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グラニスラ〜アブノーマルな“人工島”〜  作者: 片宮 椋楽
EP1〜脱獄シザードール〜
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第10話 小田切⑵

「俺の奢りだ」


 「いやそんな——」まさかの一言に少し戸惑った。金のない俺としては嬉しいんだけど……申し訳ない。


「いいんだよっ! 誘ったの俺なんだからさ」


 テーブルには、ビールは勿論、サラダに冷奴、焼き鳥にから揚げ、枝豆にホッケの塩焼きなどなど、沢山の料理が所狭しと並べられていた。


「じゃあ……いただきます」


「おう、遠慮せずに食えよ〜」


 この人は、唯一俺のことを無実だと信じてくれている、増田(ますた)さん。普段はおちゃらけているが、やる時にはちゃんとやる頼もしい人で、仕事のことからプライベートの悩みまで話せるくらい頼れる先輩だ。

 あの一件があり、より親身になってくれて、相談に乗ってくれている。どちらかというと、「こうしたらどうだ?」とか色々とアドバイスをもらっているに近いかもしれない。


 噴水広場で便利屋と別れた後、「居酒屋に独りって寂しいからさ、今から来ない?」と電話をもらい、中央区のここへとやって来た。


 「無実の罪は晴らせそうか?」増田さんは生大を勢いよく飲む。ジョッキから口を離すと、「プフッ」と口から小さく息が漏れる。


「まだなんとも……でもとりあえず、個人で探すのはやめました」


「んん? てことは、探偵を雇ったってことか?」


 「まあそんなとこです」俺は生中を一口。


「いつから?」


「今日からです」


「ほぉー……初日の成果は?」


「それがまだよく分かんなくて……」


「まあそれもそうか。初日だもんな」


「いや、そうじゃなくて……何か得たらしいんですが、まだ曖昧だからって教えてくれなかったんです」


「おいおい……大丈夫なのか、そいつ?」


「人伝いに聞いただけですが、凄腕らしいので」


「だとしても依頼者に教えないってのはなー……小田切、そう言うのはちゃんと言ったほうがいいぞ」


「それがですね、こっちからあーだこーだって言いにくい感じで……」


 「あー成る程な。ちょっと怖い系か?」にやける増田さん。


「まあそれもなんですけど、何より報酬ゼロでやってもらっているので——」


 「何?」増田さんは枝豆に伸ばした手を止めた。


「今なんて言った?」


「えぇっと……報酬ゼロでやってもらって——」


 「雇ったのは探偵じゃないのか?」増田さんは眉をひそめる。


「はい……便利屋ってご存知ですか?」


 増田さんは背もたれにドスンともたれかかる。


「あの、ドラゴン(・・・・)か?」


 えっ?


「ドラゴン、って確か、無敵帝牙(むてきたいが)と高校時代にやりあってたっていう、アノ?」


 タイガー&ドラゴン(・・・・・・・・・)——あまりにも犬猿の仲過ぎて、つけられた2人のあだ名だ。


「あぁ、お前、あの逸話は知ってるか?」


「逸話?」


「ヤンキーの話」


 「いや……」実を言うと、そこまで知っている世代ではない。


「じゃあ教えてやる。タイガーとドラゴンがいつものごとくどっちが上か決めるために殴り合いをしていたそこへ、ヤンキーが不意打ち的に乗り込んだ。その数なんと——300」


 「さ、300!?」ヤンキーでなくても驚く人の数だ。


「なんでそんなに……」


「名を馳せようとしたんだ。当時から2人が強いってのは有名で、その他全てと比べ圧倒的だった。それこそよく、アリと象なんて例えがあるが、正直言ってそんな力の差じゃない。言うならそうだなー——ミジンコと象」


 喋りによる喉の渇きを潤そうと、増田さんは生大を3口。


「ヤンキーどもは2人が弱るまで待った。確か、30分だったと思うが、まあとにかく待ち続けたんだ。で、2人が顔や手を傷だらけにして疲弊した時、ここぞとばかりにヤンキーどもは乗り込んだ。ここぞとばかりに漁夫の利を狙ってな。勝てば一瞬で有名人だ。血気盛んに皆、バットやらハンマーやらを手に持って、だ」


「随分なズルしますね」


「ところがだ、2人は倒しちまった。300人を、ものの数分でな。で、全員片付けた後、2人は再開したんだ——素手の(・・・)殴り合いをな」

 

 俺はあまりの事実に顔が引きつっていた。


「でも、ホントにそうなのかは……」


「いや、絶対そうだ。報酬ゼロで依頼を解決してくれる便利屋は間違いなくドラゴン。なんなら賭けてもいいぞ」


「ハハ、ハハハ、ハハハハ……」


 どうやら、とんでもない人に依頼していたようだ……




 増田さんと別れ、俺は家に帰る西区にある風呂なし4畳半。他区と比べて安価な西区ということもあり、家賃は前いたとこのおおよそ3分の1。会社をクビになってからここに引っ越してきた。少しでも出ていく費用を抑えるためだ。


 鍵をポケットから取り出す。同じとこに入っていたケータイに触れる。すると、それを待っていたかのように電話が鳴る。


 見ると、噂をしてたあの人——便利屋さんからだった。


「もしもし?」


 鍵をさす。


『あぁ俺だ』


 よっ、と——開いた。


「あっどうも。どうしたんです?」


 扉を開ける。


『明日の集合時間を12時に変更したいんだ』


「12時ですね、分かりました。場所は変わらず——」


 玄関側にある部屋の電気をつける。


 えっ?


 そこには、黒いスーツを着た男3人がいた。奥の部屋に1人、玄関側に2人。皆、眉間にしわを寄せて、俺を見ている。


 ……誰?


『変わらず、なんだ?』


 その瞬間、近くの2人が俺の腕を掴んだ。自由が利かなくなり、持っていたケータイが地面に落ちる。


 ……えっえっえっえっ!?

 色んなことが一度に脳内に流れ込み、俺はパニックに陥る。まず何をすればいいのかが分からなくなったのだ。


『おい、どうした?』


 便利屋さんの声にハッと我に返った。まず何をすればいいか、それは——助けを求めることっ!


 「助けてぇー!」俺は自分の声のボリュームを最大にして叫んだ。


 イテッ——腕に痛みが走る。まるで何かを注射されたよう——あっされてる、注射……いや、何の?——いやいやいや、まだ死にたくないっ!


 あれれ? なんか眠くなってきたんだけど……えっ、いや、あっそんな、嫌だ嫌だいやだ……


 死にたくないぃ……死にたくない……


 しにたく、ない……


 しに、たく、な……


 しぃ、た、ぬ……

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