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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
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第32話 甲斐田藁⑹

「な、何でバレて……」


 男性は慌てて口を閉じる。


 その動作で分かったことが二つ。こいつが木田さんが話していた、目出し帽であることだということ。そして、頻繁に出していた声。顔は見てなくても、木田さんは声色で分かったんだ。


 木田さんは男性もとい目出し帽から視線を逸らさず、後退りでこちらへとやって来る。


「ど、どうして」


「僕、だね」BJさんはそう発する。「コンビニ行く時に下で見かけて、傷だらけだったからさ、助けたんだ。まさか盗っ人だとはね」


「うるせぇっ」目出し帽は語気を強める。「真っ当に働こうとしたさ。けど、周りが、社会が認めてくれない。前科モンだからって、白い目で見やがって、アイツら」


 つらつらと俯き加減で喋る目出し帽。日頃から溜まりに溜まっていた不満を独り言のように。


「ヨッシー」


 そう声をかけたのは、マサっちだ。目線だけこちらに向けている。


「ん?」


「隙見て行くぞ」


「行くぞって……」俺っちは小声で囁く。


「向こうは何も持ってへん。今しかないやろ」


 目出し帽は後ろに手を回す。何かをズボンから抜き、見せてくる。こちらに向けてきたのは、おっと、拳銃だい。


「……前言撤回や」


 マサっちは上げていた手をさらに高くした。


「おかしなマネするなよ」目出し帽は両手に持ち替える。「聞こえてんだからな」


「えっ、聞こえてたん?」マサっちは両眉を上げる。


「うん、ヒソヒソ話にしては割とデカかったからね」


 俺っちが口を真一文字に閉じると、隣でナギっちが手を上げたまま何度も頷いた。


「マジかぁ……」


 いや、そんな想定外だったぁ、意外だったぁ、みたいな顔されても……百人いたら百人が同じこと思うよ、それ。


「妙なことしたら、撃つからな」


 おお、ドラマみたい。しっかりとした脅しをかけてくる。


「一つ聞いてええか」


「なんだっ」銃口をマサっちに負ける。


「いやいや、ちょっと聞きたいことあるだけやから。何もせえへんから、そんな殺気立つなって」


「今、話す必要はないだろ」


「そんな冷たいこと言うなやぁ。この人から、あんたが車に乗りこんできてからというもの、ハンドルが重くなったり、挙げ句の果てに言うことをきかんくなったって。見た目……そんな重そうに見えへん。むしろ痩せてる方やと思うんや。スタイル抜群とは言えへんけど。もうちょいバランス良く食べぇや」


「マサっち。カッコつけて推理披露してるところ申し訳ないんだけども」


「カッコつけてへんわ!」


 炸裂するツッコミ。反応してあげないと可哀想だけど、今は無視。


「こういう状況下なんだから、本題に行こうよ」


 俺っちは視線を変える。「目出し帽さん」


「……えっ、あっ。お、俺のことか?」


 ああ、そうかそうか。「ええ、名前分からなかったんで、まあ暫定的に。どうせ本名は言いたくないでしょうし、ご容赦を」


「……なんだよ」


 うん、受け入れてくれたみたい。


「あなたが車に乗り込んだのは東区の倉庫近く。その時、あなたはリュックサックを持っていた。かなり重そうだったと伺いましたよ」


「お前ぇ……」


 木田さんを睨みつける。言ったのか許さないぞという表情に怯え、視線を逸らし、肩をすくめた。


「で、この方、実は病院から逃げ出してきたんです。どうしてでしたっけ?」


「えっ!」突然の指名に驚きながらも、俯きつつ答えを捻り出してくれた。「ええっと……自分を探しに暴力団の人間がやってきたからです」


 目出し帽は「なっ」と喉から驚きの声を出すと、瞼を大きく開いた。


「その反応、やっぱりヤクザに何かしたな」


 BJさんは腕を組む。眉間は不機嫌そうに寄っていた。


「盗んだのは、お金? それとも薬物?」


「うるさいっ!」声を荒げる目出し帽。


「ここまで来たんだ、俺はあいつらから逃げ切ってやる。島の外に逃げてやるんだ」


「どの組を襲ったのか知らないけど、君のこと追い続けると思うよ。島の中外関係なく、ね」


「うるさいうるさいっ。黙らねえと刺すぞ、コノヤロウッ!」


「刺されちゃうってさ」俺っちは隣に顔を向ける。


「怖いなぁ」目線だけ上にあげるマサっち。


「馬鹿にしてんのか」


「してるわけではないんだけどね」


「どいつもこいつもふざけやがって」


 拳銃を握る手に力がこもる。目出し帽は木田さんに睨みをきかせる。


「畜生。大人しく運転してりゃ、今頃俺は大金持ちだったのに……」


 俯きながら、目出し帽は呟く。


「てことは、お金か」


 BJさんの発言に、目出し帽は口を閉じたまま奥歯を強く噛み締めると、改めて銃口を木田さんへと向けた。


「お前のせいだっ」


 木田さんは身体を縮め、呼吸を荒くする。


「お前だけはっ」


 引き金に力が入る。


 危ないっ!


 その瞬間、部屋の扉が縦に倒れた(・・・・・)。開いたではなく、倒れた。横ではなく、縦に。

 三箇所ある蝶つがいが勢いよく飛び出し、扉は真っ直ぐ目出し帽の後頭部へ。覆い被さるようにぶつかると、そのまま顔から床へと倒れ込んだ。そのまま動かなくなる。


「大丈夫か」


 そういって部屋に入ってきたのは、茶色のダウンジャケットに濃紺のジーンズを履いた男性。片手に濃い緑色の紙袋を持ち、もう片手はポケットに入れていた。


「リュ、リュウちゃん!」


 BJさんが駆け寄る。どうやら知り合いのようだ。


「部屋の前まで来たら怒号が聞こえたんで、また難癖でもつけられたのかと思って、蹴破った」


「相変わらずだねぇ」


「悪ぃな。緊急事態ってことで、ぶっ壊しちまった。後で弁償するよ」


「いや、いいよいいよ。助けてくれたから帳消し、帳消し」


 これで解決……


「なんなんだよ」


 倒れているドアが動き出す。皆の視線が集まる。ゆっくりと起き上がる目出し帽。額を真一文字に切って、血が流れ始めていた。頬骨辺りも赤く腫れている。


「さっきから……さっきからお前ら、一体全体何なんだよっ」


 手に持っていた拳銃を、リュウちゃんと呼ばれた男性は一瞥した。


「おいおい、テメェもかよ。ったく……」


 動揺する素振りは一切ない。まるで日常茶飯事だとでもいうかのように、当たり前な様子でいる。


「あのよぉ、この島にはカタギがハジキ持っていい法律でもあんのか?」


「るせぇっ。ぶっ殺してやるっ」


 拳銃を構えようとする目出し帽。だが、その前にリュウちゃんさんは動く。重心を低くし、拳銃の銃口に右拳をぶつける。勢いに負け、伸ばした腕が内側に折れていく。銃口の反対がそのまま目出し帽のみぞおちに深く入る。

 痛みで口が開く。唾が出てくると同時に、拳銃を掴む力が緩む。その瞬間、上から銃身を殴り、床に落とす。

 そのまま、右の拳を目出し帽の顎に抉る。顔が歪み、下の白い歯が三本ほど飛ぶ。遅れて、目出し帽の体も天井に飛ぶ。例えではなく、物理的に。天井に吹き飛び、激しくぶつかったのだ。

 その後は早い。重力に負けて、うつ伏せ体勢のまま床に倒れ込んだ。これで二回目。

 もう、ほんとに動かない。いや、痙攣はしているけど、意識は失っていそう。


「口ほどにもねえな」


「「「あっけな」」」


 俺っちとマサっちと木田さんの三人、口を揃えた。


「あ?」訝しげにこちらを見る男性。


「けど、そもそもなんでここに?」


「ああ」男性は手に持っていた紙袋の取っ手を片方離す。「前に見たいって言ってから、借りて持ってきたんだ」


 取り出したのは、DVD。ケースのロゴやデザインは、B級感満載だ。


「これだったよな」


「うん、そうこれ」


 タイトルには、“ヴァンパイア(・・・・・・)VS落ち武者(・・・・・・)”と書いてあった。

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