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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
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第25話 翁坂⑷

 槇嶋君と御室君の2人と別れた俺は、指定された場所へ。入り口の扉を開ける。


 「いらっしゃいませ」初老の男性がこちらを見て、微笑んでいる。


「お1人ですか?」


「いや……待ち合わせを」


 探そうとした。だが、探す必要はなかった。店内には、ボックス席の2人以外誰もいなかったからだ。俺は駆け足で向かう。


 「すいません。お待たせしました」俺は座りながら肩からバッグを下ろし、隣に置いた。

 1人は50代半ばくらいの女性で、おそらく主婦だと思う。ホットティーを飲んでいる。レモンが浮かんでいる。もう1人は30代いくかいかないかくらいのスーツを着た男性だった。仕事帰りかな……ホットコーヒーを注文したようだ。ミルクが入り、黒いコーヒーがマイルドな色になっている。


「ご注文はどうしましょう?」


 見ると、そばにはさっきの初老の男性が。いい具合に白髪が混じっており、ダンディズムに溢れている。服装とセリフからして、店員だろう。


「あー……アイスコーヒーはありますか?」


「はい」


「じゃあそれで」


 「かしこまりました」共に軽く了解の会釈をし、カウンター裏へ。


「では、早速お訊きしますが——」




「お疲れ様です」


 『おう。シザードールはどうだ?』相手は編集長だった。


「まあ、ぼちぼちといったところです」


 とりあえず、捕まえたことは伝えておかなかった。伝えたらもう記事にしようと言い出すし、それに、『一昨日のシザードールと違う』と言った槇嶋君の発言に引っかかっていた。もう少し調べてからがよかった。


『ぼちぼちなら、今からシザードール被害者に取材してきてくれ』


「えっ?」


『さっき襲われたっていう人たちと接触できてな、アポ取れたんだ。東区にあるトミーっていう喫茶店で待ってもらってる。急ぎでよろしく』


「いやでも……」


『なんだ?』 


 ……まあ情報はあって損はしないか。それに待ってもらってるのに断るのも申し訳ない。


「分かりました。すぐ向かいます」




「遭遇した時の状況をお伺いしてもよろしいですか?」


 互いに見合い、自分? そっち?? と言わんばかりに指が右往左往している女性と会社員。


 「じゃあ私から——」先に口を開いたのは女性だった。


「実を言うと、気が動転してて細かくは覚えてないんですが、いいですか?」


「問題ないですよ」


「昨日の午後1時頃だったと思います。買い物帰りに歩いていたんです。近くに建設が途中で頓挫したマンションのある道を——」


 「西区ですか?」間を割って話したのは、俺ではなく、会社員。

 「そうです」会社員のほうを見てそう返答する女性。


「一本道の?」


 そこって、槇嶋君と早乙女愛さんが襲われたのと同じ場所だ。確か、今まで固定の場所で出没することはなかったはずだけど……


「そうです!」


 えっ?


「実は俺もそこで見たんです。昨日の16時ごろに」


 えぇっ?


 そもそも、これまでにあの一本道でシザードールが人々を襲ったことはないらしい。「逃げ道がない場所なんかで襲うと捕まるリスクが高まる危険性があるから」だ。確認は取れている。しかも、シザードール本人からだから、間違いはない。


「あの、お2人にお伺いしたいのですが、その風貌はどのような?」


「自分はうさぎの着ぐるみ、みたいなのを頭だけ被ったのでした」


「同じです。私も全く同じのでした」


 これもだ。これも、さっき槇嶋君が言ってたのと同じ姿だ。

 

 ふと頭をよぎった。ここまで一致してるってことは……いや、そんなことは流石にないか——


 でも……聞かぬは損、だな。


「警官とは?」


「「会いました! すぐそばの曲がり角で!!」」

 テンションが上がっているのか、声高々に口を揃える2人。


 マジか……普通そこまで一致するか?


「あのっ、私は痩せた感じの見た目のおまわりさんだったんですけど、同じですか?」


 もう俺のことは無視で、2人の間で話が進んでいる。でも、それでより思い出されているからいい。むしろそのほうがいい。とりあえず蚊帳の外になった俺は2人の会話を逃さぬよう、聞き耳を立てた。


「いや、自分は髪をワックスか何かで固めて、オールバックにしてる、見た目ヤンキー風の警官でした」


 「そうですか……」なんか残念そうにする2人。


 まとめると——同じ場所で、今日とは違うシザードールに遭遇し追いかけられた。そして、同じ曲がりが角で警官と出会うが、その風貌は異なっている。


 つまり、警官は2人……じゃない! そうだ!


 昨日俺が取材してる時にそばにいた警官もこれらとは当てはまらないじゃないかっ!! 確か、ちょっと体育会系のマッチョタイプ。何大事なこと忘れてんだよっ、俺!


 槇嶋君たちが被害に遭った辺りに交番は1つしかない。それは、今日シザードールを連れて行ったあの交番でもある。今日会った人と昨日の人は違うからその時点で2人勤務なはず。で、目の前の2人が見たのはバラバラな風貌だから、計……4人?


 いやいや、そんなことはないはずだ。中央区のど真ん中とかだったらまだしも、ただ田園風景が広がっている西区だぞ? いくら中央区に近いとはいえ、いても多くて3人。勤務体制と時間帯から考えて、4人なんてことはまずありえない。

 というか、さっき行った交番にはそもそも2つしか机がなかったはず……どういうことだ? わけが分からなくなってきた。


 だが、間違いないと言えることは得られた。シザードールは2人いる。

 そして、あの交番には何かある——

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