表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
140/155

第23話 甲斐田藁⑶

 ……って、あれ?


 鉄パイプを高く振りかぶったまま、敵方は動かない。てか、なんか、目の焦点があってないように見え……あっ、そのまま倒れ込む。


 ナギっちはぴょんと水溜りを避けるように、軽く大きく横に跳ねた。顔面から地面にぶつかる。


「こないところで時間潰してたんか」


 影で見えなかったが、後ろにスリングショットを構えたマサっちがいた。


「マサっち!」


 そう声をかけると、マサっちはスリングショットを下ろし、こちらへ歩いて来た。


「どうしてここが?」


 目の前まで来た時、俺っちはそう尋ねた。


「言ってしまえば、偶然やな」


 マサっちはスリングショットをズボンの後ろポケットへしまう。


「店の前に待っとったんやけど、いつまで経っても来うへんから、探しに少し戻ってたら」


「俺っちたちがいたのを見つけたってことか」


「そういうこっちゃ」


「こっちだって連絡してたんだよ」


「すまんすまん」マサっちは銀色の髪のてっぺんを掻きながら片目を軽く瞑った。「スマホの充電切れてもうてな、連絡できひんかったんや」


 そうだったのか、


「んで」マサっちは鼻から一つ大きな息を吐いた。「真っ昼間から物騒なモン振り回してたこいつらは何モンや?」


 ナギっちは少々苦い顔で、「あのね、グリーンアイアン」と答えた。


「えっ!?」マサっちは驚きで後ずさる。「マ、マジでかっ!?」


「うん。マジ。大マジ」


「えっ、あっ、だから顔隠して。どないしよ、俺剥き出して来てもうた」


「ま、当てた人は後ろからだし、他はみんな気を失ってるだろうから、大丈夫だとは思うよ」


「あぁ、せやな」


“けど、念のため暫くは気をつけたほうがいいかもね”


 ナギっちはそう文面を打ったケータイ画面を見せた。


「怖いこと言うな、マサっ」


「確かにそうだね」


「追い討ちかけんな、ヨッシー」


 その後ろに人影が。例の作務衣を着た男性だ。


「あ、あの……」


 少し怯えてはいるものの、さっきよりかは収まっている様子。


「この人は?」


 男性に目を向けていたマサっちが俺っちに尋ねてくる。


「グリーンアイアンに追いかけられていた人」


「何?」再び男性に視線を向ける。眉をひそめながら。「グリーンアイアンにって、自分、何をしでかしたんや」


「いや、ちょっと足元がフラついた時に、肩がぶつかってしまって。謝ったんですが、なんか慰謝料寄越せとか言われたんです」


 俺っち達は距離を縮める。


「てことはなんや、難癖つけられたってことかいな」


「そうです」


 あらら。この人、余程運が悪かったらしい。


「それで、無我夢中で逃げてたら、この変な路地裏に迷い込んで」


「ラビリンスやからな。迷路やもん、こんなん。おおかた、気づいたらここに出てきたっちゅう感じか」


「は、はい……」


 視線を逸らし、頷き交じりに返してきた。


 ん?


 その時、何かがうっすらと首元から見えた。

 これって……包帯?


 覆うように巻いてある。よく見ると、服の切れ間の手首や足首にも。もう怪我をしていたみたいだ。そう考えたら、ふと気づいたことがある。着ている洋服、これって作務衣じゃない。ほら、入院する時に着てるパジャマみたいな。正しい名前は分からないけど、病院着? とかいうやつ。


「この怪我って、グリーンアイ……いや、こいつらにやられたんですか?」


「え?」男性は視線を上げる。


「いや、包帯が見えまして」


 男性ははっと手首を掌で隠す。


「いいえ。これはまたちょっと違うんですが……」


 手首を掌で抑えるように、少し回す。


 言いたくないようだけれど、グリーンアイアンにやられたわけではないらしい。


 肩を叩かれる。見ると、ナギっちがケータイの画面を向けていた。


“念のために、病院に行った方がいいかも”


「そうだね」俺っちは男性に顔を向ける。「ひとまず病院に行き……」


「嫌だっ!」


 突然の短くも強い叫びに、皆固まる。


「ダメなんです……その、怖くて……」


「怖いって……病院で何かされたんですか」


「いえ。そうではないのですが……」


 なんとも歯切れが悪い。


「何や、言いたいことあるなら、はっきり言え」


「逃げて来たんです、病院から」


「は? 病院から?」


 おいおい、なんか訳ありな匂いがプンプンしてきたぞ。


「なら家は? 送るよ」


 首を横に振る。「今行くと……ダメです」


“ダメですって、どうして?”


 画面を一瞥し、「それは……」とまたも濁す男性。


 袖を引っ張られる。誰かは分かっている。

 顔を向けると、ナギが画面を見せてきた。


“もしかすると、家族から何か受けてたのかも”


「何かって?」


“虐待……とか”


 おっと。


 俺っちは腰を折り、耳元に口を寄せる。


「なら、なんで病院は嫌がる?」


 小声で囁く。


 ナギっちは素早く文字を打ち込む。


“家族が見舞いに来るから、とか?”


 ああ、成る程。俺っちは姿勢を戻した。逃げてきたのも病院が知らせるであろう家族に連絡される前に、と抜け出してきた。まあそうなれば、一応の説明はつく。


 いずれにしろ、このままじゃどこも行けない。埒があかない。どうしようか……


「すいません」


 ここにいる四人とは別の声が聞こえる。顔を向けると、そこには細身の男性がいた。何故か白衣を着ているため、腕に通した虹色の派手なエコバッグが映える。


「何かありました?」


「え?」


「いや、この方が着てるのって、入院着だなと思いまして。普通この格好で出歩くなんてしないですから、気になりまして」


「あぁ、いやちょっと……」


「あぁ、ごめんなさい。名乗らずに突然」白衣の男性はポケットから名刺を取り出す。「(わたくし)、この島で医者をしております、BJ(・・)と申します」




「成る程成る程」一通りの話を聞いて、腕を組みながら頷いていた。「であれば、僕が診ましょうか?」


「「「え?」」」


 俺っちとマサっち、そして入院着の男性が一斉に反応する。


「僕ね、医者は医者でも闇医者なんだよね。けど、腕には自信あり」


 力こぶを作って、叩く。闇医者って本当にいるんだ……


「まあ、詳しくは聞かないけどさ、訳ありって感じするし。ま、包帯巻き直したり少し診るぐらいなら、特別にいいよ」


 てか、闇医者って名乗るものなのか?


「嫌なら勿論いいんだけど、どう?」


 俺っちとマサっちも男性に目を向ける。


「あっ、じゃ、じゃあ、はい……お願いします」


 とりあえず、一安心……なのか?


「じゃあ、案内するよ……ええっと、すいません。お名前を伺っても?」


「あぁ」男性は少し姿勢を正した。「キダ(・・)です」


「キダさん?」


「はい。木曜の木に、田んぼの田で、木田(・・)と申します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ