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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
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第24話 小田切⑸

「せっかくの休みだったのに悪かったな」


 便利屋さんはダウンジャケットのポケットに両手を入れ、玄関前に立っている。


 「ソレハ別ニイインダヨ」玄関の扉が閉じるのを体で防ぎながら便利屋さんと話すのはぱっと見180cmの正体不明の金髪の結構カッコイイ系な白人。


 まだ日本に来て日が浅いのか、イントネーションが独特で、「我田引水」と書かれたTシャツを着ている。どこにでもいそうな、ザ・外国人感たっぷりな男性だ。


「ダメナノハ、コレダヨ」


 なのにさっき、大の大人を——しかも男を肩に軽々と担ぎ上げ出したんだ。苦痛な顔一つせず、クールなまま。

 い、一体何者なんだ?——湧いてくる疑問とともに、ある確信が芽生えた。やっぱこの島は変だ……


「ダケド……今回ハ、話シテアルヨネ?」


「ああ」


「ジャア、今回ダケハ特別。デモォー……」


「分かってるって。今度からは気をつける」


「ソウダヨ〜 ソウヤッテ、直ソウトスルノ大事ヨ」


「間違ってもいいから——だっけか?」


「ソウソウ」


 「大事だよな」と便利屋さんが言うと白人男性はコクコクと頷いた。


「ソレジャア、セッシャハソロソロ行クヨ〜」


「おう。ありがとな」


「バイバイヨ~」


 片手を振りながら、片手で担ぎ上げた溝口を抱えて、どこかへ連れて行ってしまった白人男性。閉まる玄関。


 「っし……」振り返る便利屋さん。


「何してんだ?」


 眉をひそめ出したので、俺は「あっ、いや……」とすぐに視線をそらしながら、こっそり盗み見ていた体勢を慌てて直す。居間に入って、溝口が座っていたところにデンと座る便利屋さん。


 「あの……さっきの外国の方は?」俺は便利屋の座っていたところに座り、互いに向き合っている状態で訊いて見た。


スチュワート(・・・・・・)。忍者と日本茶と動物と日本語Tシャツが好きで好きで好き過ぎて、日本に来たアメリカ人だ。俺がこの部屋の上の階にある部屋を貸してるんだ」


 そういえば、便利屋さんが大家をしていると言っていたのを思い出す。


「この空き部屋を住んでるっぽくセッティングしたのも、実はあいつなんだ」


「えっ、そうだったんですか?」


「そん時も『人騙スノヨクナイヨ』って言ってたんだけど、困ってる人がいるからって言ったら納得してくれてな。あいつ、人なり動物なり困ってるのを見ると、いつも助けてくれる」


「へぇー優しいんですね」


「あぁ、いい奴だよ」


 よっぽど可愛がっているのか、便利屋さんは褒めちぎっている。


「単細胞とは真逆だ」


 「単細……胞?」なんだそれ?

 とても気になるワードだ。人間とは真逆っていう意味なのかな? でもそれにしては、極端な例だ。


「あぁ……いや、気にしないでくれ。こっちの話だ」


 って言われても、凄い気になるんだけど……でも聞いたら怒られそうだから、やめておいた。


 すると、便利屋さんは「ああー」と欠伸をしながら、腕を空中に上げて伸びをする。


「昨日はろくに寝てねーし、今日はもう解散にすっか」


「分かりました」


 互いの本当の家に帰るため、俺と便利屋さんは部屋を、そして玄関を出る。履いた靴の先を地面へ数回叩きつける。軽くトントントンと。もう一方の足も同じことをしようとした時、便利屋さんから「鍵もらっていいか?」と手を出された。


 「あぁ、すいません」俺は慌ててポケットにしまっていた鍵を渡す。鍵を差し込み、回す。ガチャンと閉まる音が聞こえる。


「明日は何時に?」


 タイミングは便利屋さんが鍵を抜いたとほぼ同時だった。


 「明日?」なぜか疑問系で返されてしまった。


「写真の男たちを探すんですよね?」


「まあな。だが、こっから先は俺がやる。お前はもう関わるな」


 便利屋さんは鍵をポケットに放り投げた。


「お、俺も行きます。行きたいです」


 「ダメだ」便利屋さんは両手をポケットに突っ込むと、公道の方へ歩き出す。


「アンタの依頼は『クビになった理由を探ること』。それは今さっきちゃんと解決したろ?」


「でも、俺……その写真の男たちのせいで死にかけたんですよ?」


 「だからこそダメなんだ」便利屋さんは歩みを止めて、振り返る。


 えっ?


「いいか? ヤクザの金しか盗まなかった。てことはつまり、男らはそれがどんなのかをちゃんと分かった状態でやってたんだ。どこのどいつかは分からねぇが、ヤクザに喧嘩売るようなことをしたそいつらは少なくとも普通の連中じゃねえ」


 心なしか便利屋さんの声のトーンが重い。


「一緒にいてまた死にかけたらシャレにならん。もしかしたら次打たれるのは少量でも死ぬような毒薬かもしれん。だから、来るな。分かったな?」


 俺は「分かりました」と答えた。便利屋さんは俺の身の安全を考慮した上でこう判断しているのだ。少し心残りだが、俺は素直に従うことにした。


「だがまあ、片足突っ込んでんのは確かだ。何か分かったら教えるよ。だからそれまでは我慢してくれ。いいな?」


「……はい」


 「そんじゃあ、今日はゆっくり休めよ」便利屋さんはまたポケットに突っ込み、去っていった。


 これで、終わったんだ……本当に。次の瞬間、疲れがどっと襲ってきた。まぶたも重くなってきた。瞬きがスローになってきている。


 やばい……ホッとしたら眠くなってきた……


 とりあえず今日はもう帰ろう。帰って休んで、そして明日から新たな職探しをしよう。


 今度は、慎重に調べて普通の会社を選ばないと……

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