彼と彼女の出会い
エリーことエリシア・リル・アージェは子爵令嬢として生を受けた。赤子の時から魔力は高く、3歳にして一通りの魔術を身に付け、両親は扱いに困って5歳で魔術師長に預けた。手に余る子を手放せてほっとしたのだろう。以来家族に会ったのは数えるほど。しかも挨拶程度。
そんな本人は、魔術師長の養い子という魔術師にとっては最高の境遇に満足していた。そう、エリーは魔術マニアなのであった。勉強していれば機嫌が良く、元々豊富な魔力と相まって、あっという間に魔術師長に次ぐ実力者となった。魔力も実力もプライドも超一流の魔術師、それがエリー。
フィルことフィリップ・ロイ・ブラックモアは、地方領主の男爵の三男として生まれた。幼い頃から活発で、剣の稽古では兄たちを泣かすほど。
跡継ぎの長男、予備の次男ならまだしも三男ともなれば、いずれ領地を出なければなれないことは、早くからわかっていた。そこで、フィル少年は、騎士を目指した。剣の腕で身をたてようというのである。
無事に騎士となったフィルであったが、騎士団では剣の腕より身分がものをいう。
剣の腕はさっぱりな身分を鼻にかけた残念な上司とやりあって騎士団を辞めた彼は、傭兵となり名を上げていく。いつしか傭兵一団のトップとなっていた。
剣こそすべて。それがフィル。
そんな魔術至上主義のエリーと脳筋なフィルの出会いは4年前。獣の狂暴化、魔物の急増の原因究明と根絶の為に集められた一行の顔合わせの時である。
お互いの第一印象は、「なんだ、こいつ」
頭脳派と肉体派との相性は悪かった。互いにやり方を受け入れずいがみ合う。間に入ったミリーとエディーが消耗するばかり。二人をアルとジェイが慰める日々が続いた。
そんな関係が変わり始めたのは、一月が過ぎた頃だった。
魔物との戦闘中に、エリーの背後から忍び寄った魔物をフィルが斬り倒したことが切っ掛けとなり、協力をするようになっていく。
半年が過ぎた頃には、前衛のフィルとエディー、後衛のエリーとアル、ミリーにフリーのジェイという布陣が固まった。
一行は信頼を積み重ね、フィルとエリーに至っては戦闘中に名前を呼ぶだけで意志の疎通ができた。
平時には相変わらず言い合っているが、じゃれあっているようなものだというのが、皆の意見である。
互いに好きなことを言い合える仲間というポジションで旅を続け、苦難の末に邪竜を倒した今、二人の関係は大きく変わろうとしていた。
「エリー、俺と結婚しろ」
フィルの言葉を聞いたエリーの頭は真っ白になった。音としては認識できても内容を頭が受け付けない。ナニヲイッテルンダ。
「おい、聞いてんのか?」
「…なに言ってんのよ、冗談でしょう?」
「冗談じゃない。本気だ」
「ほ…、バ、バカじゃないの!?何であなたと け、結婚なんか」
「落ち着いて、よく聞け。俺もお前も都についたら望まない縁談が待ってる。そうだな?」
「う、うん」
「じゃあ、その前に結婚しておけばいい」
「で、でも、何であたしと?!」
「考えてもみろ、4年も一緒に旅してきたんだ。お互いどういう奴かわかってるだろ。見知らぬ相手を押し付けられるよりいいじゃないか。それになにも本当の夫婦になるわけじゃない」
「…見せかけの結婚ていうこと?」
「そうだ。結婚さえしてしまえばこっちのものってことさ」
エリーはうつむいて考えた。ほとんど接点の無い親から押し付けられる結婚なんていやだ。じゃあ、フィルは? 一緒に旅してきて、フィルのことはよくわかってる。信頼はしている。大事な仲間だ。夫婦というか、同居人だと思えば良いんじゃないか。
エリーは、伏せた顔をあげ、フィルに答えた。
「わかった、フィルと結婚する。細かいことは、後で考えよう?」
「わかった。じゃあ、明日ミリーに祝福してもらおう」
「うん、じゃ、おやすみなさい」
「お休み」
これで問題が片付いたと、2人はさっさと眠りに落ちる。翌朝、二人の決断を利いた仲間達がどう反応するかなど気にしない。ある意味似たもの同士であった。
こうして、フィルとエリーの人生は大きく変わることになったのである。