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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP2〜屑籠ジャンピング〜
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第2話 織峰-おりみね-⑴

「急ぎで頼むわ」


 マサから電話を受け、俺はいつものファミレスの扉を開けた。


 髪をアッシュに染め直しに行ったその帰りだったし、距離的にも美容室から近い場所だったから、もしかしたら1番乗りかも……と思ったが、まさか、「遅い」というセリフを聞くとも、「遅れてゴメン」というセリフを吐くとも、想像してなかった。


 3人はもう既に入口の順番待ちソファーに座っていたのだ。俺は慌てて近づく。首から下げたトンボ玉の黒編紐ネックレスが揺れる。遅れが功を奏したのか、俺らは入り口から離れた場所にある、あの6人掛けのソファに案内された。ここは広々と使える上、ドリンクバーが近く、他の人から話を聞かれにくい。都合のいいことばかりあるこの席のことを、俺たち4人の間では“ラッキー席”と呼んでいる。


 店員さんが水を運んできた時、マサがメニューを開かずに「とりあえずドリンクバーで」と注文する。

 格好は、ウッドランド柄Tシャツにモノトーンスタジャンでチノパン。さらには銀髪ピアスと、見た目完全にヤンキーなのに、当の本人は「ヤンキー怖い……」と落語のようなことを言っているのだから、人は外見では判断できないということを再確認させられる。


 で、各々好きなジュースを取りに行く。

 1杯目は皆、自分の好きな飲み物を選び、席に着く。途端に早速、「3人とも“連続ゴミ箱爆破事件”のことは知っとるよな?」と訊ねてくるマサ。


 「何それ?」最初に反応したのはマサの隣で野菜ジュースを飲んでいるヨッシー。

 耳や眉毛にかかるぐらいの長さの黒髪と、マサと異なって至って普通。だけど、季節毎に色とりどりで様々な帽子を被り方や添える位置などをこだわって身につけるぐらい帽子好きだ。だから誰かに落とされたり、汚されたり、乱されたりするとビックリするぐらいに怒る。そりゃあもう長く付き合いをしている俺らでさえも軽くひくぐらい。

 ちなみに、今被っているのは冬の季節にピッタリな深緑のニット。格好は前側にポケットがあるオーバーオールで肩紐を外している。動きやすくて気に入ってるらしい。


「お前……テレビ見てへんのか? そこそこ報道されとるで」


「今さ、うちのテレビ壊れてるから情報が更新されないんだよね」


「だとしても、ネットがあるやろネットが。てか、情報源がテレビオンリーっていつの時代や」


「そう言われてもねぇー……」


「まあええわ。クザヤはどうや?」


 俺はメロンソーダに入れてあったストローから口を離す。


「もちろん——」


「ほらっ!」


「知らない」


「知らんのかい!?」


 店内に響くマサのツッコミ。

 マサの後ろに座っていたカップルが驚いて振り返り、俺と目が合う。とりあえず、「すいません」と無言で頭を下げておいた。


「おぉ〜相変わらず本場のツッコミが冴えわたっておりますね〜」


 それに気づくことなく、話を進めるヨッシー。


「茶化しとんのか! それに、あっちに住んでたのは小学生の間だけやから、俺の大阪弁は標準語混ざった変なのやって、何度も言ーとるやろ? なんか染み付いてそう話してまうけど、本場ちゃうから。参考にせんといてーな」


「安心して。参考にしたことなんてただの一度もないからさ」


 グッと親指を立てるヨッシー。目は片方閉じて、ウインク状態。


「……ナギはどうや?」


 細目になったマサは正面に座っている、ピンク髪のナギへ視線を向ける。一方のナギは、振られちゃったぁ……みたいな表情を浮かべながらも、ぶかぶかのデニムジャケットから手を出し、ガラケーに何かを打ち込み始めるナギ。いつ見ても、タイピングが早い。


 ヴゥー


 来た。俺・マサ・ヨッシーの3人は一斉にスマホのメール画面を開く。文面には、“知ってる”と書かれていた。


「ほらっ見てみぃ! やっぱナギはしっかり者や〜ちゃーんと知っとる。安心したわー、ナギにまで知らんとか言われたらもう——」


 「待って、マサっち」ヨッシーが遮る。


「何やいきなり?」


「まだ下に続きがあるよ」


 画面をスライドしていくと、そこには“……ゴメンなさい。ウソつきました”と書かれていた。


「なんっでやねん!」


 再び店内に響くツッコミ。今度は怪訝な顔でこちらを見てくるカップル。


「何でウソついたんや!?」


 ヴゥー


“知ってるって言わないと、マサに怒られると思ったから。でも書いた後で嘘ついた罪悪感が芽生えて……ゴメン”


「そんなの消しとけばいいだけの話やん。てか、俺そんなに怖いんか……」


「アレじゃない? マサのツッコミ、大声だから怖いんじゃない?」


「じゃあ小声でツッコむわ」


「いっそのこと、標準語に直してみたらどう?」


「は?」


「その方が当たりが弱くなるような気するし」


「それを……今から?」


「せっかくの機会だしさ、ほらほらっ!」


「ほらほらってなんやねん……じゃあまあ……えー3人とも知らないみたいだから、一から説明します」


 エヘン、と1つ咳をし、マサは続ける。


「連続ゴミ箱爆破事件ってのはその名の通り、ゴミ箱が連続して爆破される事件のことです。今までにも西区、東区、南区、中央区にある公園で爆破されていて、どの爆破も深夜に島の公園でっていうのが共通してるだけ。なお、犯人の目的は不明。犯行声明等のものは一切なし。警察は犯人につながる手掛かりをほとんど掴めておらず、捜査は難航しているとのこと」


「おぉーやればできるじゃん! なんかね、地方局のキャスターみたいだよ」


 褒めてるのか何なのかよく分からないフォローをするヨッシー。


「ありがとー」


 どうやら褒められたと受け取ったようです。


 「でもね——」続けるヨッシー。


「大阪弁じゃないマサっちはなんか変でね……ゴメン、ムリだわ」


 持ち上げといて平気で何食わぬ顔して落とすヨッシー。遊んでるように見えるが、そうじゃないのがこいつ。冗談じゃなく本心だからこそ余計に怖い。

 案の定、ボー然としているマサ。だが、それは少しだけ。すぐに正気を取り戻し、首を振る。そして、「お前が言うたんやろがい!!」とマサは立ち上がりながら三たびツッコミ——というかもはやただ激昂してるようにしか見えない様相を披露。

 今度は、店内中の人から見られた。恥ずかしい……


「なんやねんムリって!?」


 ヨッシーの天然に翻弄されるマサ。そんなのを横目に、俺は時計を見て、「で?」と続きを訊ねる。時間的にもそろそろ本題に戻さないと。


「ムリやで! 文脈的に考えたら『生理的に』ムリってことやで! なのに、『で?』ってなんやねんっ!?」


 なんやねんを乱用しているマサを無視して、俺は「分かったから。で?」とさらに訊ねると、深く息を吸って吐いてから、マサは「この事件の犯人を捕まえるのが今回の任務や」と告げてきた。

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