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18:道を辿れば(前)

 幾多の思惑を背景にして、ラーヴェンスブルグ公爵令嬢レティーシアは、素性を公には伏せられたまま、ピルナの地で幼少期を過ごすことになった。


 彼女の育児を担当することになった乳母は、名をニーナという四〇年輩の女性で、美人ではないけれど、愛嬌のある闊達(かったつ)な人物だった。若い時分には、ラーヴェンスブルグ公爵家にメイドとして奉じていたこともあり、守秘の点からも信頼を得ていた。


 隠し子であるレティーシアが、実父フランツと共に過ごすことの許された機会は、三ヶ月に一度で、アステルライヒに季節の変わり目がやって来る都度と決まっていた。

 レティーシアの金髪や夏空色の瞳と、明朗快活な気性は、生まれながらに母譲りである。

 長子のヴィルヘルムがアーデルハイトに似ていたのと同様、娘にシャルロッテの遺伝が色濃く見て取れたことは、フランツの胸の片隅に、いつまでも除去し得ぬしこりを残したらしい。

 もしかすると、執務が多忙であったのと同程度に、レティーシアの愛らしい容姿は、国王の繊細な神経を刺激し、かえって娘の下に立ち寄る足を遠ざけていたのかもしれぬ。


 とはいえ、我が子と密かに面会しているときのフランツは、心底幸福そうだった。少なくとも、表面上はそのように見えた。

 内心では、彼が自らシャルロッテを遠ざけ、家族が揃ってテーブルを囲むことのかなわぬ寂しさに苛まれていたのかもしれない。だが、父はそうした己の本心を悟られないように努めていたのではないかと、後々レティーシアは考えるようになった。



 レティーシアが四歳を過ぎると、フランツは使い古された書物を娘に与え、ピルナを訪れるにつけて、西方共通語の読み書きや簡単な計算を教えるようになった。

 そして、屋敷を去り際に、次の季節が来るまでのあいだ、ちゃんと教えたことを復習しておくのだよと、毎回優しく言い付けた。

 レティーシアは、その約束を真面目にきちんと守って、この頃から少しずつ読み書きや計算の技術を身につけはじめた。


 七歳前後になると、レティーシアも徐々に自分の複雑な境遇を理解するようになっていた。

 なぜ、シャルロッテを正式な妻として、フランツが迎えられなかったのか。

 なぜ、レティーシアとフランツは、同じ屋敷で暮らすことができないのか……

 事実の因果関係を把握しはじめると、父親に対する尊敬の念が少しずつ薄らいでしまったのは、やはり致し方ないことだろう。


 腹違いの兄ヴィルヘルムとも、この頃じかに初めて顔を合わせた。

 慎重に時期を見定めていたフランツによって、二人はやはり内密に引き合わされ、互いに相手を認識するに至った。

 このとき、妹と丁度一回り歳の違うヴィルヘルムは、一七歳である。すらりとした身体に知的さを漂わせた美少年で、立ち居振る舞いは颯爽とし、語り口にもユーモアがあった。

 異母兄だと紹介され、戸惑うレティーシアに対し、この魅力的な王子は自然体で優しく接した。その気遣いは、異母妹にもすぐ伝わって、たちまち彼女の警戒を解いたのだった。


 フランツにとって、わだかまりなく、腹違いの兄妹が打ち解けたことは、この上もない幸いだと言えただろう。

 日陰の存在として、王宮で暮らすことのできないレティーシアから見れば、もしかすると異母兄が嫉妬や憎悪の対象になりかねない、という予測もあったのである。

 これが杞憂に終わったのは、周囲の配慮も幾分手伝ったものの、ヴィルヘルムとレティーシアの双方の人間性によるところが大きかったとみて、ほぼ間違いない。



 二度目にピルナへ姿を見せたときには、ヴィルヘルムは隣にいま一人同年輩の少年を連れていた。

 異母兄は、彼を「親友のオルトウィーンだ」と、レティーシアに紹介した。

 オルトウィーン少年は、ヴィルヘルムより一歳年少で、クロイツナッハ侯爵家の嫡男であった。この頃すでに異母兄以上の長身で、肩幅も広く、面立ちは鋭く引き締まっていた。銀髪緑眼が他者の印象を、強く惹き付ける。

 オルトウィーンは、国王から特別な許可を得て、ヴィルヘルムの異母妹と面会することになったのだという。


 ヴィルヘルムの提案で、ある秋の日、レティーシアとオルトウィーンは、紅葉に染まったピルナの山道へ散策に連れ出された。落ち葉舞う景勝の地は、あたかも自然が絵画を模倣したかのように、美麗な朱や黄金の彩りに溢れていた。


「クロイツナッハ侯爵家は、我がラーヴェンスブルグ王家累代の忠臣なのさ」


 ヴィルヘルムは、並んで横を歩きながら、異母妹に説明してみせた。


「このオルトウィーンにも、何かと世話になっている。彼は、馬上で槍を扱わせれば、ちょっとしたものでね。リッテンヴァイラーでは、うら若い淑女が皆、この男に熱を上げていると、専らの噂なのだ」


 リッテンヴァイラーは、クロイツナッハ侯爵領内ゴスラー州の州都である。

 王子の言葉に眉を顰め、オルトウィーンは迷惑そうな表情になった。


「妙な言い草は止してくれ、ヴィルヘルム。そのような噂は、俺も初めて聞いたぞ」


「――と、この通り、生来遊び事に疎い性質(たち)なのが、オルトウィーンの欠点のひとつではあるのだが。あと、親しくなった人間には、相手のことで時折無用の心配が過ぎる」


 親友の反応をたしかめながら、ヴィルヘルムはからかうように言った。

 オルトウィーンは、ますます不平そうに口元を歪める。だが、反論はしなかった。勝手にしろ、とでも言いたげな目つきであった。

 レティーシアは、興味深げに、年長の少年二人を見比べていた。


「もっとも、そういう男だからこそ――私も父上も、是非こうして一度、君と彼を引き合わせておきたいと考えていたのだよ、レティーシア」


「……私と、オルトウィーンさまを?」


 レティーシアは、思わず問い返した。

 ヴィルヘルムは、深くうなずいてみせる。それから、山道の途中で、不意に立ち止まった。

 レティーシアとオルトウィーンも、彼に倣って歩みを止める。王子は、それをたしかめると、おもむろに二人を振り返った。


「オルトウィーン。公にされた身分でないにしろ、彼女もたしかに我がラーヴェンスブルグ王家の息女。二人と居ない私の妹だ」


 ヴィルヘルムは、真剣な面持ちになって、親友に語り掛けた。


「レティーシアにも、私や父と同じように、おまえの忠誠を約束してくれないか」


 異母兄がオルトウィーンに対して発した言葉の意味を、まだ幼いレティーシアは、あまり深く理解していなかった。ただ、漠然と、彼女の味方になってくれるように、親友に頼み込んでいるらしきことは、それとなくわかった。

 オルトウィーンは、いったんゆっくり両目を伏せて、静かに思慮する様子をみせた。少しの沈黙があってから、再び緑色の目を見開き、まず親友たる王子を、次いでその異母妹たる姫を、順に眼差した。


「――承知した。栄光ある王国騎士の名にかけて、そちらの姫君に仕えよう」


 クロイツナッハ侯爵家は、当主が常に千騎長の任を与えられ、アステルライヒ王国黒騎士団において中核を成す立場にあった。その次期当主こそ、オルトウィーンなのだ。

 これによってレティーシアは、将来クロイツナッハ候配下の騎士たちからの忠節を、他の王家の人物と同様に保障されたのである。国王の息女とはいえ、彼女が素性を公に明かされていないことを考えれば、これは非常に異例の出来事だと言えよう。

 もしかすると、オルトウィーンとの面会を許可した国王フランツは、かつて老司教と交わした会話の記憶がいまだにあって、娘の未来を案じていたのかもしれない。

 ただし、いずれにしろ、レティーシアがそうした事情をきちんと把握するのは、まだ数年先のことであった。


「どうせなら、いっそここで彼女に俺の剣を捧げてもかまわないが」


 オルトウィーンは、彼にしては珍しく、少しおどけた口調で「騎士の誓い」を申し出た。

 ところが、逆にヴィルヘルムは、その冗談口に乗ろうとせず、穏やかに首を振ってみせた。


「いや――それはいつか、何か思いがけない事態があって、もう私からはレティーシアに手助けしてやれぬと感じたとき、おまえに改めて持ち掛けてみようと思う」


「どういう意味だ、それは。おまえに限って、そのようなことなどあり得まい」


 やけに神妙な王子の態度に、オルトウィーンは掴みどころのない不吉さを感じて言った。

 ヴィルヘルムは、つと視線を脇へ逸らし、道端に広がる景観を眺望した。緋色の樹木が視界にひしめき、その連なりは遥か地平の果てまで続いているかとさえ見えた。


「……そうだな。どうか、そうあって欲しいものだが――……」


 双眸を細め、ここではないどこかを見詰める異母兄の横顔を、レティーシアは傍でそっと覗き見ていた。


 あたかも、まだ見ぬ不運が我が身に降り掛かるのを、すでに予感しているかのようでもあった。



      ○  ○  ○



 それから、また数年が過ぎる。

 一〇歳の誕生日を迎えて以後、レティーシアは次第にある願望を募らせていた。


 ――学術の世界に身を置きたい。


 それは、フランツとシャルロッテという両親を持って生まれたときから、あるいは彼女にとって、決して逃れられない強迫観念だったのかもしれぬ。

 父と母とが学問の虜囚となり、未知への探究を憧憬(しょうけい)したように、レティーシアもこの年齢になると、同じ想いを強く抱くようになっていた。


 しばしばフランツは、王都からピルナへ書物を送ってくれた。

 レティーシアが、頻繁にねだっていたからだ。彼女は、他の貴族の令嬢と違って、貴金属や服飾の類には無頓着だったけれども、純粋に金銭的な価値だけで言えば、ほぼ同程度の贅沢を要求していたと言えよう。大抵、この姫君の興味を引く本は、一冊が数着の豪奢(ごうしゃ)なドレスと釣り合う貴重品だった。

 もっとも、それらの書物は、元々フランツが読み古した私的な所有物ばかりで、彼女は父親のお下がりを譲られるたび、いつも大喜びしていたことになるのだが。


 とにかく、新たな本を手に入れると、レティーシアは隅々までひたすら読み耽るのが常だった。半ば(そら)んじられるほど、繰り返し文面を目で追ったものもある。

 読書に励み、新たな知識を得ると、常に得たもの以上の疑問が生まれた。レティーシアの知識欲や好奇心は、尽きることなく、膨れ上がる一方なのだった。


 ほどなく、彼女の向学意識を惹き付けるようになったのは、シュマルカルデン大学であった。

 昔、フランツが学んだ機関に籍を置き、学術研究に携わることを、レティーシアも幼いうちから夢見るようになっていったのである。

 しかし、それは当然(かな)わぬ願いだった。

 西方諸国の大学には、伝統的に男子志望者しか入学を許されていない。

 かつて、レティーシアの母親シャルロッテも、そうした特定の価値観が生み出した壁によって、学問の道へ進むことを妨げられてしまったのだ。


 ところが、レティーシアは、母親ほど運命に対して従順ではなかった。

 この姫君は、生まれ育ちも特異な環境で、また学術に目覚めた時期も取り分け早かった。言い換えると、己を抑圧するしがらみに日頃から不満を抱いていて、しかも我慢し続けられるほどにまだ大人でもなかった。

 溢れ来る学術への欲求は、彼女の胸中で(くすぶ)っていた火種を、たちまち大きく燃え上がらせたのである。




 そして、レティーシアが一二歳の春――

 彼女の驚くべき行動力は、一つの事件を引き起こした。


 なんとレティーシアは、周囲の大人の目を欺いて、ピルナの屋敷を抜け出したのである。

 彼女は、密かに向こう見ずな冒険を決意し、我が身一つで旅に出ようとしたのだった。

 目指す目的地は、もちろん学術都市シュマルカルデンだ。

 レティーシアは、直接大学へ押し掛け、無理やりにでも自分の入学を認めさせてやろうと、本気で考えていた。学術研究を志望する熱意が、いかに真剣であるかを訴え、掛け合えば、たとえ女子であったとしても、その願いを聞き届けてもらえるに違いないと、勝手に想像していたのだ。

 その企ては、しかし屋敷を出てから二日と経たずに失敗した。

 レティーシアの身柄は、ピルナの土地から出るよりも前に、異母兄ヴィルヘルムの捜索によって発見され、無事保護されるに至ったのである。


 もっとも、この一件は、レティーシアの秘密を知る人々にとって、改めて将来を考え直すひとつの契機となったと言えよう。年齢的にも成長しつつある姫君の存在を、今後いかにして隠匿し続け、王家が管理するのか、新たな課題が浮き彫りにされたのだから。


「もはや、レティーシア大公女は、しばし地下牢へ幽閉するのもやむなし」


 心無い重臣の中には、そのように過激な意見を主張する者さえあった。

 当時のフランツは、非常な苦悩を強いられたらしい。



 この状況を救ったのは、シュマルカルデン大学に奉職していた学者の一人ミヒャエルであった。

 ミヒャエルは、哲学分野を専門にしている魔法使いで、フランツにとっても研究者時代の恩師にあたる。二人の兄とアーデルハイトが他界し、シャルロッテが王都を離れた今となっては、クロイツナッハ候と共に、心から信頼を寄せられる数少ない人物だった。

 水面下で相談を受け、一連の事情を汲んだミヒャエルは、元弟子でもある国王に対し、まったく思いがけない提案を持ち掛けてきた。


「姫君の身柄は、(わし)が預かろう。素性を隠したまま、大学へ通わせなさい」


 師の申し出に、当時フランツが驚き困惑したことは、想像に難くない。

 いくら「素性を隠す」と言っても、レティーシアは少女であることから逃れられない。男子学生ばかりが集う学び舎で、たった一人女子でありながら在籍すれば、自ずと不審がられることは明白である。


 しかし、王の師たる老齢の魔法使いには、密かな一計があった。

 ミヒャエルは、かねてから「幻惑の首飾り」と呼ばれる古代遺失物(アーティファクト)を秘蔵していたのだ。この強力な魔力が付与された装飾品は、身につけた人物の外見を、他者に意のままの姿で認識させることを可能にする。

 その魔法の品物を使って、学内では男子を装いながら暮らせば、周囲の目は欺けるというわけだった。


 フランツは、後々迷惑が及ぶのではないかと、恩師の厚意に甘えるべきか、このとき随分逡巡したらしい。

 だが、もしかするとレティーシアの強い熱意や、大学で学ぶことのできなかったシャルロッテのことが、国王の脳裏を掠めたのかもしれない。

 結局フランツは、ミヒャエルの提案を受け入れることにする。

 一方のレティーシア当人は、念願のシュマルカルデン大学に在籍できるとなれば、どのようなかたちであれ、これを歓迎しないはずはなかった。



 こうして神刻暦一〇一七年の秋、レティーシアは一二歳にして、学術都市シュマルカルデンへ留学――大学での学生生活をはじめる。


 ただし、学内における「彼女」は、「彼」であり、「レオポルド」という偽名を名乗ることになっていた。「ピルナ出身で、ラーヴェンスブルグ公爵家に仕える騎士の子息」という経歴を掲げ、フランツの紹介状とミヒャエルの推薦によって、無事に入学手続きを済ませた。

 年齢も、実際より二歳多く偽って、一四歳と申告しておいた。志望者には、出自が貴族だと、概ね一四、五歳で入学する者が一番ありふれているからである。


 ところが、入学後の成績は、到底ありふれてはいなかった。

 哲学、数学、語学、法学、歴史、地理、政治学、軍略、天体運行、錬金術、古代魔法――

 およそありとあらゆる分野で抜きん出た才知を発露させ、開学以来屈指の天才であることを、誰もがすぐに認めざるを得なくなった。

 ……唯一、神学の分野だけは、まったく成績が振るわなかったけれども。


 就学から二年目の途中で、レオポルドは早々と飛び級を告げられる。

 この頃、「彼」は将来学者を目指すことを公言し、また周囲もそれをごく自然な未来だろうと見做していた。常に他の学生たちからは、羨望や嫉視、憧れや敵意などといった、様々な感情が向けられていたものの、それらは総じてレオポルドの実力を無視できないがゆえだった。

 そのような学校生活は、刺激的で、困難も少なくなかったけれど、大いに充実していた。


 だから、四年目の秋、突如として学者になるという前言を撤回し、レオポルドが大学を去ることになったとき、多くの人間は驚き、またそれを意外に感じたであろう。

 無論、シュマルカルデンを追われることになった理由は、「彼」自身の意思とは完全に異なるものだった。

 大学の運営上層部に、「レオポルドは魔法によって性別を偽っている」という密告があったというのである。詳しい素性まで看破されていなかったのは、せめてもの救いだったかもしれぬ。


 けれども、こうなっては、大学に「彼」――いや、「彼女」を在籍させ続けることは、もう不可能な状況だった。


「なぜです。どうして、そこまで『男』であることが重要なのですか!?」


 もはや擬態の仮面を捨て、レティーシアはミヒャエルに食い下がった。

 彼女は、これまでの自分が積み重ねた努力と成果に、確たる自信を持っていた。


「……主な理由は、たぶん二つある」


 ミヒャエルは、無念そうに返答した。


「ひとつは、この大学を認可している神聖ザルヴァ教団が、女子に学術研究を許していないこと。もうひとつは、学業首席の学生が女子だと明らかになれば、他の男子生徒の体裁が良くないことだろう。特に上流貴族の子息には、信仰や羞恥から逆上する者も出かねん」


 レティーシアは、絶句した。心の底から呆れ果て、かえって笑みが口元に浮かんだ。

 またしても、ザルヴァ教団の教義と、身分や性差の差別思想か!

 これまで、レティーシアと肉親の人生を、それらは何度となく踏みにじってきたのだ。父母の関係を引き裂き、幼い時分に家族と別居させ、ついには彼女の夢まで奪ったのである。


 レティーシアの心に、この不条理な挫折は、深く大きな傷跡を残すことになる。

 以後、彼女の人生において、これが独自の価値観を形成していく、決定的な要因になったとみて差し支えない。




 神刻暦一〇二一年、レティーシアは学術都市シュマルカルデンを離れた。

 最後の日、ミヒャエルの研究室へ立ち寄ると、借り受けていた魔法の首飾りを返却した。そのあと、簡単にこれまでの礼を述べてから、彼女は老魔法使いの寂しげな視線を背中に浴びつつ、ちいさな手荷物を片手に部屋を出た。

 レティーシアが一七歳になる誕生日を、間近に控えた秋のことだった。



 尚、形式上は、四年次修了と共に、このとき彼女には二度目の飛び級が告げられた扱いだった。それに伴い、大学から学士号も授与されている。

 ただし、その学位名簿には、あくまで男子学生「レオポルド」の名で表記されており、そこに女子学生が首席だった事実は、残っていない。


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