辺境伯夫妻、歓迎する
短いですが。
完全復活したミリーが無茶をしないように見張り、王都から辺境伯領へ来ようとするエディーを押しとどめ、辺境伯夫妻の日々は過ぎてゆく。
ミリーは一通りの手配を済まし、実務部隊に指示を出した後は、おとなしく先生業務に戻ったので、二人ともほっとする。今はこの地方の言い伝えを調べているようだ。
エディーは、まだ貴族の掃除が終わっていないと国王や神官長にいさめられ、しぶしぶ諦めたようだが、代わりにアルとジェイを送ってきた。ミリーのお目付けはもちろん、今回の黒幕かと疑われる北の国へのけん制の意味もこめてだ。
実行犯と目されるマシュー・ドレイクは、騎士団寮の食事に毒を入れようとしたり、強盗事件を起こして騎士団や傭兵団の手を割かせようとしたりと、北の国との国境警備を手薄にしようとしているように見えるのだ。これに国王や宰相が危機感を抱き、英雄一行のアルとジェイの派遣となった訳である。
収穫祭に来ていたジェイがアルを案内するように、辺境伯邸の執務室に現われた。もちろん、魔法による転移である。エディーは、魔術師長にごり押ししたらしい。
「やあ、久しぶりだね。フィル、エリー」
かつて騎士団で伝説的な弓兵であったアルは、引退して領地経営にいそしんでいたが、40を過ぎてもその腕は衰えていない。一行の中でのお父さん的存在であった。
「アル!久しぶり!!」
フィルが、飼い主を見つけた犬のように喜んでいる。アルはフィルの中で理想の「大人」なのだ。
「いらっしゃい、アル」
にこやかに迎えるエリーに、アルも微笑む。
「ああ、もうすっかり領主夫人だねぇ」
「そうかなぁ?」
「余計なことを言う口はどの口かしら~」
うかつなジェイの口は、笑顔のエリーの手でふさがれた。
「で、ミリーの様子はどう?」
応接室に移動し、お茶を飲みながら、アルが本題に入る。
「うん、最初はちょっと元気がなかったが、今はすっかりあの頃に戻ってる」
「まあねえ、犯人は小さい頃かわいがってもらってた死んだはずのお兄ちゃんでした、なんてショックよねぇ」
「そうだな…っておい、あの頃にって」
「もしかして、旅してた頃?」
アルとジェイが恐る恐るといった様子でフィルとエリーをうかがう。
「おお、そうだ」
フィルの答えにアルとジェイは、がっくりと肩を落とす。
「あ~あ、ミリーのお目付け役決定だよなぁ。元に戻ったミリーって無茶しそうだもんなぁ」
「仕方あるまい。私達がミリーに付かねば、エディーが暴れるぞ。ジェイもこの国を無くしたくはなかろう?」
「へ~い。ミリーってさぁ、邪竜以上の脅威だよね〜」
「だなー、何かあれば、大魔王エディー降臨だぞ」
「また本人がすぐ問題にクビ突っ込むからなぁ」
英雄一行にこう言われる聖女って…と、エリーは辺境伯領特産のお茶を手に遠い目をしながらも、心強い友の来訪を歓迎するのだった。