がーるずとーく&ぼーいずとーく
☆がーるずとーく
貴族同士の付き合いがないとはいえ、ご近所付き合いはある。エリーは本日、ご近所の奥様達(フィルの部下の妻とも言う)と、お茶会をしていた。
お茶会と言っても、貴族の腹の探り合いとは違う。辺境伯領に派遣されるような騎士の妻たちは、腹が据わっていた。有事の際は、自ら手に武器を取るのだという。さらには、傭兵達の妻は、本人も傭兵もしくは元傭兵である。必然的に、話題はどこの鍛冶屋が上手いとか、あそこの道具屋がいい品揃えだとか奥様らしくないものになるのだった。
そんな話題でひとしきり盛り上がったあと、騎士団長の妻が、うきうきとエリーに質問をした。
「ずっとお聞きしたかったのです。お二人のなれ初めは?」
「え?た、旅をしていて…」
「まぁ、奥方さま、それは存じていますわ。騎士団長の奥さまがお聞きしたのは、どちらから声をかけられたのかということですわ!」
いつも一緒に働く傭兵団の魔術師が、好奇心いっぱいの目で聞いてくる。エリーはたじたじだ。ボロを出さないように、必死で答えをひねり出した。
「どちらから、ではなくて…流れでいつの間にか」
嘘は言ってない。
「まぁ!言葉はなくても心が通じたのですね。ステキですわぁ」
別の騎士の奥さまがうっとりとしている。エリーはこの質問タイムはどこまで続くのだろうと冷や汗をかきはじめた。
「お二人は名を呼ぶだけで意を通じ、戦いを有利に進めたと聞きました!」
「きゃあ、愛の力ですわぁ!」
きゃあきゃあ騒ぐ奥さま達に、エリーの顔がひきつる。
「じゃあじゃあ、求婚の言葉は、なんでしたの?」
「お、オレと結婚しろって…」
「「「「きゃああ、情熱的~!!」」」」
嘘は言ってない、嘘は。
顔を真っ赤にしてアワアワし始めたエリーに限界を見た事情を知る侍女(サイモンの妻)が、助け船を出した。
「皆様、シェフ特製のケーキをお持ちしました」
美味しそう~と奥さま達の興味がそれて、エリーは解放されたのだった。
後日、邪竜との戦いより疲れたとエリーは語ったと言う。
☆ぼーいずとーく
脳筋の男達は酒が好きだ。何だかんだと理由をつけては、飲んでいる。
エリー疲労困憊のお茶会から数日。今日も酒場で飲み会が開かれていた。
「ダンナ~新婚生活楽しんでるか~?」
すでにほろ酔いの傭兵団の頭がフィルに抱きついた。
「うるせーなー、余計なお世話だよ!」
首に巻きつく腕をはがしながら、フィルはぐいっと盃を空ける。
「おやおや、そんなに照れなくても」
これまたいい顔色になっている騎士団長が向かいで笑った。この二人、騎士団長は騎士団にいた頃に目を掛けてもらっていたし、傭兵団の頭グレンは元の仲間だ。酒の席になると、どうにも年下扱いされる。 (実際10歳ほど年下なのだが)
「ふふん、女嫌いのフィルが、結婚しろって言ったんだって?聞いたぜ~」
「へ~、「して下さい」じゃなくて「しろ」ねぇ。愛しちゃってるねぇ」
げらげら笑う二人に囲まれて、ぶすっとするフィル。
「デビュタントを速攻囲い込んだあんたが言うな、あんたが!グレン、おまえも良家の子女を傭兵にひきずりこんだだろうが!?」
「囲い込んだなんて人聞きの悪い。わたしはちゃ~んとご両親を通して求婚して婚約してうちに招待しただけです」
「俺だってあいつが有望だったからさそっただけだぜ~」
な~、と顔を見合わせる両巨頭に、フィルは渋い顔だ。
「さて、それより奥方のどこにほれたんだ?やっぱり顔か?」
「いんや。こいつどんな美人にもすげえ身体にも落ちなかったんだぜ。性格じゃねーか?」
「…ぶ」
ついにテーブルに突っ伏したフィルがつぶやいた。わずかに見える耳は赤い。
「は?」
「あ?」
「だから全部だよ!これでいいだろ!!」
真っ赤な顔で叫ぶフィルに、酒場中があっけにとられた後、大爆笑となった。
☆翌日
「ちょっと、フィル!あなた何てこと言ったのよ!町中で噂になってるわよ!!」
「うるせぇ、お前だってとんでもないこと言いやがって!」
いつものように言い合う2人を見守る人々の目は生暖かかった。