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彼と彼女改め辺境伯夫妻

「おはよう!」


「おはようございます、奥様」


 辺境伯領ローランド辺境伯邸では、今朝も元気な挨拶が交わされる。

自室を出た奥様ことエリーは、意気揚々と食堂へと向かう。エリーは辺境伯領に来てから、この魔術的に特殊な地の解明に嬉々として取り組んでいた。(もちろん辺境伯夫人としての公務もこなしながら)

 エリーは生き生きとこの地での暮らしを楽しんでいる。


 食堂まであと少しという廊下で、家令のサイモンが困ったようにエリーを待っていた。


「おはようございます、奥様」


「おはよう、サイモン。…その様子だとまだ起きてないのね?」


「はい」


「…はあ、仕方ない。行くわ」


「毎回申し訳ありません、奥様」


 すまなそうに頭を下げるサイモンに、エリーは笑った。


「いいのよ、慣れてるから」


 そうして2人が向かったのは、この屋敷のあるじフィルの寝室である。エリーとフィルにはラッキーなことに、古い貴族の屋敷らしく、ここは主の寝室と夫人の寝室が分けられていた。一応つながる扉があるのだが、エリーの魔術により開けられないようになっている。


「フィル、入るわよ!」


 言葉の終わる前にバンと扉をあけ、エリーは部屋の主の許可なくずんずんと入って行く。肝心の主と言えば…。

 ベッドに突っ伏してうなっていた。


「うわ~、お酒くさい!」


 エリーはうなるフィルを気にも留めず、窓を開けていく。さわやかな朝の風が、部屋に満ちていた酒の匂いを一掃すると、エリーは満足げにうなずいた。


「ああ、やっとスッキリした」


「…何だよ、朝っぱらから…」


「朝だから、起きてこない誰かさんを起こしにきたのよ。ほら、起きて、起きて!」


「うおっ!やめろ、ゆするなっ、出るっ!」


「やぁねぇ、どんだけ飲んだのよ。仕方ないなぁ」


 エリーがフィルに癒しの術をかけた。悪かったフィルの顔色が良くなってくる。


「楽になった、すまん」


「飲みすぎよ!」


「いや、ほら、領主として領民との交流をだな…」


「領主としての書類仕事がたまってます。朝食食べたら執務室直行ですからね」


 しどろもどろなフィルの言葉をエリーはバッサリ切り捨て、先にいってますと部屋を後にした。

 一言も返せなかったフィルは、ため息をつきつつもサイモンが差し出す服に着替え、フラフラと食堂へと向かいはじめた。フィルの後に続くサイモンは、笑いをこらえていた。


 もともとフィルの実家の男爵家の家令の息子である彼は、フィルより5歳上の幼なじみだ。他家で侍従をしていたのだが、フィルの辺境伯拝領に伴い、辺境伯邸の家令として引き抜かれたのだ。

 ちなみに妻子持ちで、妻はエリー付きの侍女の一人である。

 子供の頃から見ているある意味弟のようなフィルの性格は知る尽くしている。豪快というか押しの強いフィルを言い負かす女性はエリーが初めてだ。またフィルがそれを受け入れているのも今までにないこと。大概の女性はフィルの体格と雰囲気に怯え、フィルは近づく女性を「めんどくせー」と切り捨てるのにだ。しかもそれが『妻』だという。これが笑わずにいられようか。

 形だけだと2人して言い張っているが、果たしていつまで形だけでいられるか、ひそかに夫婦でかけているサイモンだった。毎朝起きないフィルを起こすエリーを見て、決着は早いと踏んでいる。

 サイモンは笑みを浮かべながら、すれ違う使用人たちに挨拶をするのだった。


 魔術師長の養い子と傭兵団の頭の夫婦、しかも英雄一行の二人。そんな前情報で緊張しまくってた前からの使用人達も、奥方にしかられる辺境伯を見るうちに、肩の力が抜け、今では夫妻をほほえましく見守るまでになった。

 朝食を取りながらも軽く言い合い、終われば終わったでにぎやかにしゃべりながら執務室へと向かって(というかフィルが引き摺られて)いく辺境伯夫妻。


 使用人たちは、そんな主人夫婦をみて、今日も平和だとほほえむのだった。

 

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