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辺境伯夫妻、振り回される

 国境の森の中を、ものすごい勢いで、一頭の馬が駆けてゆく。少し離れて3頭の馬が追いかける。


「エリー、どっちだ!!」


「そ、そのまままっすぐぅ~~~~!!」


 鬼気迫る勢いのエディーの駆る馬の背で、エリーは落ちないようにしがみついているのがやっとだった。




 話は、一時ほど遡る。

 王都の腐敗貴族排除おそうじもほぼ収束し、魔術師団の魔力にも余裕が出来たので、辺境伯邸の魔術師室と水晶を介して直接やり取りをすることになった。(単にエディーの我慢がきかなくなったとも言う)

 王都からのコンタクトに応え、回線を繋ぐと、エディー、魔術師長、宰相が並んでいる。エディーはこちらの面子を確認すると、ミリーがいないのでちょっと不機嫌になる。ミリーは遅れてくるからとエリーがなだめて、話し合いは始まった。


 宰相からどうやら北の国は関係なさそうだという発言が出て、みな一安心する。せっかく邪竜の脅威がなくなって平和になってきたのに、隣国との戦争になるのは避けたい。


「なんだ、結局神官の暴走か。人騒がせな」


憮然としたフィルにエリーが噛みつく。


「知的好奇心と言いなさいよ、知的好奇心と」


「うんうん、仲良くやってるみたいで、養父ちちはうれしいよ」


 のほほんとした魔術師長の発言に、場の空気が和む。そのまましばし雑談していると、顔色を変えた騎士が飛び込んできた。


「せ、聖女様が…!」


 ミリーが、マシューに連れて行かれたという知らせに、魔術師室内も、水晶の向こうも大騒ぎだ。

 エリーとフィルが追跡の手はずを整えている間に、王都ではエディーが宰相と魔術師長相手に辺境伯領へ飛ばせと詰め寄る。遂には押し切られて、そこにいた魔術師全員でエディーを辺境伯領へと転移させたのだった。


「エディー?!なんでここに?」


「ミリー助ける為に決まってるだろうが!!」


 言うが早いかエディーは厩舎目指して飛び出して行った。


「おい、場所知らないだろうが、エディー!!」


 慌ててフィルをはじめにアル、ジェイにエリーが追いかける。追いついたフィルが案内して厩舎に着くと、エディーはエリーを荷物のように馬の背に放り投げ、あっと言う間に走り出した。


「エリー、ミリーの魔力たどれるだろ」


「み、右!森の中!!」


 エリーは後からフィル達が着いてきてるのをチラッと見て、あとはしがみつくのに精一杯だった。


 そして冒頭に戻る。



 エリーに道案内させて、エディーはミリーの元へと急ぐ。エリーの状態なんて知ったことではない。後ろのフィルがヤキモキしてるなんて全く気付かずひたすら馬を走らせる。


 やがて、少し開けた場所でミリーがマシューに押さえつけられてるのが目に入ると、エディーの理性は吹き飛んだ。


「うわ、やべ!!エディーがブチ切れたぞ!アル、なんとかしてくれ!!」


「わかってる!!」


 アルは背の弓を取り出すと、馬を止めることなく矢を放つ。エディーがマシューの元にたどり着く前に、矢はマシューの肩に吸い込まれ、ミリーは解放された。


 エディーはミリーに一直線。ヘロヘロのエリーがフィルに助けられて馬から下りる間に、ミリーを助け起こし、原因となった泉の遺跡をぶち壊した。

 遺跡の崩壊に呆然となったマシューをジェイとアルが捕縛したところで、ようやくエリーはミリーに声をかけられる状態になった。


「ちょっとエディー!!あのスピードはないでしょ?!」


 エリーの抗議をキレイにスルーしてミリーを丁寧に馬の背に乗せ、その後ろに自分もまたがる。


「帰るぞ」


「エディー!」


 サッサと馬を進めたエディーに仕方なくエリーも帰ることに。今度はフィルの馬に同乗する。道中ずっとエディーに対する愚痴であったのは言うまでもない。


 辺境伯邸に着いたら着いたで、エディーはさっさとミリーを抱き上げ、エリーに転移を頼むと魔術師室へと戻っていく。運ばれるミリーが後ろ向きに、待っていた子供達に声をかけ、今度は遊びに来ると約束をしていった。


 魔術師室では、疲れた顔のエリーとなにが起きているのかわかっていない傭兵団の魔術師が言われるがままにエディーとミリーを王都へと送った。

 

「フィル、エリー。今日はもう休め。私とジェイが後はやっておくから」


 アルのその言葉にエリーは甘えることにした。エディーの馬のとんでもないスピードと転送魔法とで、もうくたくたなのだ。アルとジェイに後を任せると、フィルに支えられながら、やっとのことで自分の部屋へと戻った。


 おとなしくフィルに世話を焼かれ、エリーはあっという間に夢の国へと旅立つ。


 こうして、英雄エディーに振り回され、こき使われた辺境伯夫妻の一日は終わったのだった。

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