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砦攻略

R15表現有り


「私の婚約者は~」の4章をまとめたような文章が出てきます。そんなに長くありませんが知っている方は『※』で囲まれた文は飛ばし読みしていただいても結構です。





 鶏鳴けいめい正刻(午前二時)を過ぎた。外はまだ雨が降っている。ミナ嬢は小さな寝息を立てて眠っていた。その寝息が俺を安心させる。


 生きている。それだけでよかった。

 親父殿の言ったとおりだ。生きているだけでいい。俺のそばでなくても、彼女が生きているだけでいい。



 バンとの約束はあいつの横に並び立つこと。三十歳になればバンは騎士団を脱退し、王族としてこの国を支えていくことになる。脱退するまであと五年。それまでに俺は上の地位を手に入れなければならない。

 手に入れる自信はある。頭の方は普段の優柔不断さを捨てれば何とかなるだろう。キレ者と言われるまでには多少時間がかかるかもしれない。


 上の地位を手に入れる自信があるから迷う。

 ミナ嬢が襲われたのは、バンの恋人だと思われたせいだ。それも、あの馬鹿兄王のダイツの手によるものだ。今回、誤解だとわかって彼女から手を引いたとしても、俺が騎士団総指揮官の地位につけば、またいつ奴の病気が始まるともしれない。王の側にいる俺を脅す道具にと必ず彼女に目を付ける。

 このままミナ嬢と結婚すれば、奴に狙われる可能性は高い。逆に結婚しなければ、彼女はもう二度とこんな目に合うことはない。


 彼女は俺に対して好意を抱いていない。子供が欲しいと言っていただけだ。ならば俺でなくともいいはず。第五師団の赤毛の騎士もミナ嬢に好意を抱いていた。あいつでもいい。俺でなければ。


 腕の中のミナ嬢に視線を落とす。黒く長い髪に指を絡める。さらさらと流れる髪の感触が指に心地いい。柔らかな頬に触れ、唇に指を添わせる。


「…………」


 掌で顔を覆う。眉根をきつく寄せた。ぐっと拳を握る。

 俺以外の男の横にミナ嬢が並んで立つなど考えたくない。他の誰かに笑いかける姿など見たくない。ずっと俺の側にいてほしい。しかし、もう傷つけたくない。傷つけないためには、側にいないほうがいい。


 だが、離したくない!


 どうすればいい。俺はどうするべきなんだ。


 どうすればいいかわからないままミナ嬢を見下ろす。わずかに身じろぎした手が空に伸ばされる。俺はそっと小さな手を握った。見守る中、その目がゆっくりと開く。途端、ハッとしたように俺の胸板を凝視した。見上げてくる顔が赤い。自分の置かれた状況に戸惑っているんだろう。毛布にくるんでいるとはいえ、裸で抱き合っていれば当然の反応だった。


 説明しようと口を開いたとき、ミナ嬢が急に顔色をなくした。そのまま小さく震える。

「ミナ嬢?」

 問いかけても返事はない。体の震えが大きくなる。彼女の心を支配しているのはおそらく気を失う前の恐怖。頭を抱えるミナ嬢を抱きしめる。少しでも安心させたかった。


「いやぁっ!」


 拒絶の声とともにミナ嬢が腕から逃れる。はっきりとした拒絶に眉をひそめた。

 極端な恐怖を体感した後、時々こういった恐慌状態に陥る者がいる。放っておけば自身の体すら傷つける可能性がある。階段を転げ落ちたり、壁に激突したりするのだ。おそらくミナ嬢もそうだろう。対処法は殴ってでも意識をこちら側に戻す。だが、俺が彼女に手を上げられるわけがない。押さえつけて名を呼ぶ以外に思い付かない。

「ミナ嬢!」

 毛布を振り払ってベッドから逃げようとする腕を捉えて引き寄せた。視線を合わせるが、その目は俺に向けられていても、俺を見てはいなかった。見えているのはおそらくあの男。彼女を襲った黒尽くめの男だ。


「ミナ嬢、落ち着け。もう大丈夫だ」

 抱きしめれば反発された。暴れる腕を捉える。強引にすれば彼女を傷つけてしまう。細心の注意を払って細い腕をとった。


「……っつ!」

 その腕に鋭い歯で噛みつかれた。両手と両足を使って必死に俺から逃げようとする。


「ミナ嬢っ、俺を見ろ!」


 それでも呼びかける。逃げようとする体の上に跨る。足を体で押さえつけた。腕をからめ取ってベッドに押し付ける。それでも逃げようとするその姿に心が痛んだ。こんな状態にさせたのは他ならぬ俺だ。


「ミナッ!」


 上から圧し掛かるようにして彼女の名を叫ぶ。ビクッとミナの体が震えた。黒い瞳が彷徨い、俺の顔で止まる。ぼんやりしていた瞳に光が戻った。


「バラク様……」

「俺がいる。もう、大丈夫だ」

 静かな声音で語りかけると、彼女の頬を涙が流れた。


 押さえつけていた手を離す。愛しさに頬に触れようとして、俺は視線を下に向けた。そのままその場所に視線が釘付けとなる。


 毛布を振り払って暴れた彼女は下着一枚の姿。先ほどまではミナを呼び戻すのに必死で意識していないかった。が、一旦意識するとそこにばかり視線がいく。泣く彼女を襲ってしまいそうになる。もう離れるとか離れないとかどうでもよくなってくる思考を振り払う。跨っていたミナの上からゆっくり体をずらした――ら、手を掴まれた。


「い……行かないで。一人はやだ」

 縋る瞳。俺の腕を掴む細い指。

 胸が痛い。心臓が痛い。そして下半身が痛い。


 泣きじゃくって抱き着いてくるミナを支えながら、俺は彼女と自分の欲望をずっとなだめていた。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



「ごめんなさい」

 腕の中に再び納まったミナがぽつりと謝る。腕に噛みついたことだろう。だが、俺もイロイロと謝ることがある。

 毛布でぐるぐる巻きにしたミナを胡坐の上に乗せている。微妙に彼女の尻の位置をずらして欲望に触れないようにしていた。離れて座らないのは俺が下着姿だからだ。隠すためにはこうするしかなかった。気付かれたら平謝りするしかない。


「これくらいなんともない。それよりミナが無事でよかった」

 何ともない風を装って答えた俺の言葉に、ミナが顔を上げる。

「バラク様、今の……私の名前」

 そういえば、さっきから『嬢』を付けずに普通に呼んでいた。あまり意識していなかったが、こうして呼ぶのも悪くない。


「嫌か?」

 聞くとうつむいて首を振る。少しだけ安堵した。好きという感情はなくても、嫌われてはいないらしい。

 俺は内心嘆息する。

 彼女の行動に一喜一憂。もう手放すには手遅れなんじゃないだろうか。特に俺の方が。



「あの、バラク様。聞いてもらえませんか? 私の家族の話」

 うつむいたまま彼女が唐突に告げた。

 そういえば、次に会った時に話したいことがあると言っていたな。何の話かと思えば家族の話だと?


「エルディック家のことか?」

「違います。私の本当の家族です。聞いてもらえます?」

「もちろんだ」


 言葉に困惑したまま俺はうなずく。

 本当の家族。これが意味するものは、エルディック家がミナの本来の家族ではないということだ。

 俺は困惑したまま彼女の言葉に耳を傾けた。





 ※※※ ※※※ ※※※





 この世界とは全く別の世界――異世界。そこからミナは落ちてきたという。それが今から八年前。

 異世界に残してきた両親と兄。大切にしていた本来の家族と離れ離れになった。しかも彼女は自分の言葉で家族を傷つけたままここに落ちてきた。取り返しのつかないことをしてしまったと語る彼女の横顔が、子供のようで、しかし大人びていた。

 この世界で初めて会ったのがエルディック夫妻だという。それに現在も店で働いているカリナという女性がここでの家族になってくれた。

 五年かけて店を大きくしたこと。夫妻から養女にと言われて受け入れたこと。


 驚いたのは、ミナの本来の兄上殿が俺と同じような戦士であることだ。毎日国を守るためにと鍛えているらしい。ミナが上背のある俺を恐れない理由は、そのあたりにあるのかもしれない。兄上殿と俺とを重ねていたんだろう。



 俺は話を聞きながらも安堵する。平和な国といえども盗賊や野盗はいる。この世界に落ちたときにそういったものの手に渡っていれば、彼女は間違いなく身売りされていただろう。


 この国に落ちて最初に出会ったのが、心優しい夫妻であったことに感謝せずにはいられなかった。





 ※※※ ※※※ ※※※





 遠い異世界の話。正直に言えば、ほとんど理解が及ばなかった。車、振袖、コンビニ、マンホール。聞いたことのない単語の羅列。時々彼女の口から出てくる意味のわからない言葉は、その異世界のものなのだろう。

 異世界の家族。大切に思っていた人を傷つけたままこの世界に来たミナ。どれだけ辛かっただろう。どれほど後悔しただろう。


 だが、ここで疑問が出てくる。なぜそれだけの過去がありながら、ミナはこんなに前向きでいられるのか。彼女の瞳は常に前に向けられたまま、後ろを振り返ることがない。大切な人を傷つけたというなら俺も彼女も同じなのに、俺は今も後ろ向きな考えのままだ。ミナを手放すことしか考えていない。


 俺は小さく息をついて思考を切り替えた。

 今の話で確かなことは、ミナが俺を信頼してくれているということ。この話は彼女の家族しか知らないという。それともう一つ。異世界への帰り道がないと言ったこと。異世界など俺にはさっぱりわからないが、ミナはそこへは帰らない。ずっとここにいる。この国に。

 自然に笑みが浮かびそうになって慌てて感情を抑える。ミナが生まれ故郷に帰れないことを喜んでどうする。不謹慎だ。そう思いながらも、胸の内は喜んでいた。


 ふと腕の中を見れば、ミナが俺を見上げていた。

「拒否権がないなんて言わないでくださいね。私との結婚を考え直すなら、今しかないです」


 言葉に目を見張る。考え直す? 何故考え直す必要がある。自分が異世界の人間だからと俺に遠慮しているのか? 馬鹿馬鹿しい。俺がそんな程度でミナを手放すわけが――


 いや、手放す……のか。ここで断れば、この話はなくなって彼女は平穏に暮らせる。


 だが、その前に俺の傷の話をしなければならない。

 この結婚の話がなくなったとしても、バンとの誤解がある以上しばらくは彼女の周りに危険が及ぶ可能性がある。俺と母上殿が傷を負うことになった話をして、ミナに危機意識を持たせればいい。泣かせることになるかもしれないが、俺はそれ以外に彼女を説得できるだけの話を持っていない。


「返事の前に、俺も聞いてもらわなければならない話がある」

 俺は告げた。

 ミナは話の内容がわかっているのか、視線を俺の胸にある傷に向けた。そっと胸の傷を辿る指の感触に、背筋がゾクリと震える。

「聞きたいです、バラク様の話。どんな話でも」

 見上げてくる黒い瞳を見つめ、俺はミナを抱く腕に力をこめゆっくりと話した。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 毛布を頭からかぶってミナが泣いている。俺はその頭に手を乗せた。

 やはり泣かせてしまった。俺と母上殿の傷が出来た要因を話した。母上殿の背中に傷があり、それを俺が斬りつけたことも話した。そして現公王である馬鹿兄王の話。ミナは話を聞きながら、自分が痛いわけでもないのに、俺の傷を見ながら眉を下げ必死で涙をこらえていた。話し終ったら泣き出して毛布の中に隠れた。


「泣くな」

 そう諭しても、涙声でしゃくりあげながら泣いてないと言い張る。

「ミナに泣かれると、どうしていいかわからない」

 抱きしめる以外になだめ方がわからない。頭に頬を摺り寄せたらその額を手刀で叩かれた。

 再度の言い訳も涙声。それに苦笑すると、バシバシ手刀が降ってきた。その腕を捕えて抱きしめる。ミナは俺の胸で声を押し殺して泣いていた。



「俺が怖くはないか?」

 しゃくりあげる声が聞こえなくなってから俺は聞いてみた。この質問は出会ってから何度目になるだろうか。

 毛布をかぶったままミナが呆れたような声を出す。何度も聞いているのにと思っているんだろう。だが、今回ばかりは今までと意味が違う。


「俺はこれから上の地位を目指す。バンとの約束でもあるし、この国を守るためでもある。そうなれば俺の周りには敵ができるだろう。俺の時のように脅しの道具にされることもあるかもしれない。ミナを必ず守れると豪語できるほど、俺は強くない」


 俺は弱い。大切な人を守ることすらできないほどに弱い。国で随一の騎士だと言われていても、所詮は自分の身しか守れない。だから側にいれば傷付ける可能性があることを示唆した。彼女からこの話を断るように仕向けた。恐慌状態に陥るほどの恐怖を体験していれば、おのずと答えは決まってくる。



「怖いです」


 覚悟していたはずなのに、毛布越しに言われた言葉に息を飲む。

 怖くないと言われ続けて安心していた。もしかしたら今回も怖くないと言ってくれるのではないかと期待した。


 馬鹿だ、俺は。

 何を期待していた? 自分から手放すと言っていて、惜しくなったのか? ミナが俺の話を聞いても縋り付いてくると思ったのか? 俺は彼女にとって子供を産むための伴侶。俺でなくともいいのだ。好き好んで傷つくことを求めるものなどいない。


「……そうか」

 これでいい。これで彼女の身の安全が約束されるなら。俺の側でなくとも生きていてくれるなら、それでいい。



「で?」

 で? で、とはなんだ。訳がわからず俺はそのままミナに質した。

「バラク様はどうなんですか? 私との結婚話、断るなら今です」

 俺は目を瞬く。何を言っているんだ、彼女は。ミナが断ったのに俺まで断る必要があるのか?

「え? いや、今破談になったんじゃ」

 俺の言葉にミナが大きく息を吐いた。


「誰がいつ、怖いから結婚をやめますなんて言いました? バラク様が怖いんじゃなくて、命の危機に瀕するのが怖いって言ったんです。だけど、怖いからって逃げるつもりはありません。あんな怖い思いをするくらいなら、こっちから乗り込んで行ってやります。公王でしたっけ? ギャッフン、ギャフン言わせてやります」


 ギャッフン、ギャフンの意味がわからない。が、何を言わんとしているのかはわかった。彼女の雰囲気が変わっている。毛布越しでもわかる。怯えていたウサギが、急に猛獣になったような感覚。


「とにかく、バラク様が私を諦めないなら、私もバラク様を逃がすつもりはありません」


 俺は再び息を飲む。

 なぜ彼女はそんなにまっすぐ前を向けるのだろうか。


 後悔していないのか? 大切な人を自分が傷付けたことを。

 いや、違う。後悔しているから、そうならないように努力をしながら前を向いている。ミナはいつでも俺に全力でぶつかってくる。顔合わせのときだって、初めて会った俺を押し倒してきた。騎士団でも自分の言いたいことを言って出てきた。今もそうだ。


 俺は毛布にくるまれたミナを見つめる。毛布から覗く黒い瞳をじっと見つめ返した。


「なぜ、そこまで俺にこだわる。俺はまた大切な人を傷つけた。ミナを守れず、辛い思いをさせた」

「傷つけたって言うなら私もそうです。バラク様の左手に裂傷を負わせました。さっきだってバラク様の腕に噛みついて歯形一杯」


 俺は顔をゆがめた。彼女が俺に与えた傷と俺が彼女に与える傷は違う。俺が与える傷は、死を伴うことだってある。

 諦めたくはない。彼女と共に生きることを諦めたくない。それでも、まだ俺の中で迷いがある。まだ彼女を守れなかった自分が許せない。俺はいまだに前を向けないでいる。

 それにミナは俺に対して何の感情も――


「こだわる理由は、バラク様が好きだからです」



 頭が真っ白になった。


 すき?

 スキってなんだ。隙、空き、すき、鍬、スキ。異世界の言葉か?


 スキの意味が知りたくて、俺は彼女の頬に手を伸ばす。毛布を剥がした彼女の黒い瞳には嘘偽りのない光がたたえられている。


 好き?

 誰が? 誰を?

 俺がミナを。ミナが俺を?

 スキスキスキスキスキスキスキスキスキ………キス



 混乱した俺は自分の欲望に負けた。

 毛布に再びくるまろうとした彼女の唇に、自分のそれを重ねた。柔らかな感触が俺の頭から思考を奪う。うっすらと目を開けば、ミナが目を見開いていた。


 驚かした。怖がらせただろうか。

 怖がらせないようにゆっくりと唇を離し、そっと頬に口づけた。


 真っ赤になってうつむくミナが愛おしくて、俺は自覚する。手放すことなどできるはずがない。

 俺が諦めないなら、ミナは俺を逃さない。ならば俺は諦めない。どんなことがあっても、もう二度とミナを手放すような真似はしない。もう二度と他の誰にも傷つけさせはしない。

 俺はこれからもっと強くならなければならない。そして、もっと迷いを捨て前を見つめなければならない。ミナがそばにいてくれるなら、きっとできる。


 だから、先に謝った。これから俺は彼女を傷つけることになる。俺自身で。

「すまん」

「はああぁぁぁぁっ?」

 下から睨み上げられて、それすらも愛おしいと思う俺は馬鹿だろうか。


「何で謝んのよっ。嫌だったの? 嫌いだったの? やっぱり好きじゃないの? じゃあなんでキスしたのよ」

「あまりにもかわいくて……我慢が出来なかった」


 もう、我慢するつもりもない。


「あのね、男ならキスの一つや二つで狼狽えないの! 女だって待ってる時もあるのよ。わかったら、さっさとかかってきなさい!」

「煽るな」

「煽って何が悪いのよっ。私たちは婚約してるのよ。結婚の約束をしているの。結婚する前にイチャついたって誰からも文句は言われないの!」


 煽るなと言っているのにミナは俺の欲望にも気づかず、俺の前に立ちはだかる。ぐるぐる巻きにした毛布から覗く白い足、細い肩。

 俺の思考が欲望に染まっていく。

 眼前に突き付けられた腕を引っ張り腕の中に閉じ込めた。


 もう、逃さない。


「ミナ」

 耳元で囁く。

「悪い。もう、自分を止める自信がない」


 煽られて冷静でいられるほど、俺は欲望に強くない。そう、俺は弱いんだ。



 ミナを抱きしめたまま押し倒した。纏っていたシーツを脱ぎ捨てれば、俺の欲望が下着越しでも露わになる。


 ミナの唇を奪うように塞ぐ。時についばむように、そして深く彼女を追い立てる。性急な行為に、ミナが呼吸を乱した。乱れた呼吸を縫うようにして舌を差し込む。中をたっぷりと蹂躙してから唇を離した。俺を見上げてくる潤んだ黒い瞳が、さらに俺の中の欲望を掻き立てる。


 俺は騎士見習いだ。だが、砦に取り付くことはできた。あとは扉を開き、城主を捕まえるだけ。知識を総動員して扉を開きにかかる。こじ開けないようにゆっくりと、防御に徹する彼女をするりと潜り抜けて砦に入り込む。


 傷つけないようにゆっくりと最後の扉をくぐりぬけ、俺は城主の部屋に入り込んだ。その部屋に俺の存在を深く刻み付ける。何度も何度も。




 絶え間なく上がる悲鳴にも似た誘うような声が、甘い吐息が、熱い体が俺を追い立てる。眩暈にも似た感覚が全身を襲ってくる。俺は逆らわず、欲望を解き放った。





 俺はその夜、砦を落とした。







R15に収めたつもりでしたが、いかがでいたでしょうか。


さて、ミナの過去がもっと詳しく知りたい方は「私の婚約者は優柔不断で唐変木」の4章をご覧ください。また、二人のアツアツシーンをもっと見たい方は、妄想でお願いします。

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