彼と彼女の取り引き
「は…結婚の祝福ですか?」
巫女ミリーは困惑していた。
目覚めたと同時にフィルとエリーに結婚の祝福を頼まれたのだ。が、昨日まで全くそういったそぶりも話も聞いていなかったので、戸惑うばかり。
現に目の前に並ぶ二人の間には甘い空気など一欠片もなく、「同士」と呼ぶのが最適だと思われる。
周りの仲間たちも急な展開に固まっていた。
「そう、私たち結婚するから。ちゃっちゃと祝福しちゃって」
「早いとこやってくれ」
「は、はぁ」
フィルとエリーの勢いに負けて、ミリーが祝福を授けようかというその時、アルが我にかえってストップをかけた。
「あ~、ちょっといいかな?できれば結婚を決めた経緯を説明してほしいんだが」
「ああ、急な話すぎて、良くわからない」
ミリーの横でエディーも眉をひそめている。
「え?夕べジェイとアルの話聞いたから」
「…フィル、はしょりすぎだ」
アルは肩を落として大きなため息をついた。
アルとジェイの質問で、二人が結婚を決めた理由がわかると、一同は言葉を失った。
フィルとエリーらしいと言えばらしいのだが、あまりにも単純すぎる。
特に結婚に対して夢も希望も持っているミリーは、二人の決定理由を易々と受け入れられない。
「本当にそれだけ?あの…他に理由はないの?ほら、運命を感じたとか、この人以外考えられないとか」
「えー、ないない。ま、この4年で慣れたからね~」
エリーの答に、ガッカリするミリーだった。
「まぁ、確かに結婚してしまえば、こっちのものだな。しかも聖女の祝福だ。誰も文句は言えまい。フィル、お前にしてはよく考えたな」
アルの誉め言葉にフィルは「そうだったんだ、俺ってアッタマいい~」とご機嫌である。その横でエリーは早まったかもと頭を抱えるのであった。
なんだかんだあったが、無事にミリーに祝福をしてもらい、フィルとエリーは夫婦となった。
「フィルは辺境伯になるんでしょ?エリーはついてくの?魔術師副長の仕事は?」
「あ~、都にいると実家がうるさそうだから、ついてこうかな~。魔術師副長の仕事は師匠に言えばなんとかなるし」
「傭兵は続けるのか?」
「爵位持ちだとさすがに続けられないかな。団の頭も誰かに譲らないと」
などと新夫婦とミリー、エディーが雑談に興じている横で、アルとジェイがそんな四人を見ていた。
「まぁ、落ち着くとこに落ち着いたか。フィルの発案には驚いたが」
「アルもですか。僕もエリーが言い出すと思ってました」
「エリーがそれだけ動揺していたのか、フィルが本能で導き出したのか。ま、結果オーライだ」
「あの二人が一番心配でしたからねぇ。 なにしろ駆け引きとは無縁の二人だし」
アルとジェイは苦笑しながら、フィルとエリーをみやる。
猪突猛進なフィルとそれをおさえるエリー。
いいバランスだと、意見を一つにして二人に祝福を送るのだった。
「それはそうとさぁ、フィル。曲がりなりにも辺境伯なんだから、後継ぎどうするの?」
皆が都への帰還に向けてあれやこれやと動いてる中、エリーがこっそりフィルに耳打ちする。
「あ?見込みのあるやつ養子にすりゃいいだろ」
「それでいいの?」
「どうせ傭兵団込みの辺境伯だ。俺の血筋じゃなくてもかまわないさ」
「…フィルは自分の子は欲しくないの?」
「ん~、好きな女との子だったらいてもいいな。家継がすために作りたくはない」
フィルが何かを思い出したのか、嫌そうな顔をした。エリーも肉親には恵まれてるとは言いがたいので、なんとなくわかる気がする。
「うん、それはわかる。私もそれはやだなぁ」
「だろ? 子どもが欲しかったら、養子にしようぜ」
「…でも、もし自分の子どもが欲しくなったら?」
真剣な顔のエリーにフィルがニヤッと笑った。
「―そんときゃ、協力してやるよ」
「なっ!?」
真っ赤な顔になったエリーが、フィルに抗議する。いつものやり取りの始まりだ。
「おいおい、2人とも。都へ行く準備は?」
「いつでも大丈夫よ!」
「同じく!」
「よし、帰るか」
アルの掛け声と共に、一行は歓迎一色の都へと帰還の転移をしたのであった。