後編
「ここの人たちはやさしい人たちだろ?」
シロはクロちゃんの毛をさすりながら言いました。
「そうだな、こんな俺をなぜ助けてくれるんだ?」
「ほっとけないんだよ。あんなことがあったからさ」
「あんなこと?」
シロはそれ以上語りませんでした。クロちゃんのペンキはまだ取れませんでしたが、心は以前よりも開いていきました。
さくらはペンキ屋にお母さんと一緒に向かいました。クロちゃんが元気がないのが身体についた白い模様のせいかもと考えたからです。白い模様をとれば他の仲間たちと一緒に暮らせるのではないかと思いました。
「おじさん、このペンキ取れますか?」
さくらはクロちゃんの写真を見せて言いました。
「写真だけでは何とも言えないが、このペンキを落とすのは無理だね。身体にもう付着しているよ」
おじさんは残念そうな顔で言いました。
「じゃあクロちゃんはもう助けることはできないの?」
「ああ残念だが……」
おじさんは落ち込みましたがふと思い付いたように笑顔になって言いました。
「でも他の方法で助けることが出来るかもしれないよ。カラスがどう思うかわからないけど。その方法はお譲ちゃんにはもうわかっているはずだよ」
おじさんはこれあげるからと白いペンキを渡し、にっこりと笑いました。さくらはお母さんと一緒に帰りました。なんとかクロちゃんを助けてあげたい。仲間のもとへ帰してあげたいと思いました。
その夜さくらは夢を見ました。
バターでできた坂の上にクロちゃんがいて
仲間からいじめられていました。
「クロちゃん助けにいくからね」
さくらは歯を食いしばって坂を登っていきましたが、下がツルツルしてどうしても途中ですべり落ちてしまいます。
「なんで登れないの? どうして助けれないの?」
坂の上ではクロちゃんのカアカア鳴く声だけが聞こえてきます。
「クロちゃんごめんね。本当にごめんね」
さくらは自分の情けなさにえんえんと泣き続けました。そこでさくらは目が覚めました。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
横にいたお母さんが心配そうな顔で聞いてきました。
「うん。ちょっと怖い夢見ただけだから」
「またあのカラスのせい?」
「クロちゃんは悪くないよ。わたしが悪いの……なにも出来なかったわたしが悪いの」
さくらはそう言いながら泣きはじめました。
「さくらは何も悪くないよ」
お母さんはよしよしとさくらの頭をやさしくなでました。
「ネコさんを前に飼っていて病気で死んじゃった。あのとき苦しむねこさんを助けることができなかった。かなしかった。だから今度こそはなんとか助けてあげたい」
さくらはえんえんと泣き続けました。
「わかった。ママも協力するからだいじょうぶよ。ネコさんもお空の上から見守ってるから。泣かないでって言ってるよ」
ママはさくらの手をぎゅっと握りしめました
次の学校が休みの時、さくらはクロちゃんと白いペンキ缶を並べて眺めていました。
「なんとかクロちゃんを助けたい」
その気持ちが伝わったのかあることを思いつきました。
「消せないのであれば新しく何かつくればいい」
さくらは白いペンキ缶とふでを取るとクロちゃんの身体になにやら描き始めました。
「これでよし」
なんと出来上がったのはペンキで描かれた白いハートのマークでした。
「これならみんなからいじめられないよね。みんな笑顔で迎えてくれるよね」
さくらはその白いハートを見て泣き始めました。
「ごめんね、こんな事しか出来なくて。カラスさんたちは悪くないのに、悪いことをしたわたしたちを許してね。あやまってすむ問題じゃないよね」
クロちゃんの身体にさくらのなみだがポタポタと落ちました。その瞬間白いハートはピンク色のハートへと変わりました。その姿を見てクロちゃんはカアカアと鳴きました。
さくらにはその声が「ありがとう」と言っているように聞こえました。
その後その姿を街行く人に見せるとかわいらしいと良い評判をうけました。実際に会って触りたいという人も出て、クロちゃんは周りの人から愛されるようになりました。
それを見た仲間のカラスたちが気持ちを理解してくれたのか、クロちゃんは仲間からもいじめられなくなりました。カラスが何羽も家に来て、大宴会をしたこともありました。
今クロちゃんは街の人気者として人々から愛され続けています。ピンク色のハートのマークが描かれた黒いカラスはみんなの心をしあわせいっぱいに癒し続けています。




