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辺境伯夫妻、走りまわる

 エリーが再び執務室に顔を出すようになってひと月。ミリーも順調に回復、学校の臨時教師として楽しそうに毎日を過ごしていた。

 エリーも安心したのか、執務に身を入れている。書類の処理速度も上がり、執務室の雰囲気も良くなり、文官達もホクホク顔だ。


 さて、このところ辺境伯領は、商家ばかりを狙った強盗が連続していた。

 使用人として入り込んだ仲間が内部から引き入れるので、あっと言う間に入り込み物品をると引き上げて行く。強盗ながら、その手際の良さは見事だった。

 人的被害が少ないのが責めてもの救いということか。

 商人たちも自衛しているが、強盗はそれをかいくぐってくる。騎士団も傭兵団も、見回りを強化する他なかった。


 そんな中、騎士団の寮の食材に毒草が混じるという事件が起こった。幸いにしてミリーが気づいたので、大事には至らなかったが、どうも裏があるようだ。


「まあ、やっぱり騎士団を狙ったの?」


 夕食の席でエリーが眉をひそめる。隣の席のミリーも渋い顔だ。


「ああ、料理人の男が口をわったよ」


 フィルが肉を切りながら、答える。切られた肉はあっと言う間にフィルの口の中に消えて行った。


「…連続強盗と関係あるのかしら?」


「さあな、これからの調査でわかるだろう」


「そうね…」


「まあ、今回はミリーに感謝だな。おかげで助かったよ」


「役に立ててよかったわ」


 ミリーが微笑むとそこからはいつもの和やかな食事に戻った。



 連続強盗は気になるが、通常の領主の仕事は無くならない。しかも、これから年に一度の収穫祭が控えている。辺境伯夫妻を迎えての初の収穫祭ということで、領民達はテンション上がりまくりである。フィルとエリーが控えめにと言ってもまったく持って聞き入れられない。

 結果、フィルは狩担当、エリーが作物収穫担当となって、言われるがままに準備に走り回ることになるのであった。


 今日も捜査と収穫祭の準備に追われ、一日の執務が終わろうとしている。

 フィルは机に準備された便箋と封筒を目にすると、深いため息をついた。魔術師の塔からの返りがけに執務室をのぞいたエリーが首をかしげる。


「なに?そんなに難しい手紙?」


 ひょいと覗き込むと、まだ一言も書かれていない。


「…おう、難しいぞ~。エディーへの報告だ」


「あ~、それは難しいわね」


 フィルのげんなりとした答えにエリーも苦笑する。毎日ミリーの手紙とは別にフィルからもエディーに報告がいくのだが、これがなかなかに難しい。正直にミリーの行動を全部書くと、エディーが過剰に反応するのだ。学校の臨時教員をすると報告したら、本人が乗り込んでくる勢いで反対したのは記憶に新しい。結局、学校まで伯爵家の馬車で移動し、警備の騎士をつけるということで渋々納得はしたが。


「エディーが心配するのはわかるけど、ここまでとは思わなかったなぁ」


「自分の目の前でやられたからな。しかも原因は自分だ。まあ、不安定にもなるさ。俺だって…」


「…フィル?」


 言葉を途中でやめたフィルの顔は真剣だった。エリーは何も言えずに見つめるしかない。ふ、とフィルの顔がゆるんだ。


「ん、まあなんだ。俺はそんなヘマはしないってことだ」


「そう願うわ。辺境伯さま」


「もちろん、辺境伯夫人」


 ニヤッと笑いあうと、辺境伯夫妻は執務室を後にした。



 連続強盗の幕切れはあっさりとしたものだった。

 現場に残されていた、古代神聖文字で書かれた謎の書類をミリーが解読し、次の犯行現場がわかったので、強盗団は一網打尽にされたのだ。ただ1人を除いて。

 謎の書類を書いた人物は、どこの誰ともわからず、姿をくらました。古代神聖文字を書ける事から神殿に問い合わせることで、一連の強盗事件は、ひとまず幕をおろしたのだった。


 強盗事件が片付いたところで、辺境伯領ローラントは一気に収穫祭一色となっていく。

 フィルは期間中の人員配置や行動指示に忙しく、それはまた辺境伯邸を取り仕切るエリーも同じ。

 忙しいけれども、人々から聞く収穫祭の話に、期待が膨らんでいく。こんなにワクワクするのは子どもの頃以来だと、2人で笑いあった。


 いよいよ明日は、収穫祭の始まりだ。

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