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5.強制フラグ発生!?

2015.3.15

後半大幅に加筆しました。

「ここは、あなたがいた世界と隣接している『ラーシェ』という世界です。所謂異世界とでも言えばわかりますか?剣と魔術、そしてあなた方の世界から伝えられたほんの僅かの科学技術が混在する世界です。こちらには時々、あちらの世界『チキュウ』から一方的に人が落ちてくることがあり、そのものずばり『落ち人』と呼ばれています。あなたも突然現れましたので、まず間違いないでしょう。ここまでで何か質問は?」

「え、っと…………あたし、転生したんじゃ……?」


 そこですか、とつっこみたかったがエリカは辛抱強くグッと堪える。


「記録でしか確認は取れませんが、落ち人の年齢が逆行していたという例はこれまでにもあるようです。違う世界に来た所為で体が異変を起こしにくくするように、ということではないかと仮説が立てられていますので、恐らくそんなところでしょう。あとは、幼い姿の方が周囲に受け入れられやすいという可能性もありますが。他には?」

「なぁんだ、チートの代償じゃなかったんだ……あ、それじゃ魔法って誰でも使えるの?」

「『魔法』はこの世界にはありませんわ?」

「え?だってさっき」

「『魔法』はありませんが、『魔術』はあります。きちんと段階を踏んで、術の構成なんかを念頭において使うのが魔術です」

「えー」


 いかにも『めんどくさい』と言いたげな声でそう言い、ぷくりと頬を膨らませる少女。

 その姿は傍から見れば確かに可愛らしいが、本性の片鱗を見せられた側からすると可愛いというよりあざといようにしか思えない。


「それじゃあさー、ほら、落ち人って珍しいんでしょ?だったら特別な才能とかあって、王子様とかが迎えに来てくれたりとかしないもの?異世界からきた女性を妻に!とかって、きゃー!でもでも、護衛についてくれてる騎士さまに横恋慕されちゃったりとか!ねっ、ねっ?」

「…………確かに、落ち人は特殊な能力を持っている例が多く、王宮で手厚く保護されたと記録にも残ってはいますが……」

「やっぱり!だったら早くその王宮とやらに連れて行きなさいよ!あーん、待ってて王子様!」

「………………」


(それより、いい加減気付いてくれないものかしら……)


 遠まわしに説明を続けるべきか、それともすぱっと切り出すべきか。少し迷ってから、エリカはため息交じりに、本当に残念だと言いたげな口調でぽつりとこぼした。


「別にあなただけが特別、ということではないんですよ?」



 思ったより冷ややかな声音になっていたらしく、身悶えていた少女の動きがぴたりと止まる。そしてきょとんと見つめ返してくる瞳を見返し、エリカはできるだけ酷薄に見えるような笑みを口元に浮かべた。


「落ち人の存在は確かに貴重ですし、特殊能力を買われて王宮で保護されることも事実です。まぁ保護と言いましても、事実上はその能力目当ての飼い殺し……とも言い換えられますが。彼ら……王族のみならず、この世界の人間にとって落ち人とは珍獣と同じ。護衛はつきますが、身の安全を確保するというよりは、むしろ逆ですね。檻に入れられる代わりに見張りがつくというだけです。そんな中で万が一にも愛が生まれないとまでは言いません。麗しい王子様や逞しい騎士様に愛を乞われることもあるかもしれません。ただ、ひとつだけ。ここはあなたのための世界ではありません。落ち人には優しい、ただそういう条件がつけられただけの、普通の世界なんです」

「…………」


 ここへ来てようやく、少女が黙り込んだ。

 泣き出しそうな、癇癪を起こす寸前のような、そんな表情で。


「それに……先ほどの言葉を聞いていて思ったのですが。あなたのいた世界も、あなたのための世界ではなかったのでしょう?」

「な、……に、いって……」

「『前は失敗しちゃって』『出られるなんて』わからない『病院』に入れられたのでしょう?それはつまり、あなたのために都合よく回る世界ではなかった、ということでは?」

「そんっ、そんな、こと」

「記録では、稀に貴方と同じようなことを言う落ち人がいたそうです。自分は選ばれたんだ、特別なんだ、そう主張して……最期には絶望してこの世を去って行った、そんな人が何人も。ですからあえて言わせていただきます。貴方が特別だというわけではないのです。それがわかった上で王族や騎士様達と恋愛がしたいと仰るのでしたら、どうぞご自由に」


 少女の心をずたずたに切り裂いている、という自覚はあった。希望も、夢も、粉々に砕いている、という自覚もある。酷いことを、と自分でもそう思う。

 だが現実を見なくては、先には進めない。この少女が口にしていたように、自分を世界の中心だと驕った結果が『病院入り』だったのなら尚更。

 また同じ過ちを繰り返さないように、鬼畜な所業だとわかっていても現実を直視させなくてはならない。



 俯いた少女は、泣いているだろうか。絶望しただろうか。

 傍から見れば非常に恵まれた環境にあるエリカが、あそこまで言うべきではなかったのかもしれない。そんな後悔にかられ、言い過ぎましたと詫びようとしたその時


「……によ。なによなによなによなによなによっ!!だったらなんだ言うのっ!?あたしはただ、愛されたかった!それだけなの!誰かに愛して欲しかった!無条件に守って欲しかった!『幸せに暮らしました』で終わりたかった!なのに誰もっ!誰もあたしのことなんか見てくれなくて……シナリオ通りにならなくてっ。どうしたらいいのよ?なんであたし、ここに落ちてきたの?なにしたらいいの?ねぇ、教えてよぉ…………あたし、どうしたらいいのよぉ……っ、うわああああああああああんっ!!」


 とうとう、彼女は泣き出した。これまでの鬱憤やこれからの不安を全部洗い流すように。

 大粒の涙がぼろぼろと頬を伝って落ちる。ぐすぐすと鼻をすすりあげながら、邸中に響くほどの大声を上げて。彼女はただ、ひたすらに泣き続けた。


 どうしたものかなぁ、と天井を仰いだエリカは、せめてもの足しにとハンカチを差し出した。

 が、一瞬視線を向けてきた少女はハンカチを通り越し、自分と同じくらい……それよりもまだ細く華奢なエリカの体にタックルするように抱きついてくる。

 背もたれがあったお陰で床にダイブすることは避けられたが、勢いあまって後頭部を椅子の背にぶつけてしまい、痛みに顔をしかめながら背中をさすってやるという困った状況になってしまった。


(寂しかったのね。……気持ちはわかるけど…………頭、痛いわ)


 瘤が出来てたらナターシャが怒るわよね、と考えてしまうあたり、まだ冷静なエリカだった。





「エリカ、今日は傍付き候補達が何人か顔を出すからね。集まったら広間に呼ぶから、支度をして待っておいで」

「傍付き!強制フラグキタコレ!」

「お願いだから黙っていてちょうだい、ユリア。後で話を聞いてあげるから」

「……はぁい」


 しぶしぶ、といった様子で後ろに下がる薄紅色の髪をした少女、ユリアを横目でちらりと確認してからエリカは小さく息をついた。



 あの日、異世界から落ちてきた不思議な少女。名を『シジョウ・ユリア』と名乗った。

 彼女は、エリカにわかる範囲で一生懸命自分の身の上を語ってくれた。

 自分は、とある作り物……彼女は『結末がたくさん用意された恋物語』だと説明したが、その物語の世界の主人公であり、かつて読者であった頃の記憶を使って登場人物全員に愛されようと考えていた。

 だがその試みはあえなく失敗、『ばっどえんど』というもので最後は心の病にかかった者が入る病院に入れられてしまったのだという。

 そんな彼女が突然5歳の頃の自分に戻り、そして異世界へと落ちてきた。

 そのことで、今度こそと興奮してしまい我を忘れてしまったのだと。


 同情の余地はあった。少なくとも、やり直し人生を生きているエリカにとっては。

 だから彼女も、出来る範囲で自分のかつての失敗と、そしてやり直しの人生を歩んでいるのだと告げて、二人は友人関係となった。


 決まりごとだからと王宮に出向いたユリアを待っていたのは麗しい王子様だけでなく、この国のために是非力を貸して欲しいと懇願する国王や重鎮達。

 少し前の彼女なら浮かれて有頂天になっていただろう誘いを彼女はやんわりと受け止め、そして魔術が使えないならせめて剣術を習いたいのだという理由で、ムキムキの脳筋である騎士団長の一人の養子となることを決めた。


 そしてある程度の実力をつけた頃、行儀見習いをしたいと言い出して逆指名したのがローゼンリヒト公爵家であったことには、家族も指名を受けた公爵やエリカでさえも驚きはしなかった。

 そうなるだろう、と誰もがそう思っていたからだ。


 そうして『シジョウ・ユリア』改め『ユリア・マクラーレン』となった8歳の少女は、ローゼンリヒト公爵家ご令嬢である同じく8歳のエリカ・ローゼンリヒト嬢の傍付き兼護衛として、公爵家に滞在している、というのが現在の状況である。




「んー、でもちょっと意外だったかなー。あたしがいることで死亡フラグ折れたと思ってたのに」


 エリカの部屋で向き合って座りながら、不満げに足をぶらぶらとさせるユリア。

 彼女はエリカの境遇を聞いたことですっかり同情し、「あたしが傍付きになれば、そいつと会わなくて済むよね!」と意気込んで養子入りした先で厳しい修行に励んだのだという。

 だが無情にも、フェルディナンドから傍付き候補を選ぶのだと聞かされ、フラグが折れなかった、これは強制フラグだったんだ、などとぶつぶつ呟いている。


「後は、エリカが他の子を選ぶとか、そいつがヤだとかって拒否ることだけど……ねぇ、そのテオドールってやつ、どんだけハイスペックなんだっけ?」

「はいすぺっく?……ああ、どれだけ才能があるかってことね?そうねぇ……」


 テオドール・ヴァイスという男(現段階では少年)は、天使の如きと称えられた美貌を持ち、子供ながらに周囲を魅了してやまない不思議な魅力を備えていた。

 性格も温和で社交的、頭の回転も速く特に水の魔術に長けた彼は、魔術を学ぶために入った国立の学園で文句なしの首席となり、熱心にスカウトされて魔術師団へと入団する。

 しかもそこそこ歴史の古い伯爵家の三男とあって、年頃の女性のみならず年配からお子様まで相当に人気の高かった、お婿さんにしたい男性ナンバーワンという人物である。


「確かお父様同士が古くからの知り合いで……まぁとにかく、数人集められた中ではほぼ彼に決まったようなもの、ってことね」

「なにそれ!それって出来レースってことじゃない!」

「できれーす?」

「最初からその人だって決まってるのに、選考会とかやるってこと!……もう、そんなんじゃ断れないってこと?」

「……どうかしら」


 もし本当にそうなら、あのフェルディナンドがあえて『集まってもらう』なんて考えるだろうか?

 彼はエリカやラスティネルのことを本当に慈しんでくれている。だからこそ、娘や息子のためにならないことは決してしないし、もし知人からの紹介でとごり押しされた場合はそれを打ち明けた上で相談を持ちかけてくれるに違いない。



 目を閉じると、優しく笑いかけてくれた顔、そして冷ややかに嫌悪感を湛えて見下す顔が浮かんでくる。


(もうあんな想いは嫌。また会って、彼を好きにならないなんて保証はないけど)


 だが、憧れていた気持ちは木っ端微塵に吹き飛んだ。彼が最初からエリカを見ようともしていなかったことにも気付いた。ならば。

 やり直せるかもしれない。今度こそ。


「…………やってみるわ。だからお願い、ユリア。何も言わずに傍にいて」

「あったりまえじゃない。あたしたち、お友達でしょ?」


 ニッと笑った顔は彼女の望んでいた『ヒロイン』の顔ではなかったけれど、それでも文句なく可愛いわと無意識に呟いたエリカの言葉に、ユリアは真っ赤になっておろおろとうろたえた。




ここまでで書き直し分は終わりです。

今後は不定期更新で続けていきます。

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