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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
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第25話 便利屋⑹

「んじゃ、そのトレハンってヤツを開発した会社とお前ら二人は時間を通して繋がっていたってことか」


 トレハンについて軽い説明を受けた俺は話を元の軌道に戻す。


「直接的かどうかは分からないけど、間接的にはそうかも」


 飛辻は険しい表情になる。


「というと?」


「色々調べてるって話したじゃない? その時に不審な点を見つけてね」


「例えば?」


「このゲーム、どうも裏社会の人間が妙に多く利用していたんだ」


「どうしてそんなこと分かるんだよ」


「ユーザーの利用履歴を調べたんだ。やり方についてはまあ……察してくれや」


 飛辻は微笑む。不敵さも含んでいるその表情からなんとなく、よからぬことだとは分かった。


「勿論、人気ゲームだからあり得ないことじゃないし、そもそも裏社会の人間だからってやっちゃいけないわけでもない。けど、その事実を承知しているはずの会社が何もしていないっていうのは気になってね。今の社会的に何かしらの対策ぐらいはするもんじゃない。ほら、企業のイメージを保つためにもさ」


 ほう……


「けど、よくよく考えてみれば、うちに脅してくるような会社だからね、何か裏があるのかも、って考えたってわけ」


「成る程な」


「他にもある」飛辻は眉を密かに潜める。「色々とシステムを調べているうちにバグ、つまり欠陥があった。アプリとかにはつきものだが、あるのは当たり前なんだ。けど、バグを修正する作業、デバッグに違和感を感じた」


 違和感?「そりゃどういう」


「ずっと残り続けている欠陥があったんだ」



「どんな?」


「技術がなくてね、そこまでは調べられなかった。残念ながら」


「だったら、僕がお調べしましょうか?」静かに手を挙げるマニア。「なんか自分のせいで色々とご迷惑おかけしちゃってたみたいですし」


 飛辻は「いやでも」と遠慮をする。申し訳ないと思っているのか、眼は俯いている。


 話が進まん。だから「丁度いい」と、俺が切り込むことにした。


「こいつが珍しく嫌がってねえんだ。餅は餅屋で、頼みゃいい」


「けどさ」


「だったら、こうしよう。マニアは例の見張られてる奴が何者か分かるまで、俺のとこで暮らせ」


「俺のとこって、ドラさんのアパートっすか?」


「今ちょうど、一部屋空いてるんでな。布団とか必要なモンは貸してやる」


「い、いいんですか?」


「ああ。好きに使っていい」俺は飛辻を一瞥する。「だから、頼むぞ」


「了解しました」


「ちょ、ちょっと僕を介在せずに話がどんどん進んでるんだけど」


「面倒だから、勝手に進めた。いいだろ、これで」


「ねぇ、気になってたんだけど、なんでそこまでやってくれるのさ」


「世話になったお返しだ。そういうのはしっかり返さねえと気が済まねえんだよ、俺は。昔からの付き合いなら、分かんだろ」


「……はは」飛辻は堪えていた笑いを吹き出した。「じゃあ、お言葉に甘えるかな」


「あっ、であれば僕も、お言葉に甘えます」


 よし、これで万事解決。


「とはいえ、もうこんな時間だ。お前も疲れてんだろうし、とりあえず今日は休め。続きはまた明日だ」


 飛辻に視線を向け、「それでいいよな?」と問いかける。「ああ、もちろん」と返答が来る。


「んじゃ、アパートの部屋まで案内するよ」


 俺は席を立った。




「お待たせ」


 待ち合わせのトミーに、飛辻は時間通りにやってきた。近くのビジネスホテルに泊まったらしい。


「休めたか」


 いつもの予約席に腰を落とした飛辻に声をかける。


「うん、久々に午前中ギリギリまで寝られたから、もうバッチリだよ」


 親指を立てる。


「あれ、マニアさんは?」左右を見回す飛辻。表情の雲行きは少し怪しくなる。


「寝坊したんだと。もう少しで着くって、さっき連絡があった」


「そっか」飛辻は腕を組む。「もしかして、ちゃんと寝られてなかったのかね……見張られたことがあると、今もそうなんじゃないかって不安に思うもの」


「なんだ、経験したことある奴の言い方だな」


「いやいや。あくまで想像だよ想像」


 電話が鳴る。マニアか?


 相手を見ると、トクダ。そういや、例の情報の連絡、昨日は無かったもんな。


 電話に出る。「おう、トクダか」


『すいません、遅れて。もう少しで着きます』


 走っているのか、息が少し上がっているように聞こえる。


「いや、構わない」


『それで、昨日分かったことがあるので、とりあえずそのご報告だけ』


「おお、分かった」俺は腰に手を置く。


『例のバッジのヤクザなんですが、朝本(あさもと)組のものでした』


 朝本組……聞いたことはある。


『安く仕入れた木材や鉄鋼などを捌いて儲けてるヤクザです。最近はもっぱら魚介類などの食料関係がメインで、海外のマフィアと取引しているとか。昔は温厚派で通っていましたが、代替わりした今は……悪化した、というと人聞き悪いですが、まあ普通になった言いますか』


「そうか。モーストリーとの繋がりは?」


『すいません、それがまだ詳しいのが手に入っていないんです。ただここ最近、朝本組がモーストリーの入ったビルの近くでよく目撃されてるらしくて』


「目撃、というと?」


『探りを入れてるといいますか、どうやら見張ってるようでして。まあ、同じ南区にありますし、普通のことかもしれないのですけども』


 見張ってる……レッドスクランブルの奴が話していた通りだな。


「なんで見張っているのかは」


『調査中です。ですが、朝本組が最近、なんかゴタついてるらしくて、もしかするとそれが関係あるかもしれません』


「てことは、何かあったってことか」


『おそらくは』


「そうか」


『今のところこんな感じです』


「分かった。じゃ、待ってるかんな」


 俺は電話を切り、席に戻る。


「例のバッジ覚えてるか?」


「バッジ?」虚空を見つめる飛辻。「あぁ、マニアさんの家で襲ってきた奴らが話していた例の?」


「ああ。やっぱり朝本組とかいうヤクザだったらしい」


「ヤクザ……まあそんな予感はしてたけど、こう正式に言われるとちょいと緊張するよね」


 カランコロン、と入口が鳴る。マニアが扉を開けていた。俺らと目線が合うと、息を上げたマニアが申し訳なさそうな表情をして、慌てて駆け寄ってきた。

 背負っていたリュックサックをおろしながら、席に向かってくる。飛辻は少し奥にずれる。


「すいません、遅くなりました」


 息を整えながら、マニアは空いたところに腰かけた。荷物は膝の上。


「ホントにもうすぐだったんだな」


「ええまあ」


「だったら、電話しなくてもよかったのに」


「まあ、ほら、一応」


「それで、マニア」俺はテーブルに両腕を置く。「さっき、少し気づいたことがあるって話してたが」


「あっ、はい。そうなんです」


 マニアはリュックサックからノートパソコンを取り出した。


「昨日寝る前に飛辻さんから貰ったスクリプトを少し眺めてたんですが、飛辻さんの仰っていた通り、妙なところがいくつかありました」


 慣れた手つきで操作している。


「何て言えばいいんですかね……マンションの空き部屋のようなものと言えば分かりますかね? せっかく人が入れるのに無駄な空間がいくつもあるような」


「となるとやはり……」


「ええ」飛辻からの問いかけにマニアは肯きながら反応した。


「バグとして敢えて残しておいた気がします。こんな分かりやすいの、すぐ見つけられるはずですから。隠れたり逃げたりするための、いわば抜け道のようなものとして」


「ゲームの裏技みたいなことか?」俺は背もたれに寄りかかる。


「いや、ゲームとはあまり関係のない部分です。他のプレイヤーとのトークルームだったり、そういったところです」


「なんでそんなところに?」


「分かりませんが、本来のゲームとは別の狙いがあるのかもしれません。それこそ、隠したいやり取りがあったり、とか」


「そうか」俺は眉間にシワを寄せる。


 マニアは「もう少し詳しく調べてみます」とパソコンを広げた。


「あれ、ここで出来んのか」


「はい?」


 素っ頓狂な返事がくるが、俺の目配せに気づいたみたいだ。まあ、その意は、席を外してくれ、だ。


「あっそうですね。ここでは、あのー、出来ないみたいなので、別の場所で調べてきまーす」


 悟ったマニアはいそいそと、カウンターの端の席へ。マスターと「昨日はありがとうございました」「いえいえ」と、会話を交わしていた。


「なんか、彼、挙動不審だね」


 俺はテーブルに腕をついた。「俺が挙動不審にしたんだ」


「どうゆうこと?」飛辻は何故か、少し外人っぽい言い方をした。


「少しお前と話がしたかったんだ」


「話?」一笑する飛辻。「カップルじゃあるまいし……で、改まって何さ?」


「お前、俺に()ついてたろ?」

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