第23話 探偵⑷
「ちょうど良かった」
近づいてくる便利屋。その途中、「飲むかい?」とマスターが訊くと「頼む」と答えながら俺の左隣に座る。
「お前に渡すものがある」
「随分デカいお土産だな」俺は便利屋の持ってるフィギュアをまじまじと見る。
「あ? これじゃねえ」
「じゃあどれだ?」他に見当たらない。
「これだ」
便利屋は腰からゴミ袋を取り出す。スーパーやコンビニでもらえるような、よくあるレジ袋。透明ではないものの、どんな色の物が入れられているかはなんとなく分かる。中には黒い物体。そのフォルムに心当たりがあった。
「まさかこれ……」
俺の言い方で気づいたのか、「おもちゃじゃねえぞ」と言い、ニヤリとした。
ったく……俺は袋を手に取り、口を開ける。おそらくこれは、グロック19——オートマチックピストルの中でも特に有名。代表格と言ってもいいかもしれない。
「なんでこんなもん持ってんだ?」
「色々あってな——奪った」
俺は閉じて元あった場所に戻す。
「誰から?」
「確か……補佐。若頭、補佐」
「お前っ……ヤクザ相手に喧嘩売ったのか!?」俺は声を荒げる。
「売ったんじゃねぇ、買ったんだ」
「結果的には同じだろうが!?」
「大丈夫だよ、心配すんな」
「ハナからしてねえよ。お前はバ——アホみたいに強ぇーんだから。どちらかというと相手側の方が心配だよ」
「そういう意味じゃねぇ。もう解決したから、奪っていても特に問題はねえって意味だよ」
なわけないだろ、ヤクザから奪っておいて……
「そもそも、何でこんなモン俺に?」
便利屋は袋に手を置き、俺の方へスライドさせてくる。
「警察に知り合いいたろ?」
「ああ」田荘のことだろう。
「渡しておいてくれ」
ハァァ……
「……お前、銃刀法って法律知ってっか?」
「お待たせ……って何出してんの?」
「せめて会話に留めておいて」と静かに少し怒りながら、マスターは便利屋の前にコーヒーを置いた。「悪かったよ」元あった腰のところへ戻すと、便利屋はいつも頼んでるアメリカンを一口。と言っても、もう半分ほど無くなってる。相変わらずのハイスピード。こいつはホント、嗜むってことを知らないよな……
「ねぇ? さっきの写真の男、訊いてみた?」
「あっ」マスターに促され、思い出す。拳銃に驚いてたあまり、忘れていた……
「写真の男?」眉を中央に寄せている便利屋に俺は再びコートから取り出す。
「今この男を探してんだが、なんか知らないか?」
手首を立てて見せると、便利屋は抜き取るようにして手に取る。しばらく見つめていると、「ん?」とより眉を中央に寄せながら顔を近づける。
そして、便利屋はダウンジャケットの前方左ポケットから何かを引っ張ってきた。どうやら写真のようだ。便利屋はその2つを見比べ、頭を左右に何度も振り始める。
「同じ奴じゃないか?」2つを右手にまとめ、テーブルに置く。そして、スライド。引き寄せて、同じように見比べてみる。確かに似ているような気がする。
「これ、どこで?」
「昨日解決した依頼で手に入れたモンでな、写真の3人はラウンドって会社から2500万を盗んだ犯人グループだ」
「2500万?」
俺の驚きの声に呼応するかのように、ケータイが震えた。「来た」案外早かった。
「何が?」
「監視カメラの映像。BJに頼まれて、盗まれたうさぎの頭を探してる」
「おいおい……そんなひでぇーことあったのか?」
は?
「あぁすまんすまん、言葉足らずだった。うさぎの着ぐるみの頭が盗まれた」
「なんだ、脅かすなよ」
コーヒーを飲む便利屋。腕は両方ともテーブルに置いている。
ケータイで動画を開こうとしたが、一向に再生されない。おそらく通信速度的な問題だろう。
じゃこの間に……
「その金はいつ盗まれた?」
「3日前の夜中」
てことは、マジマが脱走した日の夜中——ピッタリだ。
「2500万っていうのは、宝石とかも含めて全部の被害総額か?」
「いや。そもそも盗られたのは金だったらしい」
盗んだのが金だけ——これもピッタリ。
すると、動画が動き出した。俺が視線をケータイに落としていると、便利屋が覗き見し始めた。見やすいよう、ケータイを横にして、間に持ってきた。
「……ちょ、巻き戻せ」
しばらく見ていたら、便利屋が手を動かしながらそう言ってきた。
「仰せのままに」俺はまた少し前に巻き戻し、再生。
「止めろっ!」
止めろってこのシーンには……
「いた……」写真を見る便利屋。俺のではなく、便利屋が元々持っていた写真。
まさか——「写ってんのか?」
「だから、そう言ったろ」
「見せろ」便利屋から奪う。当の奪われた本人は「どーぞ」と両手を小さくバンザイする。
おいおい、マジかよ……
『もしもし?』
「俺だ」BJに電話をかける。
『えっ、イッちゃん? なんで??——だってこれ……』
そう。俺は今、便利屋のケータイを使っている。
「動画見ながら電話してるから、便利屋のを借りた」
『あぁー……一緒にいるんだ』
「まあな。で、盗んだ犯人のことだが、仲間らしき人物が1人いた」
『ホント!?』
「俺に送った動画の6分30秒のところを見てみろ」
『分かった——今再生した』
「そこに映ってる、2人な」
『ここに?』
「ああ」
『だけど、このシーンには盗んで入っていったヤツ以外、他に怪しげな人なんて……』
「怪しげじゃなくて、その場にいたのは誰かで考えてみろ」
『その場に? えぇっと……えっ、いや、でも、そんな——』
どうやら気づいたみたいだな。
「それで合ってるよ」
俺は動画から顔を上げて応えた。
「もう1人はこの警官だ」




