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俺の婚約者は小さくて押しが強い  作者: アマミネ
騎士服とドレス
13/25

早朝の自主練

短っ!

ミナとの相互関係で話が短くなってしまいました。






 ベッドで寝返りを打つ。いつもはすぐにやってくる睡魔が、今夜に限って襲ってこない。床にへたり込みそうになるほど疲れたのに、風呂に入ってベッドに入ると目が冴えてしまった。


 同じ屋敷内にミナ嬢がいる。それが俺の意識を興奮させる。明日は朝から模擬戦闘だというのに。寝ぼけた頭でできるほど騎士団の訓練は甘いものではない。それでも眼は冴える一方だ。


「はあ」


 大きく息をつく。

 とにかく、横になって目をつむるだけでも疲労は回復する。少しでも眠れればそれでいいと俺は目をつむった。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 まだ暗いうちからベッドを抜け出た。庭で井戸から汲んだばかりの冷水を頭からかぶる。頭を振って水気を振り切る。寝ぼけたような頭が幾分かすっきりとした。


 濡れた髪をかき上げる。


「………ッツクション!」

 くしゃみと一緒に鼻水が出た。頭から冷水をかぶるには、この日はずいぶんと冷え込んでいた。


 まあ、風邪などひくことはあるまい。これから夜明け前までしっかりと体を動かせば、動かした筋肉が内に熱を発する。



 しっかりと予備運動で体を温める。今朝は冷え込む。頭から冷水も被ったし、いつも以上に時間をかけて体を温めた。

 立てかけていた訓練用の剣をとり、構える。その頃には体中に汗が流れていた。


 呼吸を整え、緩慢ともいえる動きで剣を振るう。正眼で止め、また振るう。ゆっくりとした動作で行い、基本の型をしっかりと体に叩き込む。その後、型を崩さぬように同じ動作を瞬時に行う。

 シュッと空気を切り裂く音がした。


 瞬時に打ち込み、眼前で剣先をピタリと止める。バンが騎士にはないと言っていた足も使って、見えない相手と戦う。


 突き、払い、薙ぐ。左足で回し蹴りを繰り出し、その回転の勢いを利用して下から剣を振り上げる。

 最後に剣を正眼で構え、ゆっくりと下ろした。


 大きく息をつく。今朝の自主練はこれまでだ。夜が明ける前に訓練場に向かわねばならない。

 流れる汗をタオルでふき取る。顔を拭いているときに指が傷に触れた。体の傷は他にも肩や腕、脇腹にある。背中全体には引き攣れた火傷の痕。もう痛むことはないが、この傷が消えることはない。俺が未熟なせいで負った傷。


 俺だけじゃない。俺が鍛錬を怠ったせいで、手の届くところにいた人も守れず傷を負わせてしまった。もう二度とあんな思いはしたくない。俺の目の届く範囲、手の届く範囲の大切な人は、もう二度と傷つけさせはしない。


「…………」

 それにしても、自主練中は近づくなとあれほど厳命していたのに、メイドが一人館の影からずっとこちらを伺っている。


 背後の気配には気付いていた。だがあえて無視した。用があれば声をかけるだろうと。だが結局最後まで声をかけられなかった。おかげであまり集中できていない。こんな事なら無視せずにさっさと注意すればよかった。



 苛立ちのままにそちらを鋭く睨みつける。立ちすくんだその姿を認めて、俺は目を見開いた。


「ミナ嬢!?」


 駆け寄ろうとした足が止まる。俺は今上半身裸だ。体中に傷がある。この醜い体を晒したままでミナ嬢に駆け寄るわけにはいかない。きっと怖がらせてしまう。


「もう見ちゃいました」

 せめてタオルで傷を隠そうとしたら、ミナ嬢から困ったような声音で諭された。

 ミナ嬢は俺の傷の残る体を怖がりもせず近づいてきた。俺の体を見ても怖くはないのだろうか。この醜い傷跡の残る体を。


 俺の足元で顔を見上げるように首を真上に上げる。俺はすぐさまその傍らに膝をついた。黒い瞳が間近にある。そこに怯えの色はかけらもない。


「怖くはないか?」

「怖くないです。バラク様が優しいこと、知ってますから」

「……そうか」

 そっと手を伸ばす。ミナ嬢は嫌がらずに俺の手が触れるのを受け入れてくれる。柔らかな髪を撫で目を細めた。



「バラク様、私……話したいことがあるんです。今日はもう無理ですけど、次に会ったときに聞いていただけませんか?」

 そう言って見上げてくるミナ嬢の真剣な表情の中に、わずかな不安の色が見て取れた。何を不安に思っているのだろうか。話してくれればそんなもの、すべて俺が取り除いてやるのに。

「もちろん聞こう。それに、俺も話したいことがある」

 俺はそうミナ嬢に告げた。彼女も何の話かを察しているんだろう。小さくしっかりとうなずく。

「忙しいと思いますけど、また手紙をください。ずっと待ってます」

「わかった。必ず送る」

 にっこり笑った彼女に、俺はもう一度髪を撫でた。


「俺はもう行くが、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。あの………バラク様。ちょっと耳を貸してもらっていいですか?」

 耳? 俺は彼女に耳を向けた。二人きりなのに、何の内緒話だ。苦笑しながら待っていると、頬に柔らかなものが触れた。それは一瞬で離れる。


「行ってらっしゃいませ、バラク様」

 にこやかに笑ってミナ嬢はそのまま踵を返して走り去った。俺は自分の頬に触れ、走り去るミナ嬢の背中を見つめる。



 俺はおそらく、今夜も眠れない。







ここまでお読みいただきありがとうございます。

3章完結でございます。


次章からは子供時代となります。どのくらいの長さになるか、私もさっぱりわかりません。意外に短くなるかも。


なので、考察期間を頂きたいため、更新がしばらく滞るかもしれません。書きあがりましたら順次投稿していくので、お待ちいただければ幸いです。

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