第14話 織峰⑶
『人、発見。とりあえず、様子見てみるので一旦切ります。折り返しこちらから電話しますんでよろしく、どうぞー』
「了解でーす、どうぞー」
俺は耳からスマホを離し、電話を切る。で、腕時計を見て時間を確認。街灯の少ない草むらに潜んで、かれこれ3時間弱経っていたことに、少しため息をつく。
ヴゥー
“どうかしたの?”
あぁそっか。俺は「なんかあっちで人発見したらしい」と伝えると、口を開いて数回小さく頷いた。
“あっちに出たの、犯人かな?”
ファミレスでナギは爆破されてないのが唯一北区だけだということが分かり、というかマサの意図を汲み取って、北区にある公園に来た。北区には2箇所公園があり、その一方を俺とナギが、もう一方をマサとヨッシーが見張ることになった。で、動きが全くないまま時間だけが経ち、今の状況。
「どうだろ。でもマサがさっき言ってた時間帯とは重なってはいるよな」
というか、そもそも今日出るとは限らないんだよな。マサも言ってた通り、ゴミ箱の爆破は不定期だ。つまり、今日起きるかもしれないし、明日かもしれないし、明後日かも。
“話変わるんだけどさ、明日って小テストあった?”
ホントに関係ねぇな。
俺は画面から横に顔を向け「あった気もするけど、無かった気もする」と伝えた。
“せめて明日だったらよかったのにな……”
「何が?」
“コレが”
「なんで?」
“小テストの心配をしなくてもいいしさ、明日だったら夜遅くても大丈夫じゃん?”という、真面目なナギならではの発言が返ってくる。
「次の日が土曜だから?」
ナギはコクリと首を縦に振る。
「まあリーダーも早めに手を打った方がいいと思ったんじゃないのか?」
“リーダーか……”
文でも伝わる含みに俺は「何?」と聞いてみた。
“いや、ボクたちいつになったらリーダーと会えるのかなーって”
「さあなー、もしかするとずっと会えずじまいかもしれない」
“噂によるとサミットにでさえ、テレビ会議で出席らしいじゃん”
「でも、ワガママでっていうワケじゃなく、顔中に火傷の痕があるから理由がしっかりある」
リーダーはその昔、あるカラーギャングから報復を受けて家を燃やされ、命からがら逃げ出すも、顔を含めた全身を火傷するという重傷を負う。その後、報復をしたカラーギャングは壊滅し、実行犯だけでなく指示したメンバーも含め、それから見た者は誰もいない、らしい。アバウトなのは人伝に聞いた噂だから。いって仕舞えば真偽不明の都市伝説。ただ、それが広く伝わっているのは間違いないし、その恩恵はある。
「それに、ナギだって同じ境遇だったら、人前には出たくないだろ?」俺も人と会うのははばかられるし、外出することでさえためらうだろう。
“まあね”
「ま、とりあえず、頼まれたことをやりましょや」
“了解”
俺とナギは視線を正面に向け、辺りを見回す。正直言って怪しい人はどこに、どころじゃない。人がいない。歩いている人や自転車に乗ってる人、ベンチに座っている人さえもいない。人っ子一人いない状態。犯人にとっては目撃される心配がないから絶好のタイミングだとは思うんだけど……
とにかく、先ほどと変わらず、動きは全くない。景色も難易度の高い間違い探しゲームをしてるかのように、変わり映えしていない。
ヴゥー
俺はスマホを見る。
“早速ゴメン。あのさここ、少しの間任せてもいいかな?”
任せてってどういう——あっ。
「もしかして?」
恥ずかしそうに、コクリと頷くナギ。そういうことか。もう少しで口に出すところだった。危ない危ない。
「ごゆっくり」
ナギは立ち上がると、そそそそと足早に消えていった。草を踏む音を極力消そうと、慎重ながらも素早い動きだった。
そうして、1人になった俺は集中して見張りを続けた。
いない……
トントン、と不意に肩を叩かれ、俺は「おぉ!」と体を跳ねあがらせた。慌てて振り返る。
「なんだよ、びっくりさせんなよ……」
相手はナギだった。
“ゴメンゴメン”送った後に、手を合わせるナギ。
「で?」
ナギは左手に持ったガラケーを見せてくる。まだピンとこなかった俺は続けて「それがどうした?」と訊ねると、右手に持ったスマホを見せてくる。俺は続けて「何、2台持ちにしてたの?」と言うと、首を横に振って否定し、俺のポケットを指をさし、すぐに持っていたスマホを振った。
あっ、スマホを見ろってこと? 確認も込めて、開いてみるとナギから1通メールが送られていた。
「悪い。気づかなかった」と伝え、中身を確認。そこには一言、“スマホ、落ちてた”。まあそうか、ガラケー派のナギがたとえ2台持ちにするとしてもスマホは選ばないか。
「どこにあったんだ?」
斜向こうを指差すナギ。その辺りには穴の開いたモニュメントがあった。これは俺の推測だけど、その中に置いてあったんじゃないかな……
「持ち主の手がかりはないの? 中とか見てみた?」
“でも……プライバシー的なのは大丈夫かな?”
「今回は人助けのため、やむなく」
“ならよし”
ナギはスマホの側面にあるスイッチをつけが、すぐ視線を話し、自身のケータイで何かを打ち、俺に送ってきた。
“ロックかかってる”
残念。
「それじゃ、俺らがどうこうできないってことで、後で交番に届けることにしよう」
“賛成”
プルプルとスマホが震える。電話がかかってきた。相手はヨッシー。
『もしもし?』
「どうだった? さっきの」
『あぁ……えぇっとね、犯人だった』
「えっ?」
まさか、本当に犯人だったとは——
「で? 捕まえたのか?」
『うん……あっいや、捕まえてない』
「……どっち?」
『あのぉー……実はもう捕まってたんだよね』
は? 捕まってた??
「警察にってこと?」
『いや……あのさ』
ヨッシーは突然小声になる。しかも、マイク部分に手を添えているか声も少しこもっている。マサに聞かれたくないってことか?
『中央区に探偵っている?』




