美人さん、襲撃?
アパートの扉が開かれる。
僕はもう逃げることはできない。
ガチャリ。
その音は、ひどく冷酷で非常な鐘の音のようだった。
「ぽむ!」
いつものように、白い毛玉は僕の帰りを玄関で待ち受けていた。
扉が広くと、嬉しそうに鳴き声を上げるのが毎日の常となっていた。当然、今日もその習慣に例外はなく、いつものようにポムはぽむと鳴く。
例外があったとすれば、それは扉を開けたのが僕ではなく美人さんだというところにあるだろう。
実のところ、ポムを見られるのは一向に構わないのだ。
普通に散歩に出かけるし、それだってなにも人目の多いところを避けているわけでもない。
近所の小学生軍団に囲まれることなんかほぼ毎回だ。
どれもこれも一向に構わないのだーーーポムが犬だという認識が前提にある分には。
少しくらい変な行動を見せても、ちょっと変わった犬だなという程度で済むし、何より僕が「ポメラニアンです」の一点張りをしていればそれで押し通せる。押し通せてきたのだ。
少なくとも今までは。
しかしそれが仇となったというかなんというか。
今回の場合、根底からガラガラと音を立てて崩れているのでもはやどうするできることはない。
美人さんには、ポムが犬ではなく「ポム」であるという決定的な証拠をーーーポムが空を飛んでいるという常識的に考える犬には絶対に起こり得ない光景を目撃されてしまったからだ。
向こうはポムが普通じゃないという疑問を持ってやってきている。そして多分、それを確信に変えるために僕のアパートに押しかけてきている。
だからこそ僕は絶対にそれを阻止しなければならなかったのだ。
今となっては後の祭りであるけれども。
〇
扉を開けた人物を確認すると、ポムは非常に驚いた表情を見せた。
それはまぁそうだろう。いつもみたいに僕が帰ってくると思ったら知らない人だ。しかも美人さんだ。
驚くのは当然だ。
「ごめんよ、ポム。この人は美人さんっていって、今日はポムに会いに来たいというからつれて……」
「あぁ、やっぱりあなただったのね。やっと会えた……」
「そうそう。やっと……って、え?」
「ぽむ……」
美人さんはポムを見るなり、目に涙を浮かべて震え始めた。
その様子はまるで何年も生き別れていた兄弟と偶然再会した時のような。
ポムも驚きの表情から、徐々に嬉しさ感極まってという顔つきになっていた。
僕は頭が少し混乱してきた。どうやら事態は僕の予想の斜め上を全力疾走しているらしい。
「やっと会えたって……一体どういうことで?」
「久しぶりね!ポムーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ぽむーーーーーーーーーーーーー!!!」
「えええええええええええええええ!?」
感動の再開よろしく美人さんと白い毛玉は、涙で顔をぐしゃぐしゃに咽び泣きながら抱き合ってその場に崩れ落ちた。
一人と一匹の空間に入っていけず、僕はただ立ち往生する他なかった。
どうやらこの瞬間一番蚊帳の外にいるのは、僕であるらしい。
僕のアパートなのに。
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