表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
150/155

第33話 探偵⑺

「事件の発端は二ヶ月前に起きたハッキング騒動でした」


 田荘はソファに腰掛けるや否や、「早速本題から」とたんを切って話し始めた。ケツがあるのか分からんが、どこか妙に急いでいるように見えた。


「先輩はご存知ですか?」


「ざっくりとは」


 煙草の灰を灰皿へと落とす。四分の三に短くなっている。


「会社は顧客情報等へのアクセス被害は見当たらず、大きな影響は無いと発表しました。ですが、会社は裏の人間たちの情報だとは気づいていなかったんです。いや、足跡を残さずに侵入されたがために、気づけなかった」


「その一つが朝本組の取引だった」


「ええ」


「そういや、朝本組はどうなる?」


「組長や幹部連中は暫く出られませんから、まあ解散ですかね。例の一斉検挙の後、取調べしたらまあ出るわ出るわで。対暴課が持ってた材料は大量にあったっていうのもありますけど、案外すぐにゲロりました。皆、自分の罪を軽くするために喋る喋る。互いに互いの罪をなすりつけるような状態らしいですよ」


「そうか」タバコを吹かし、話題を戻す。


「話を戻すが、その盗んだ男ってのはハッカーとしてはプロだったが、ヤクザ襲うのはビギナーだったんだな」


「あっいや実はですね、そこも複雑なんですが」田荘は眉をひそめた。「BJさんのところで捕まった彼は、ハッカーではなかったんです」


 口元で手を止め「なら、共犯がいるのか」と言ってから、煙草を口にする。


「共犯は共犯なのですが、誰かは分からないと言うんです」


 答えが見えない。「つまり、どういうことだ?」


「朝本組の取引についての情報は、知らぬ相手から受け取ったものだったんです」


 は? なんだよそれ。


 どちらにせよ犯罪だが、少しでも罪を軽くしようとしている魂胆が見え見えだ。


「おいおい」


 俺は呆れ顔で目を細める。人差し指と中指に煙草を挟んだまま、親指で耳の後ろを掻く。


「まさか警察はそんなんを信じるわけないよな」


 田荘は神妙な面持ちで膝に腕をついて、体重を乗せた。


「実は、彼が出所したのは、つい一ヶ月半前のことなんです」


 一ヶ月半……


「そうか」俺は深いため息交じりに背もたれに体重を乗せる。田荘が言わんとしていることが伝わったからだ。「時期的に不可能ってわけか」


「塀の中でハッキングなんて、やれるわけないですからね」


 そもそもネットに繋ぐ媒体がないからな。

 となると、本当のことを言ってるってことになる。俺は煙草をふかす。


「彼はヤクザなら盗んでも、警察に被害届を出すことはないと書いてあったこともあり、強奪を決断したそうです」


「そそのかされたってわけか」


「ええ」


 なんと荒唐無稽な……「誰か送ったか分からないメールを信じる間抜けがいるとはね」


「家のポストに十万が入っていたっていうこともあって、信じたようですよ。仕事も上手くいないようでしたから」


 ん? 俺は背を起こし、膝に腕をつけた。


「郵送か」


「いえ、直接」


 てことは、家を知っていた……


「メールを送った相手は調べ上げていたってわけか」


「ええ。無闇矢鱈に送ってはなさそうです。もしかすると、彼の性格や現状を考慮した上で、選んだのかもしれません」


 煙を天井へ吐く。自然と眉間に皺が寄る。


「情報を得て、計画を立てて実行したってな感じか」


「あっいえ、手順や必要な物の購入資金、成功報酬の支払いなどの詳細は、計画に乗ると返信をした後、同じくメールで指示されたそうです」


 なら、ほんとに実行しただけってことか。


「メアドで追えねえのかよ」


「サイバーセキュリティ課に調査してもらいましたが、どうやら上手いこと追跡できない仕組みになっているらしくて」


 そうか。


「さっき成功報酬と言ってたが、金の受け渡し方については? 上手く誘導できんじゃねえか?」


「完了後にブツの確認が出来次第、再度指示するとだけあり、それ以上は何も」


 要するに、手がかり無し、ってことか。


「彼は指示された通りに事前に準備を行い、計画通りにことを進め、実行。上手くはいきましたが、ブツが現金ではなく重い金塊であったこと。逃げるために用意していた車がヤクザに見つかっており、乗れなかったことが災いした。そのため、近くに停めてあった車に乗り込んだ」


「それが、依頼人の息子、木田圭祐のだった」


 田荘はコクリと頷いた。


「持っていた銃で脅迫し、運転させたものの、追っ手を見るために一瞬目を離した隙に抵抗され、盗んだ金塊が車の動きを妨げたこともあり、店に激突してしまった。怪我は負ったものの、木田さんを残し、どうにか車から逃げ出しました。その時、改造車に見せかけるため、ナンバープレートを盗んだというわけです」


 あの辺りに走り屋が多いということを知っていたのだろう。


「プレートの取り方知ってるってことは、元整備士か何かか?」


「刑務所の職業訓練で資格習得していました」


「ああ、成る程」


 俺は煙草の先を灰皿で潰した。


「社会更生のためのものなのにな」


「まったくです」


 一瞬虚な目になり視線を逸らすが、「あっ」とすぐに顔を上げた。


「そういえば、入院していることはもう話したんですか?」


 主語は無かったが、依頼人だということは伝わった。


「ああ」


「確か、島の外のでしたよね」


「まあここじゃ不安だろう」


「確かに。ならこれで、依頼は解決ですね」


「まあな」


 煙草の箱へと手を伸ばす。


「であれば、これで」


「なんだ」途中で止まる。「もう帰んのか?」


「いや、別件がいくつかありまして。ここ最近立て続けに起こったことが一気に解決したために、色々立て込んじゃいまして」


 入ってきた時から妙に慌てていたのはこのせいか。


「悪党はのさばってるってわけか。物騒な世の中だこと」


「まったくです」田荘はソファから腰を上げた。「先輩も気を付けてくださいね」


 田荘の顔は、異様なまでにニヤついていた。


「余計なお世話だってぇの」


「とりあえず、メールを送ったハッカーについてはこちらでも調べを続けます」


「ああ。まあ、ハッカーがメールを送ったかどうかも分からんがな」


「他に仲間がいると?」


「そんなに食いつくな。ただの戯言だよ」


「あぁ……それじゃあこれで」


 田荘は立ち上がり、軽く会釈をした。


「おう。色々悪かったな」


 そのまま、事務所扉へ歩みを進める。戸の前まで向かい、ドアノブに手をかけようと伸ばす。だが、その前に不意にドアが開いた。内側に開く造りのため、田荘は驚いたように肩をびくつかせた。


「あっ、田荘さん」


 田荘に隠れて見えないものの、声からして奥にいるのは女性だ。多分……


「に、西さんっ」


 やっぱりそうだ。テレビ局の彼女だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ