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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP4〜逃走ハンティング〜
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第20話 御室⑷

「聞いていいですか?」


 もう30分以上状況に変化がない。要するに、行き詰まっている。

 だから、俺は湯瓶さんに気になっていたことを問いかけた。さっきから雑談しかしていないけど、今回のは少し違う。行き詰まりの中で感じていた、ちょっとした疑問点だ。


「何?」


「このクイズはどういった経緯で?」


「特には何も。ほら毎日ログインするとアイテム貰えるでしょう。いつもの如く開いてみたら、メッセージが来てるのを見つけて。開いたらこれが突然表示されたんだ。赤い画面だったから、例の噂のことを思い出して」


 そうか……


「それがどうかしたの?」


「そもそもの話なんですが、この隠しクイズって、公式からは何も発表されてないじゃないですか」


「そうだね。噂として広がっているだけだ。だから、隠し要素なんじゃないの?」


「確かにそう思ったんですけど、ほら、クイズの内容は公にしないとしても、『そういうのがあります。出たらラッキー〜』程度のことは公式から発表しても良くないですか。そうすればユーザーだって増えるかもしれないのに」


「クイズそのものの存在を伏せておく必要はないって事か。確かに、そう言われればそうかも」


 湯瓶さんは画面から目を話し、腕を組む。


「そう言われれば、百万円っていう賞金額だって、噂から出ていることだったよね」


「もしかすると、ですよ?」


 ちょっとした疑問点がひとつの嫌な予感に変わる。脳裏に浮かんでいる言葉を、正直に伝えた。


「このクイズ、偽物(・・)じゃないですかね」


「偽物?」


「この会社が出しているクイズじゃないって意味です」


「じゃあ、誰がこのクイズ出してるの?」


「ほら、ウイルス事件あったじゃないですか」


「あぁ……二、三ヶ月前のやつね」


「はい。あれの犯人が出しているんじゃないでしょうか。個人情報とか奪われてないと言われてますが、逆にこのクイズを与えたのではなんて」


「何の目的で?」


「個人情報を盗むため。本当はこれを解くことで、個人情報が盗まれるようにプログラムしたのかもしれません」


「それを例のウイルス事件の時に入れたと……成る程ね。けどそれじゃ、まるでトロイの木馬だな」


「え?」


「あっ、えっと……」湯瓶さんは調べ始める。「俺もなんとなく知ってるレベルで、説明できるほど詳しくないんだ。ちょっと調べてみるね」


「は、はい」


「ええっとねぇ……あっ、あったあった。一見無害そうなプログラムやデータファイル等に偽装し、その中に何かしらのきっかけで隠れていた悪意ある動作や機能する部分が活動するように仕組まれていたもののことを指す、だってさ」


 スマホに表示していた資料を読み上げる湯瓶さん。


「へぇー」


「御室君の言う通り、可能性は充分にあるね。けど、もしそうだとすると、ふたつ疑問がある」


 湯瓶さんは人差し指を立てる。


「なんで一部の人のみに出したんだい?」


「それは……噂の範囲にとどめておくため、でしょうか。あまりにも多くの人に回ってしまうと、信憑性が増してしまう。ともなれば、公式が動き出して、ウイルスを仕込んだことを嗅ぎ付けられてしまうかもしれない。であれば、ある程度の人間にだけ届くようにしたほうが、まあ勝手がいいといいますか」


「成る程成る程。じゃあ、もうひとつ」湯瓶さんは次に中指を立てる。「なんでこんなに難しいの?」


「それは……」


 確かに、そう言われればそうだ。少なくともさらに簡単にして、より多くの人の情報を盗める状態にすべきだ。


 返す言葉に詰まっていると、「ごめんごめん。御室君に言っても仕方ないよね」と湯瓶さんは続けた。


「そもそも解くことすら怪しくなってきたってことか……」


「そう、ですね……」


「「うーん」」


 口を揃えた瞬間、突然電話が鳴る。俺のだ。見ると、翔から。傘を腕にかけ、電話に出る。


「もしもし?」


『海陸君かな?』


 耳に届いたのは、少なくとも翔ではない。


「……誰ですか」


 俺は見知らぬ男の声に声をかける。


『さっきはどうも。そう言えば分かるか?』


 さっき? まさか……


「乱舞か?」


 湯瓶さんが立ち止まり、振り返った。


『おお、俺らの名前、よく知ってんな。お前らも同業か?』


「おい、翔に何したっ」


 俺が声を荒げたことで異変を感じ取ったのか、先に歩いていた湯瓶さんが小走りで戻ってくる。


 俺は耳から離し、スピーカーのボタンを押した。聞こえてくる声が大きくなり、辺りに響く。


『友達は預かった。返して欲しければ、謎を解け』


「はぁ?」


『何度も言わせるな。お前の友達の……』


 電話口が遠ざかる。『おい、名前は?』『ま、槇嶋、です』と問答が聞こえる。すぐそばにはいるようだ。


『槇嶋君を返して欲しければ、トレハンの隠し謎を解いて教えろ』


「な、なんで、そんなこと?」


『決まってんだろ、金だよ金。ゲームで謎解きするだけで、金貰えんだ。だったら、やるしかねえだろうが』


 謎を解くって、お前らはただ妨害して、誘拐しただけじゃないか。


『俺らはあんま頭良くないんだ。だったら俺らが謎解くよりも、他の奴に解いてもらった方が効率いい、だろ? だから、クイズやってたお前らに解いてもらうのが一番合理的だろ?』


「一つ確認したい」


 湯瓶さんはスマホに顔を近づけ、そう口を開いた。


『……誰だ?』


「君たちにパトカー来るの教えてあげた人」


 というか、呼んだ人……


『あぁ、あの時の。随分舐めた口調だった奴か』


 どうやら思い出したらしい。


「そもそも君らに出されている問題がどんなものかこちらは分からない。俺らも話してない。なら、同じ謎なのか分からないじゃない。なのに、誘拐して謎を解けと言われても無理があるんじゃないか。もしかしたら、無意味かもしれないぞ」


『確かにな。だったら、今確かめりゃいい』


 は?


『こっちの問題にはな、画面の左上に2とある』


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」と言っても、止めず、続けてくる。


 湯瓶さんはすぐさまクイズの画面を出した。見ながら聞く。


『画面の真ん中には、ヒハガチシバフントソウウノコと書いてある』


 確認する。同じだ。


『その下に括弧がある。中に、02200230って数字とGNって英語が入ってる』


 ここも同じ。


『どうだ?』


 嘘をついても仕方がない。違うと言っても、そうだったんですね、では、と誘拐しておいてすんなり返してもらえるなんてことは、考えづらい。どうせ、だったらこっちの謎を解け、と言われるだけのこと。状況が好転するとは考えにくかった。湯瓶さんもそう思ったのだろう、「ああ同じだ」と正直に告げた。


『これで余計な心配は無くなったな』


 相手の声のトーンが落ちる。


『いいか、問題を解け。槇嶋君を無傷で返して欲しければ、な』


「解いたとして、だ」湯瓶さんは目線を浮かばせながら続ける。「彼を無事に返してもらえるという保証はどこにある」


『そんなのどこにもない。だが、解かなかったら間違いなく無事では返さねぇ、それは保証してやる』


 流れる沈黙。


『一時間だ。その間に必ず解いて連絡しろ』


 一時間? そ、そんな無茶な……


「いいだろう」


 えっ!?


「一時間だな」と答える湯瓶さんを、俺は思わず凝視する。


『連絡はこのスマホでする。じゃ、楽しみに待ってるからよ』


 電話を切られる。湯瓶さんはすぐさまスマホの画面を切り替えた。


「ど、どうしましょう……何も分かってないのに一時間でなんて」


「大丈夫」湯瓶さんは真剣な眼差しだ。「その前に翔君を助けるから」


 え?


「た、助けるっていったって、あいつがどこいるか分からないのに」


「分かるよ、居場所」


「えっ?」


 まさかの反応に俺は思わず、場違いな音量の声をあげる。


「トレハンには、ちょうど良い機能が付いてるじゃないか」


 そう言って見せたのは、通常の、各プレイヤーごとに設定されているプロフィール画面。ヒントの購入や設定画面などにここから飛ぶことができる。


「プロフィール、ですか?」


「あれ?」すぐさま画面を戻す。「あっごめん間違えた。こっちこっち」


 少し操作して改めて見せてくる。それは、フレンドルーム。湯瓶さんがホストとして作成し、そこへ俺と翔が既に入っている状態だ。


「ルームがどうしたんです」


「忘れたのかい。このルームの特徴を」


「ええっと」俺は虚空を見つめた。「確か、ルームにいるプレイヤー同士は協力プレイができたり、チャットやGPSで繋がることができ……あっ!」


「そう」頷く湯瓶さん。「GPS(・・・)だ」


「完全に終了させない限り、ホーム画面でも電源切っても、途切れない。繋がっているはずなんだ」


 そうだ。確かそれで充電の消費が早いというのが、欠点としてプレイヤーの意見で挙げられていた。


「さっき確認したら、彼のGPSはまだ生きていた。これを頼りにすれば助けることは可能だ」


「なら、すぐに警察へ訳を話しにっ!」


「いや」手のひらを差し出してくる。「ちょいと待ってくれるかい」


 ……へ?

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