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短編コメディ

妖怪 転生トラック

作者: NOMAR

 気がつけば私はいた。私はトラック、1台のトラックである。

 人の思いを受けて、妖怪、あやかし、もっけ、と呼ばれる存在は生まれる。

 人に語り伝えられる古い妖怪、妖精などが環境が変わって顔を出しづらくなった現代。

 人の噂に乗って広まったもののほうが現れやすいようだ。

 人面犬にグレイなど。

 ほかには人の念がこもったものがある日、もののけとなる。


 私は「トラックに引かれて異世界に転生したい」という人々の思いを受けてこの世に誕生した。

 生まれたばかりの頃は己の本分に忠実に人を轢いては異世界送りにした。

 30人ほど轢いたあたりで私は自我が芽生えた。


「困るですよ! あんな乱暴者の狂信者を送り込まれてもー。どうしてくれるですか! 私、女神なのに私じゃない架空の神様崇める独裁国家が暴れまくっちゃってんですけどー!」


 背中に羽の生えた異世界の女神様に怒られて、私は自我に目覚めた。私は私の使命に従って人を轢いては異世界送りにしていたのだが、送り先のことまでぜんぜん考えていなかったのだ。

 女神様は泣いてわめいて私をバンバン叩いてワイパーをへし曲げる。ライトを蹴飛ばして割る。

 私はその女神様に謝って事態を解消するべく、はじめて思考した。考えた。うーむ、どうしよう?


 女神様の話をよく聞いて、その宗教とその乱暴者について詳しく聞く。

 む、閃いた。


 こちらの世界で家族が新興宗教に騙されて被害をうけて怨みを持っている人物。

 その中でも外人部隊で傭兵の経験のある人物を発見。

 すぐさま彼を轢いて女神様の世界に送り込む。

 あとは彼に託すとしよう。


 この一件から私は学習した。私が妖怪『転生トラック』とはいえむやみやたらと人を転生させてはいけないようだ。

 しかし、この世に転生を望む者は多く、私はその願いを受けて生まれたのだから人を転生させるのは、我が使命である。


「えっとですね。農業関係の知識のある人が欲しいんですよ」

 私の助手席に乗った神様が要求する。

 私はその話を聞きながら農業高校に進路をとる。

「大きな変化でなくていいんですよ。自然を大事にしつつ農業も発展させてもらえると嬉しいですね。だから農薬をあまり使わないオーガニック思考の優しい性格な人がいいですね」

 この神様、注文が細かい。

 候補をいくつか出して、ストーカーのようにつけ回す。

 神様はあるていど人に近づけばその人の記憶と過去が見えるので、それで神様が人を選ぶのを待つ。


「な、な、なんてかわいそうな人なんでしょう!」

 神様いきなり泣きはじめた。人の記憶を見て、いきなり同情して目の幅涙を流す。悪趣味、ではないか?

「あの人に決めました! 農業関係のスキルも十分にもってますし、何よりあの人は私の世界で幸せになってもらうことにします!」

 ならば私は私の使命を果たす。

 幻術で神様が指定した人が、赤信号を青信号に見間違えるようにして横断歩道を歩かせる。

 車道に出たところをすかさず轢く。

 任務完了。


「前に送ってもらった人ががんばってくれたのはいいんだけど、なんてゆーか、パワーバランスが崩れちゃったんだよね。そのあたり解消したいんだけど、どうしよう?」

 どうしよう、言われても。

 さて、どうしよう?

 かつて転生させた人物を思い返す。ふむ。


 前に送りこんだ人物、彼が浮気をしたことを恨んでいる元カノが見つかったので、轢く。

「相性としてはいいかな? あとはうまく対立させるのは僕の仕事ってことだね。サンキュー」

 この神様の世界はかなりファンキーなようだ。


 目の前に男が飛び込んできたので慌てて急ブレーキ。

 男にぶつかる寸前で停止。

「なんでだよ!」

 ギアをバックに入れて後退。

「轢いてくれよ! 俺もうこんな世界は嫌なんだよ! 俺を轢いてくれ! 異世界に転生させてくれ!」

 走って追いかけてくる男からバックで逃げる。

 あの男はアレだ。送ったらダメなタイプだ。

 あとで送り先の神様に文句言われるタイプだ。

 しかし人を異世界転生させるのが目的の私が、異世界の神様に気を使って人を轢かないというのは、

 ストレスが溜まる。


「こっちでね、がんばりすぎた人がいて大きな肉食獣が全滅しちゃったんだよ」

 はぁ。

「人の害にはなるんだろうけど、いないと自然環境的によくないんだよね」

 む、確かオオカミを絶滅させた結果シカなどの草食獣が増えすぎて森と農地に被害が出るケースがあるとは聞いた。

 解決するために他所の国からオオカミを輸入する案がある。


 山から降りてきて畑を荒らすクマを見つけて轢いた。

 かなりがんばった。

「これはすごい! かっこいい! 強そう!」

 好評である。


「なんでだよ、なんで俺を転生させてくれないんだよ……」

 今、助手席にはいつかの男が乗り込んでいる。

「なんでって言われてもねー……」

 運転席に乗ってる神様も困っている。

「もう嫌なんだよ。転生して幸せになりたいんだよぅ」

 本気でこの世界が嫌いらしい。

 けれどこの鬱倔とした思いが集まって私が生まれたのだからなんとも言えない。

「そんなにこの世界が嫌い?」

 神様が聞く。

「俺はもう、子供にカドミウム入りの牛乳を飲ませる仕事なんてしたくないんだよぅ」

 この男の仕事ってなんだ? 大丈夫か日本?

「僕はね、今は芸術系の技術を持ってる人を喚びたいんだ。君、絵を描ける? マンガ描ける?」

「……無理」

「そっか、残念。うちの世界の芸術レベルを一段上げられそうなら考えるんだけど」

「やっぱりなにかしら専門知識とか特殊技能がないとだめなのか?」

「そういう人は需要あるよね。もしくはなにかやってくれそうなバイタリティーの持ち主か、影響力のある人物がいいね」

「へへ、俺みたいなゴミクズはどこへいってもなにやってもダメなんだろ。わかってる。わかってんだよ」

 男は虚ろに笑いだした。あぶない、あぶなっかしい。

「いいよ、もぅ。転生しなくていいよ、死ぬよ、死ねばいいんだろ」

「えっと、君、なにか得意なこととか、できることとか」

「……TIG溶接」

「……ゴメン、うちの世界、まだ溶接の機械とか無いんだ。それに工業のレベルをあげると無粋な世界になるから趣味じゃなくて」

「停めてくれ、降りるから」

 停車して男を降ろす。

 私から降りる男に神様が話かける。

「私の知り合いの神様に工業系の技術者を欲しがってる神様がいないか聞いてみるよ。だから君も諦めないで。あと工業レベルが低い世界でも使える技術か工具そのものを造れる人なら需要あるかもよ?」

「それって、旋盤とかグラインダーをイチから造れってこと?」

「そう……なるのかな?」

「わかった。勉強してみる……」

 男は肩を落として俯いたまま去っていった。

「ままならないものだね」

 神様が呟く。人も神も妖怪もそんなものかも知れない。

「では気を取り直して、芸術家を探そう。僕としては僕の世界にない新しいものを取り入れたいんだよね。候補も決まっている」

 すでに調べてあると?

「宮〇駿さんを轢いてほしい」

 ジブッ? まて、あの人もうやらないって言ってなかったか?

「違う世界に行って若くなって新しい刺激をうけたらきっと」

 それは無理。

「え? なんで?」

 私が個人的にあの人の次回作がみたいから。


 私は妖怪『転生トラック』

 今夜も人を異世界に送るために夜道を駆ける。



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