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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
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第16話 早乙女愛⑵

「槇嶋君のこと好きでしょ?」


 びっくりだった。偶然帰り道に出会って、雑談して、翔は大丈夫かなーとか思って色々話してたら、翁坂さんにそう言われたんだから。

 同時に、悲しくなった。

 だって、一昨日あったばかりの人にも見抜かれるレベルだったってことだよ? てことはつまり、もう何ヶ月も一緒にいるけどろくに話したことないクラスメイトはおろか、海陸にだって、それに翔にもきっと……ショックを隠せず、思わず俯いてしまった。


「好きですっ!」


 裏を返せば、もう隠す必要はないっ! 全て正直に言ってしまおうっ!——半分どころか半分×2、自暴自棄になっていた私は、強い口調で言い放った。


 気持ちを吐露出来たからか少しだけ気持ちが落ち着いた。だから、確認してみた——「バレバレ、ですかね?」


 どれくらいか知りたかった。バレバレの度合いを。もう全て何もかもバレバレなのか、それとも部分的にバレバレなのか——部分的にバレバレってもうなんなのかよく分からないけど、とにかくどこがバレているのか、かろうじてバレていないのはなんなのか? せっかくの機会だし、洗いざらい訊いちゃえ!!


 「そんなことないと思うよ」まさか過ぎる回答。


「ほら、記者って職業柄、そういうのに人一倍鼻が利いちゃうんだよね俺。だから他の人には大丈夫だよ——おそらくは」


 てことは……てことはだよ?


「バレて……ないですかね?」


「多分だけど、ね」


 よ……よ……よっ——「よかった〜」

 不安から解き放たれた私は自然と顔が綻ぶ。そして、ホッと胸を撫でおろした。でも、訊いてみたことはある。


「こんなこと翁坂さんに質問するっていうのは、おかしいとは思うんですけど……その私、告白したほうがいいですかね?」


 「へ?」まあ当然の反応だよね。


「思いを伝えたい、とは思ってるんです。だけど、もしフラれたら……そう思ったら、このまま話しやすい関係でずっといたい、とも思うんですよね」


 「そう、だねー……」翁坂さんは眉をひそめていた。誰がどう見ても、戸惑ってる、悩んでいると分かる。


 普段ならこんなこと相談しないけど、今日はなんか勝手に口が動く。さっきまでは知られてしまった……と思ったけど、ホッとした今では分かってくれる人がいたぁ……という安心感に変わっていたからかもしれない。


「俺も高校生ぐらいの時、好きな人がいたんだ。でも、告白はしなかった。数年後に同窓会で会ったらさ、なんとびっくり。もう結婚して子供までいた。それ聞いてさ『告白しとけばよかったかなぁー』って思ったんだよね。上手く行くにしろ、フラれるにしろ」


「心残りは、ありますか?」


「正直に言うと……あるね。でも、後悔はしてない」


 思わず、翁坂さんの顔を見た。翁坂さんは話を続ける。


「人生っていうのは選択の連続なんだ。その時々で無限に表れてくる。一体どこにそんな隠れてたんだよ!?——ってくらいにね。これが正解で、あれが不正解とか、そういうのはないんだ。どれを選んでも正解。でも時に、どれを選んだとしても不正解になってしまうようなこともある」


「それはどんな?」


「自分自身で決断しなかった時だよ。誰かの意見に流されてとか誰かの美談に惹かれてとか、そういうので決めたものはダメ。絶対に後悔する。参考にするのはいい。だけど、『あれをしなさい』って言われて『はい!』はダメなんだ。もしそれで失敗した時にそのせいにしちゃって、泥沼にはまっちゃうからね。俺はあの時、『告白しない』って自分で決断した。だから、後悔は全くないんだ」


 後悔しないために自分で決める——


「だから、早乙女愛さんも後悔しないよう自分でどうするか決めた方がいい。仲のいい友達としてい続けるか、大事な人になるために想いを伝えるか、ね」


 翁坂さんの温かい笑顔に私は自然とさっきとは違う笑みが溢れる。


「あと、誰にも言わないでよ?」


「もちろんです」


「安心した」


 互いに笑いあう。


 気付くともう十字路に差し掛かっていた。


「じゃあ私、こっちなんで……」


 左のほうを指さす。こっち方面に行くので、という意思表示。


 「あぁ、またね」そう言う翁坂さんに私は会釈をする。心からの感謝の意を込めて。やっぱり長く生きてる人って違うなぁ——私は歩みを進めながら頭の中で呟く。


 自分で考える——翔への想いもそうだけど、色んな時に使える大事なことだ。だから、考える。まだ今すぐじゃなく、ちゃんと。流されず、私の頭で考えてしっかりちゃんと——


「つ、捕まえた!」


 この声は翁坂さんだ。随分な叫び声。振り返ると、どうやら電話の相手にそう話していたみたいだ。さっきは叫んだからかろうじて聞こえたけど、それからはよく聞こえなかった。少し話してから慌てて電話を切ると、翁坂さんは来た道を駆けていった。


 記者って忙しい職業だなぁ……

 すると、スマホが震えた。今度は私だ。学生のバッグのワンタッチ式ボタンを開け、教科書やらノートやらをかき分けて、取り出す。


「もしもし?——あぁごめんごめん——えっ?……いやいや、忘れてないから——うん、すぐ帰る」


 さて、こっちも急がないと。

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