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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
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第36話 甲斐田藁⑺

 ようやく事情聴取が終わった。というより、まだ終わらなかったのが電話一本で終わりになったというのが正確な表現か。


 俺たちの事情聴取をしていたねずみ色のスーツを着た刑事、確か田荘さんとか名乗ってたっけな。


 その最中に電話を受けて、ひそひそと話していた。何やらおおごとのようにも聞こえたけど、ナンバープレートって状況がよく分からないワードが出てきたし、タメ口で緊張している素振りもなかったから、上司ではないのだろう。てか、ナンバープレートの方が大事な事件ってなんだ? まあ早く帰れたからいいけどさ。


 木田さんのことは残った警察に任せ、思ったよりも長居してしまったBJさんの診療所を出た。


「気づいた?」


「何がや」


 マサっちはズボンのポケットに手を入れて、不格好に歩いている。


「あの扉蹴破った人、ドラゴンだって」


「えぇ!」思わず顔を近づける。「あ、あのドラゴンっ!?」


「うん。警察が端っこでひそひそ話してた」


「まさかこないとこでグラニスラの生ける伝説に遭遇するとはな……半分嘘だと思ってたからな、ホンモンに会えて驚きや」


“噂だと、タイガーも島にいるらしいよ”


 ナギっちがガラケーの画面を見せてきた。


「あぁ、それは聞いたことある。この前起きたアイトドスでの籠城事件の時、中におったらしいな」


「えっ、そうなの?」眉が上がる。初耳だ。「海外で撃たれて死んだとか噂あったけど、生きてたんだ」


「今も島で住んどるらしいで」


「へぇー。なら、また噂のタイマンが起こるなんてのも、あり得たりするのかなぁ」


「ちゃうぞ」マサっちが立てた人差し指を左右に振った。「生き証人おんねんから噂ちゃう。事実や。紛れもない事実」


 はいはい。


「クザヤっちに自慢できるね」


 マサっちは片目だけ瞑り、頭を掻く。「今回はクザヤいなくて、ほんま良かったなぁ。まさかグリーンアイアンと会うなんて」


“確かに”


 二人が話しているのは、グリーンアイアンのことだろう。

 あの冷静なクザヤが取り乱したことさえある。因縁は深い。下手に出会うことは避けたい。一番はグリーンアイアンが消滅することだけど、警察でさえ手に余まりまくってる、というより警察も手を出すのを躊躇うような過激派だ。

 そう簡単に無くなることはない。ともなれば消去法で、出会わないよう祈るしかない、というわけだ。


「とりあえず今日のことは、てかグリーンアイアンのことは秘密ということで」


「りょーかい」


“了解”


 俺っちは立ち止まった。


「んで、どうする? もうこんな時間になっちゃったけど」


「ああ大食いか」マサっちも続けて立ち止まり、ポケットに手を入れながら、振り返った。「どないするナギ?」


 ナギっちも少し遅れて歩みを止めると、口を小さくとんがらせ、目を閉じた。考える仕草をする。ケータイを持った右手を地面と水平に、その甲に乗せた左肘を垂直にし、額辺りを人差し指で数回叩いている。


 少し経って、ナギっちは素早くケータイに文字を打ち込んだ。結論が出たようで、画面を見せてきた。


“別日でいいんじゃない? クザヤが来れる日とかに改めてさ”


「ナギがそう言うならそれでいいか」


「あれ? けど、期間限定ちゃうんか?? 大丈夫なんかいな」


 マサっちの問いかけに、ナギっちはコクリと縦に頷いた。


「あっそうなの?」俺っちは両眉を少し上げた。「いつまで?」


“確か、再来週だったと思うよ”


 ああ。「だったら、多少伸ばしても問題はないか」


「せやな」マサっちは空気を変えるように手を叩く。「じゃあ、普通に飯食い行きますか」


「だね」


 続けて、ナギっちも縦に二回頷いた。


「どこにするか」


「うーん」マサっちは腕を組み、虚空を見上げた。「夜遅いし……サラダバーでも行く?」


「いや、珍しっ。普通イタリアンとか中華とか和食とかやろ。なんやねん、サラダバーって?」


 マサっち、ツッコミ炸裂。


「なら……ラーメン!」


「夜遅い要素関係ないやん」


「ジャンルは、太郎系!」


「サラダバーと真逆やん。相対するところにある食べ物やん」


“乳化系スープとアブラが美味しいもんねぇ。野菜とにんにくマシマシにしてさ”


 美味しい風景を思い出しているのか、顔を綻ばせるナギっち。やはり腹が減っているようだ。


「ナギもそれでええんなら、行くか。太郎系」


「あっ、いや、冗談で言っただけなので」


“あっ、右にほぼ同じく”


「めんどくさっ。なんやねん自分っ!」


 マサっちは「ああもう!」怪訝になりながらも、スマホでネット検索し始める。


「もう近くの店でええな。夜遅いし」


 あっ、最初の要素が戻ってきた。


「ええっと、この辺だと……割とあるな」


 おおっと。こりゃかなり揉めるかもしれないぞー。


「どないしよか……悩むな」


 マサっちがそう呟いた瞬間、ケータイが鳴る。しかも、三人同時。もしかして……


“リーダーからだ”


 常にケータイを見ていたナギっちがそう入力した画面をこちらに向けた。


「さぁて、今回は何だ?」


 これまでの経験上、リーダーから同時に連絡が来る時は、何かしらの指令、もしくは命令。多分、クザヤっちの元にも行ってるはずだ。


「何?」


 メールの文面を先に読んだマサっちが甲高い声を上げた。


「どうした」


 俺っちとナギっちを交互に見る。「インビジブルを調べろ、やって」


「えっ?」


 ナギっちは眉間に皺を寄せた。


“何かあったのかな”


「かもな」マサっちはため息を漏らす。「これまでにも探してたけど、何も見つからんかった。こりゃあ、かなり手こずるなぁ」


「一体どんな組織なんだろうね……」


 物思いに耽るように、俺っちは虚空を見た。


「分からん。けど、かなり面倒な相手なのは違いない。ここまで情報が漏れないってのは、相当に結束力が固い。そういう奴ほど手強い」


“それか、優秀な奴がトップクラスにいるか”


「漏れないように徹底してるってこと? この情報社会のご時世で??」


“難しいとは思うけど、不可能ではないよね”


 ま、まあ、そうか……


「じゃあ……」マサっちは辺りを見回し、後方を指さす。「あそこのファミレスで飯食うついでに作戦会議ってことで、ええか?」


「はーい」


“はーい”


 晩飯は懸念してたよりも、遥かにあっさりと決まった。


 俺っちたちはネオンが眩しくなる大通りへ歩むのを止め、踵を返して来た道を戻っていった。

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