはウチかもしれないからそれよりも前に捕まえて欲しい』ってな」


 捕まえる——


 「そういうのは、警察の仕事ちゃうんですか?」マサっちが訊ねた。


「実際にこの公園で何か爆発したり怪しげなものが見つかったわけじゃない。そんな憶測だけじゃ、もちろん色んな場所でやってるみたいに巡回強化はしてくれんだろう。だが、それ以上は望めない。まあ聞いたわけじゃないからおそらくの話にはなるが、だから俺に依頼しに来たんだろう」


 自称探偵は「便利屋とは違って、金払って依頼されたからには何でも引き受けるのが俺のモットーだからな」と補足ついでに続けてきた。で、俺っちはその聞き慣れない「便利屋?」というワードについて訊き返すと、「知らないなら別にいい」と返された。


 「そんで、犯人を捕まえたっちゅうワケですね?」マサっちが訊ねる。


「そういうことだ」


 「優秀ですねぇ……」これもマサっち。


「まあ依頼を受けてから、5日もかかっちまったけどな」


 5日ってことは土曜から、か。いや、十分早いよな……


「いや。警察は犯人の手がかりが一切掴めてないのに、それを5日で捕まえるだけで十分やと思いますけど」


 マサっちも同意見だったみたいだ。


「嬉しいこと言ってくれるね〜よし、もしなんか困ったことがあったり起きたりしたら、うちに来な。仕事は確実な分報酬は高いが、さっき褒めてくれたから多少安くしとくよ」


 「「どうも」」意図せずマサっちと揃った。


「てか、こんな時間にうろちょろしてて大丈夫なのか? 2人ともまだ高校生(・・・)だろ?」


 えっ?


「今なんて……」


 すると、自称探偵はやっぱりみたいにニヤリと口角を上げ、「2人とも高2(・・)、だろ?」とさらに詳細に訊ねてきた。

 驚いて思わずマサっちのほうを見る。それはマサっちも同じで、結果互いに顔を見合わせた。目は見開き、少し口も開いている。多分俺っちも同じ。

 だって今、学生服なんて着てないし、その要素もないはず。ましてや、学年まで当てるなど不可能なはず……


「な、なんで分かったんです?」


 マサっちが驚きを超えて少し警戒心すら見える語調で訊ねると、さっきとは異なった余裕の笑みを浮かべながら、「これで信じてもらえたかな? 俺が探偵だってこと」と言った。


 その瞬間、俺っちは思った——この人、本当に探偵なのかも……

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