表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
21/155

第20話 小田切⑷

 夕方、俺はラウンドの前にいた。理由はある人を待つため。


 「おう」俺を見つけて、片手を上げながらやってきた。


「昨日はご馳走様でした、増田さん」


 目の前まで来てから俺は頭を下げる。


「何度も言わなくていいんだよっ。で、どうした?」


「実は……分かったんです、俺がクビになった理由」


 俺がそう言うと目を丸くし、「ほ、本当か?」と訊いてきた。


「はい」


 「一体何が原因……」俺は言葉を遮る。


「ここではアレなんで、場所移動しても?」


 後ろを振り返って一瞥し、「あぁ……そうだな」と言ってきた。




 「どうぞ」俺は扉を開ける。少し遠かったが、ここなら大丈夫。人目につかない絶好の場所だ。「お邪魔します」玄関で靴を脱ぎ、室内へ。


 玄関から部屋へは狭い廊下がある。途中にはキッチンと冷蔵庫があり、その反対にトイレや風呂がある。その奥にはスライド式の扉が。そこを開けると、広がるは居間。真ん中には小さな四角の黒テーブルがある。


 「今飲み物持ってくるんで、どっか適当に座っててください」俺がそう促すと、「おう」と奥側に座った。

 「あれ?」ネクタイを緩めながら辺りをキョロキョロしていた。


「どうかしました?」


「いや、家具が少ないなーって」


「あぁ……家財道具は必要最低限のもの以外売ったんですよ」


「テレビも売るくらいって……結構生活苦しいのか?」


「ええ、まあ」


 ふぅー……あっ。キッチンに行こうとしてる足を止め、振り返る。


「コーヒーとお茶、どっちがいいですか?」


「じゃあコーヒーで」


 「了解です」俺は今度こそキッチンへ。




「すいません。コーヒーがなかったので」


 俺は冷蔵庫にあったお茶をコップに注いだのを2つ、テーブルに置く。で、正面に座る。


 「早速だが、何が分かったのか教えてくれ」肘をテーブルにつき、顔の辺りで手を組んだ。俺はそれに答える形で頷き、ポケットから写真を取り出してテーブルに置き、「これ見てください」スライドさせる。


「これって……うちの社長だよな?」


「はい。ですが、もう1つの顔を持っていたんです」


「顔?」


「松中組若頭としての顔です」


 眉を中央に寄せて「松中組って確か……ヤクザ、だったよな?」と言われ、俺は縦に頷く。


 「てことは……うちは企業舎弟なのか?」と言い淀みながらの問いに俺は「そういうことになりますね」と答えた。


「そんな……」


 ひどく驚いている。まあ、普通はそうだ。普通は。


 「こんなに優しそうな人なのに……」写真を手にとってそう呟くので、俺は「人は見かけによりませんから」と返した。


「すいません。ちょっとトイレに……」


「あぁ」


 俺は席を立ち、扉をスライドさせ、部屋を出た。玄関近くのトイレに向かう最中、外から着信音が聞こえる。しばらく鳴っていた、が鳴り止んだ。

 ということは……


 ガチャ——来た。


 俺はあらかじめ体を少し避けておく。2人分の幅はギリギリあるが、念のため。扉を勢いよくスライドし、俺が座っていたところに座った。


「どうも」


「誰だお前?」

 1人部屋でケータイを耳につけ、ボー然としながらそう訊ねている。


「なんだー名前知ってんのに、顔は知らねえのか?」


「……はぁ?」


「初めまして。ドラゴン(・・・・)です」


 便利屋さんは前方の双眼をまっすぐ見ている。ていうか、本当にドラゴンだったんだな。直接聞いたことなかったから確認できた。


「お、お前が……」


 よっぽど予想外だったんだろう。言葉を詰まらせている。


「ちなみに呼んでも、もう誰も来ねえよ。外で待機してたのは全員お寝んね中だ」


 便利屋さんは体を少し捻りながら視線を少し落とす。で、双方のポケットに手を突っ込んだ。


「なんだと?」


 「信じれねぇなら、証拠見せてやるよ」便利屋さんはポケットから何かを一緒に出し、その何かをテーブルに向かって投げ始めた。ケータイだ。

 「ったく、気づかれねえように倒すのには苦労したよ」と言いながら、便利屋さんは次々にケータイをテーブルに投げていき、結果テーブルの上には7個ものケータイが乱雑かつ無秩序に並べられる。


「これで信じてくれたか?」


「てかよ、1回襲撃してんだから、家が違うってことぐらい分かんだろ?」


 すると、目を見開き静かに扉の前に立っている俺の方を向き、「……ハナから俺を騙してたのか?」と睨みつけるように見てきた。


 「騙してたのはそっちの方でしょ?」俺は反論した。


「んじゃまあ、邪魔するのもいなくなったことですし、全てを教えてもらいましょうかね? 溝口(・・)さん、だっけ?」


 便利屋さんは声のトーンを脅しの声に変えて、詰め寄る。

 ホント、人は見かけによらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ