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赤の世界とソレとの出会い

「……ここは……何だ?」


別に言葉の選択を間違えたわけじゃない。「何処だ」ではなく「何だ」。それが今の俺の素直な疑問だ。

扉を抜けたその先は、ゆらゆらと揺れる明かりにぼんやりと照らされた暗がりの空間だった。向こうの扉を抜けてからこちらの扉をくぐるまでの間の暗闇で目は闇に慣れている。だから今ここがどんな場所かはすぐに見ることはできた。だが理解が追い付かない。

ここはどこかと言われれば、あの扉、ゲートをくぐった先にあるという終末の赤、ターミナルレッドの何処かであるのは間違いないだろう。じゃあ、なにかと言われれば、すぐには答えが見つからない。はたしてあったとして読めるかはわからないが案内板や表札といったたぐいのものがあるわけでもなく、あたりに人影もない。それどころか


「おい、出口はどこだ?」


そう。俺と同じ疑問を持った人がいたようだが、この空間、出口がないんだ。

俺たちが出てきた扉は、全員が通り抜けると自然にその扉を閉ざしている。試しに開けようとしてみたが、びくともしなかった。

それならと周りを確認してみたが、正直お世辞にもいい匂いとは言えない、カビた湿気と何かが腐ったような悪臭。周りを囲んでいるのは石のようだけど、表面は壁から足元までところどころに苔が生えてヌルヌルしていて、気持ちのいいものではない。なんとなく気温も低いのか、扉をくぐった時には一瞬寒いと感じたが、今は周りの人の熱気か、俺はそれほどでもない。周りの人間はそれでも寒そうにしているけど……体感温度なんて人それぞれだ。寒がりなんだろう。

そんなことよりも、だ。

出口のない閉鎖された縦穴空間。

床や壁を覆う苔やこの滑り。

湿気た冷たい空気。

俺は1つ、嫌な想像を思い浮かべてしまった。


「ここってもしかして……」

「…2、4、6……10人か。約束通り、武装はしておらんだろうな? まぁしておっても渡る際に消えてなくなっておるだろうが」


 そこまでつぶやいたところで、答えを教えてくれるだろう、文字通り天の声が俺たちの頭上から聞こえた。上を見れば結構な高さ……大人が5人くらいだろうか、この滑る壁を上るにはつらい高さの頭上に、格子状の蓋がされていた。その格子の隙間からこちらを除く人影が、ゆらゆらと揺れる明かりに浮かび上がって見える。

 あぁ、この構造。間違いない。


「……やっぱりこれ、水牢の類か……」


 アニメや漫画の世界で見たことしかないソレ。まさか実物を見る前に体感するとは思わなかった。

 周りの人間はまだこの状況を把握していないようだ。ただただ困惑しているか、中には上の人間に向かって「おい、はやくここから出せ!」なんて偉そうに命令している奴もいる。

 おいおい、お前はバカか? 友好的かもわからない人間にそんな攻撃的な態度を……この状況、かなりやばい事態だぞ。はっきりいって、俺たちの命は頭上の相手に握られている。

 もしこの状況で水でも入れられたら……

 

(……ゴクリ)


 もたらされるだろうパニックとその先に待つ最期に、背中には嫌な汗をかき、無意識に生唾を飲み込む。はは、まるで漫画の登場人物だな、これ。

 って何他人事みたいに言ってるんだ俺は。いや、おかげで少しは冷静でいられているけど、何一つ事態の好転にはなってない。さて、どうする? どうなる?


「ふむ? 状況把握に優れた人間もおるようだな。さて、それがスキルによるものかどうか……どれ」


 スキル。水牢の壁に反射してやや聞き取りづらいが、この世界特有の存在を示すその言葉に思わず耳が反応する。というか、事前に聞いていたとはいえ、本当に言葉がわかるんだな。

 それに、有無を言わさずこちらを害そうとするような様子もないし、これなら、どうにかこの状況を聞き出し、出してもらうよう、話し合いができないだろうか……


「お、おい……なんか、よくわからねぇがすげぇ嫌な感じがするんだが……なんだこれ? なんなんだよ……なんなんだよ、おい……!」


 突然、10人の中の1人の挙動が怪しくなった。落ち着きなく周りに視線を動かし、周りの人間から距離を置き壁側に動いていく。なんだいったい。そりゃ、嫌な予感はさっきからビンビンしているけど、なんでそんな周りを警戒するんだ。こっちはあんたと同じ、水牢に閉じ込められた同郷の人間だぞ。警戒するなら上の人間にするべきだろう。よくわからない。もはやどこか哀れみというか、呆れつつその男に視線を向けた。


 その時、俺はそいつと出会った。



 ――――ふわっ。



(……え?)


 ソレは、どこからともなく突然姿を現した。

 なぜかこの暗闇でもしっかりと俺の目に映る全身を黒く染めたソレ。

 あちらの世界でも毎日見かけ、時にはゴミを荒らされて嫌な思いをしたこともある。

 歩道橋の近くの樹に巣を作り、通るたびに歩行者を子供を襲う外敵と勘違いして爪や嘴をたててきた奴もいたという。

 時にはハトや猫だってその餌食になる、決して可愛いなどとは言えない、正直、あまりいいイメージを持っていない害鳥……烏。


 閉鎖された檻の中、どこから現れたかもわからないそいつは、黒い羽根を羽ばたかせ、けれどその羽音を響かせることもなくゆっくりと、無音のままに目の前の男の肩にとまった。

 あまりに静かなその光景に俺はなにも口に出せなかったが、はっと我に返る。

 普通に考えて、烏が肩にとまるとか異常事態だし、なにかあったら危険だ。なのに目の前の男はそれに気づいていないのか、まるで反応していない。教えてやらないと。


「お、おい、あんた……」

「ふむ……4人、か」


 そう思った言葉は、頭上の人間の声に遮られた。

 4人? 何が4人なのだろう……

 そう思って周囲を見渡した俺の目には、最初の男を含めて、4人の人間の肩にとまる烏と、それに気づく様子もなく頭上の人間の言葉に注視した俺以外の9人の姿が映った。

 いったい、なんなんだ……これ。

 肩に烏だぞ? なんでみんな気づかないんだ? 気づいて何も言わないのか? それこそおかしいだろう。

 というか、こいつらどこから入り込んだんだ? 烏って鳥目じゃなかったっけ?

 そういえば最近は夜中でも烏の鳴き声がすることもあるし、案外夜も目が見えているのか? あぁ、いや、そういうことじゃなくて……あぁ、わけがわからん。


 考えてももはやこの状況は俺の常識の範疇を越えている。今はもう、上の人間の話に集中しよう。さっきの4人という言葉。この状況を考えると、あまりいい言葉とは思えない。

 状況がわかっている人間ならば、簡単に想像できるだろう。

 「4人は使えるから生かしておく」のか、「4人は使えないから処分する」のか。

 さて……どう転ぶ?


「名を名乗るのが遅れたな、異界からの来訪者たちよ。我はこの王都ソルデンを統べるアセト。統治王アセトと人は呼ぶ。そなたらは今、不本意ではあろうが我が国の牢にいるわけだ」


 おいおい、まさかいきなり、国のトップのお出ましかよ。これ、いいことなのか?

 誰か教えてくれ……


遅筆に、マイペースに書いております。

何人称か、誰主観か等模索しながらですので、ぶれていることがあるかもしれません。

よろしくお願いいたします。

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