勇者は何故旅立ったのか?
第一話「勇者は何故旅立ったのか?」
ある日、王国から令状が届きました。その時から彼は、勇者となったのです。
王国の闘技大会で優勝した彼には、王から勅令が下されました。それは、勇者となって王の娘、姫を救い出すというものです。
誰からか。それはモンスターからです。国から出たことのない勇者には現実感のない話しでしたが、世界が人間とモンスターの二つに分かれていることは知っていました。恐ろしいモンスターは姫を攫ったというのです。
勇者は、別に見たこともない姫を救うために働くことに意義は感じませんでしたが、昔からひたすらに鍛えていた腕を存分に発揮できる、認められる機会が設けられることに期待し、高揚していました。勇者はいつからか、誰よりも強く、強くなることを目指し鍛錬を重ねていたのです。今や何故鍛錬を積むのか、その理由すらも喪失していましたが、それでも、強くあらねばならないという信念だけは勇者の中で静かに燃えていたのです。
出発の日、姫が攫われた時に捕らえたという、モンスターの親玉の公開処刑が行なわれました。
国王のスピーチにも熱が入っています。
「人間は!これまでモンスターに虐げられてきた!一度国を出ればモンスターに襲われ!惨い殺戮が行なわれるのだ!そんなこと許してはいけない!しかし!これまで我々はその恐ろしさ故に、モンスターを野放しにしてきた!その結果!未来を担う我が娘が!このモンスター共に!化け物共に!連れ去られたのだ!!今こそ立ち上がろう国民よ!モンスターをこの世界から駆逐するのだ!!我が国訓を思い出してほしい!それは『和』である!和を崩す者には制裁を!!」
そして、モンスターの親玉はギロチンで首を落とされました。
国の中枢を司る機関では、火あぶりだのなんだの、あらゆる拷問が検討されたようでしたが、結果的にモンスターの親玉は、公開処刑の日まで延々と秘密の部屋で苦しめられ、ほとんど意識のない状態で最後の最後にギロチンで首を落とされたようでした。もちろんこのことは、国民は知るよしもないわけです。
ごろりと転がった首、観衆の怒号、繰り返されるプロパガンダ。
こうして、勇者の旅は始まったのです。