彼と彼女の事後報告
一行は、ミリーとエディーの体調が万全ではないという理由で、神殿に転移することにした。神殿ではミリーの祖父である神官長や両親が待ち構えていて、癒しのエキスパートである神官たちによりあっという間に2人は全快、残りの4人も戦いの疲れは断るまもなく消え去った。
ミリーは帰還の挨拶もそこそこに、祖父神官長に、エリーとフィルの事情を話し、当人達が口を挟むまもなく祝福を授けてもらった。
「この世界で最高位の祝福をもらったんだから、王様だって口出しできないわよ」
と、いきまくミリーに、エリーは抱きついた。
「ミリー、あなた最高よ!」
2人は顔を見合わせて、高らかに笑うのだった。
その後、帰還の知らせを受けて駆けつけたエリーの師匠である魔術師長に、事情を説明する。しばし固まってエリーとフィルを見つめた後、魔術市長は大きなため息をついた。
「いや、まぁ、対策としては最善なんですが、しかし思い切りましたねぇ。エリー」
「え~、そうですかぁ?」
「また大物を釣り上げて…」
魔術師長は、エリーの横で壁にもたれているフィルをしみじみと見た。。
「ん?俺よかエリーのが大物だろ?」
さっくり返すフィルに、苦笑いする。エリーがこの男を選んだのがわかる気がした。
エリーは、育ての親である魔術師長に、辺境伯領での仕事を作らせる約束を取り付けると、にんまりした。これで、うるさい貴族達から逃れられる。辺境伯領で、のんびり魔術の研究でもしようかともくろみ始めた。
「さて、これで私のほうはOKよ」
エリーの宣言により、一行は王の待つ宮殿へと移動することとなった。
神殿から王宮までの道は、英雄一行の帰還を知った人々でごった返し、馬車の窓から手を振る簡易パレードとあいなった。
あまりの熱狂振りに、一行は引き気味だ。
人々の中を進み、王宮に入ると、今度は貴族達が押し寄せる。さすがに、騎士達が近寄らせないが、ミリーなどはおびえてエディーの影に隠れるようにして進んでいた。
謁見の間に入る頃には、みなぐったりしていた。
一同そろって、王の前に進み、代表として年長者のアルが帰還の挨拶を述べる。王が各人にねぎらいの言葉をかけ、ついで宰相から各人への褒美が言い渡された。
ジェイの前情報通り、エディーは伯爵で騎士団長、ミリーは聖女、フィルは辺境伯、エリーは魔法師副長、アルも伯爵に昇格、ジェイは陛下直属の諜報部隊長であった。
これをうけて、フィルとエリーが結婚を報告すると、謁見の間がどよめいた。
「戦場にて聖女ミリーに、神殿にて神官長より祝福を受けました正式な婚姻です。つきましては、魔術師エリーを任地に伴いたく、お願いを申し上げます」
「魔術師長?」
王の問いに魔術師長がうなずいた。
「辺境伯領の砦付きの魔術師が空いております」
「ふむ、ではそのように」
そう告げると壮年の王はニヤッと笑った。
「傭兵の頭だと聞いておったから、どのような荒くれ者が来るかと思ったが、剣だけでなく交渉も得意らしい」
「いえ、これが精一杯でございます。粗忽者は辺境に引きこもらせていただければ」
「ふむ、まあよい。辺境伯領は頼んだぞ」
「御意」
謁見が終わり、控えの部屋に通された途端、エリーがフィルに向かった。
「びっくり。あんな口調できるんだ」
「まあ、縁は切ったとはいえ男爵の息子だ、一応教育は受けてる」
「そういえば、そうだったわ。あまりにも普段感じさせないから、忘れてたわ」
「立派だったわよ、フィル」
くすくすと笑いながら、ミリーとエディーが近づいてきた。その後ろには、アルとジェイもいる。
「すぐに出立するのか?」
「ああ、早く都から出たい」
「それがいいだろう、長くとどまると周りがうるさくなりそうだ」
「アルの言うとおりだよ。僕のとこには、2人の結婚をよく思わない連中の情報が入ってきはじめてる」
ジェイの言葉に、エディーとフィルがギョッとした顔になる。フィルは慌ててエリーを振り返ると叫んだ。
「エリー、早くいくぞ!準備が終わったら、すぐにだ!!」
こうして、フィルとエリーは必要最低限の手続きを終えると、新天地辺境伯領ローランドへと旅立ったのだった。