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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
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第28話 探偵⑹

「呼んだの、お前だろ?」


 沈黙を破ったのは1つ開けた右側にいる便利屋。正確には、俺と便利屋との間の沈黙。


 周りは沈黙とは程遠い状態。口元にマスクをした鑑識がうさぎの頭に白い綿毛が付いた棒でポンポン叩いてるし、刑事が刑事同士で、はたまたSWATと話をしてる。とにかく大量の様々な担当警察官が仕切りのない部屋を縦横無尽に歩いたり走ったりしてる。


 で、俺ら2人はというと、人質が解放されて今は空席の椅子に座っていた。あいつ(・・・)が来るまで帰れないらしく、立っているのがなんかメンドーになったからだ。疲れたし。


 もちろん、鑑識が色々と採取し終わってから、ちゃんと「座っていいですか?」って聞いて「いいですよ」って言われたから座ってる。勝手にじゃない。まあ、「え……?」って一瞬戸惑われたけど、勝手にでは断じてない。


 「あぁ」便利屋の問いかけに俺は答える。


「そうか」


 再びの沈黙。


 「案外あっけなかったな」今度は俺から。


 「映画とか小説とかじゃあるまいし。普通こんなもんだろ?」以外と冷静な便利屋に、「ここが普通じゃねぇ島だから、案外って言ったんだよ」と俺は告げる。それにお主だって普通じゃないであろう、ドラゴンさんよ?——俺は心の中で呟く。


 「そういや、吸わないのか?」話題を変える便利屋。


 「只今絶賛禁煙中でございまぁ〜〜ふぅ」俺はかみ殺すことなく、ありのままで思いっきり欠伸した。


「禁煙ってどういう風の吹き回しだ?」


「別に何の魂胆もないよ。ただ少し健康に目覚めただけ」


 フッと笑い、「今さら遅いよ、ヘビースモーカー」と便利屋は椅子の背もたれに左腕をかけた。

 「何事にも遅いなんてないって」俺も右腕を置き、格言っぽいことを言ってみる。


「へいへい」


 どうやら響かなかったようだ。


「先輩ーっ」


 ようやく来た——俺は視線を正面に。便利屋も同じく。


「田荘ぉー、突入前静か過ぎだって」


 走ってきた田荘は俺の目の前で立ち止まった。


「いや……気づかれ、たら、元も、子もない、でしょ!?」


 走ってきたのだろう、息が相当荒い。


「それにだ、閃光弾使うなら先に言ってくれー今回はなんとか間に合ったからいいけどさ、結構危なかったんだからな?」


 田荘は「今だけ依頼してる立場ってのを一旦置いておきます」と前置きしてから、大きく息を吸って吐いて、「メール返しましたよっ!」と叫んだ。


「そもそも、なんで2人だけで来たんですか?」


「別に危なくはないだろ?」


「そこは危惧してません! どちらかというとあちらの方が危険でした!!」


 なんか、俺が便利屋に言ったセリフと似てる……


 「それは……」便利屋が口を開く。


「探偵が暴れるから、相手が怪我するかもってことか?」


「な訳ないだろ? そこは俺じゃなくてお前。最近ご無沙汰なんだろ? エンペラーと張り合うのはさ」


「そもそも会ってさえもねぇからな」


「だからこうさ……なんていうの今までの怒りのはけ口がなくなってるから、疼いてんじゃねぇかって思ったんだ」


 「ハ? 疼いてるわけねぇだろ?」便利屋は右手関節をポキポキと鳴らし始める。「まあまあまあ! そんな、ね?」田荘は俺らの間に慌てて止めに入る。


「てかそもそも、お前が危険がどうたらって言ったからだよな?」


 不快度マックスの便利屋が田荘に訊ねる。まさかの展開に「えっ?」田荘は目を見開く。ありゃりゃ、火種が移った。

 便利屋は残ってた左手関節を同じくポキポキと。


 「えっえっえっえっ!?」首を横にブルブル震わせながら一歩一歩後ろに下がっていく。

 「な? そうだよな??」だが、便利屋も距離を詰めていく。

 「まあまあ」流石にこれ以上はマズい——俺は便利屋の肩に手を置いて、止めに入る。


「田荘だってそういう意味で言ったわけじゃないし、そんなに殺気立つな」


 ドラゴンを知ってる世代の人間にとって、これ以上恐怖なことはタイガーと同じことをされるとき以外ないだろうし、反応は皆十中八九同様なものとなるだろう。その証拠にほら、周りにいる若い警察官は皆、手を止めてる。いや、止めてない。作業はそうだけど、ブルブルと震わせている。


 便利屋は手の置かれた肩を一瞥し、ため息をつく。そして、鳴らしていた手をポケットに手を入れた。田荘と若い警察官は胸を撫で下ろす。


 「てことで——さっきは何て言いたかったんだ?」便利屋は田荘に訊ねる。


「連絡下さいって言ったのに、しなかったでしょ?」


「したじゃねぇか、ちゃんとメール……あっ、電話でってことか?」


「違います! ここへ来る前に連絡をって意味ですよっ!?」


「だってお前『連絡下さい』としか言わなかったから……」


 「また屁理屈を……」呆れ顔の田荘。


「文言に“先行ってる”って書かれてるのを見た時、俺マジでびっくりして心臓止まるかと思いましたよ」


 そんな大げさな……


「それに、言ってくれれば閃光弾とか使うって言えたんですからね?」


「一度やってみたかったんだよ。こう、大量の警察官引き連れてーのドーンみたいなのをさ」


 田荘は少し首を曲げ、頭に手を置くと、左右に首を振った。目から、やれやれ、という気持ちがにじみ出ている。目は口ほどに物を言う、とはまさにこのこと。


 「いいですか? 先輩とドラゴンさんはかなり特殊ですが仮にも——特殊って良い意味で、ですからね?」便利屋の視線を感じ取った田荘は慌てて一言付け加える。


「で?」


「仮にも、お2人は一般人です。なのに、武器を持ってる可能性のある犯人の、しかも複数人いるところに行かせたと知られたら……怒られるのは俺なんですよ?」


「そこは大丈夫だろ? お前の兄貴、警察のお偉いさんだったよな? 怒られやしないって」


 確か警察庁勤務だったような……よく覚えてない。そもそも会ったことない。


「その兄貴に怒られるんです。言っておきますけど、メチャクチャ厳しいんですからねっ!」


「まあ脱走犯を無事捕まえたどころか仲間まで一網打尽にできたんだから、それで帳消しにしてもらえ。手柄はいつも通りお前のもんだ」


「それはまあ……毎度ありがとうございます。あっそうだ。報酬についてなんですけど——」


「おうおう」


「後日岸和田所長と事務所に渡しに行く、ってことでいいですか? 所長、色々と事後処理があって忙しいらしいので」


「了解。じゃあとで見積もりをメールで送るわ。でさ——俺らはいつになったら帰れんの?」


「ああ、もう大丈夫ですよ。調書とかはいつも通りこっちで——」


 田荘のケータイが鳴った。


 「ちょっと失礼」取り出して相手を見ると険しい顔になり、「兄貴だ……」と一言。そりゃあ……御愁傷様です。


「んじゃ帰るな」


 「はい……お疲れ様でした……」見るからに元気を失った田荘はトボトボと切ない足取りで来た道を引き返していく。


 ガンバレ、田荘。


 「これで解決、か」と首を回す便利屋に、「なあ」と俺は声をかける。


「ん?」


「ぶっちゃけ……闘いたかった?」


「またか……」


「いいじゃんかよ。で? どっち?」


「昨日したばっかだからな、そこまでは」


「そこまで、ね……ハハハ。ま、バトるのはまたの機会にとっておく、ってことで」


「一応言っておくが、俺は闘わないといけない体質じゃない。その体質は単細胞の方だからな、間違えるな」


 いや、どちらもだろ。お前もエンペラーも。似た者同士ってやつ——まあいいか。


「アイツ……今どこにいんだろうな?」


 「知らん」不機嫌だからか、反応がぶっきらぼうになる便利屋。


「本当は気になってたりして?」


「興味ねぇつってんだろっ」


「またまた~」


 「……そろそろキレっぞ?」便利屋は鋭い眼光で睨みつけてくる。


「分かったよ〜んじゃまあトミーに戻りますか」


「そうだな」


「どうする? 飲み直す??」


 俺はパントマイムでコーヒーカップを傾ける動作を見せる。


「いや、飲むのはまたでいいや。BJへの袋を置いてきたから、行くには行くけど」


 袋……あぁ、あの「戦うには邪魔だから」って言ってた紙袋か。


「もしかして——中身はフィギュアか?」


「よく分かったな」


「BJに渡すものであれぐらいのデカさだったら、大体の見当はつくさ」


「ちょっと約束しててな。なんだっけな……ええっと……カツラムヨン? メヨン?」


「いや、疑問調で訊かれても俺は知らんし」


「とにかくそれを渡しに行く」


「分かった」


 俺は温かいコーヒーを求め、便利屋は荷物を取りに、マスターのいるトミーへ向かうことにした。

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