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まおうのせけんは、いがいとせまいようです。

前の投稿からだいぶ空いてしまった……

まあ、そんなに待ってる読者いないんだろうけどさ……

 至近だったとはいえ、よけられない距離ではなかった。しかし、厳然として頬は擦過により赤くなり、ヒリヒリと痛む。

 その傷を作った張本人はというと、不遜な態度で俺の前方を闊歩している。ちなみに、落下から助けた礼はなかった。

「おい」

 声をかけたが返事はない。

「…………」

 少し考え、

「貧――」

 言い切る前に拳が襲いかかってきた。なるほど、そういう単語には敏感なようだ。てか、気にしすぎな感もあるが。

「危ない危ない」

「ちっとも危くなさそうだが?」

 彼女の言うとおり、別に危うくもなかった。距離は十二分にあったし、速度は優に認識できるもの。避けるのはたやすい。

 片角の彼女は首を傾げながら拳を引き、それからあたりを見回す。

「ここは島なのだな?」

「ん? ああ、そうだな。それが?」

「別にどうということもないが。しかし、この広さの島にしては栄えていると思ってな」

 確かに、彼女の言うことにも一理ある。島の中心から各沿岸に到達するのに徒歩で約一時間。つまり、面積にすればおよそ48km2。狭いということもないが、決して広くもない島だ。王城を中心とした首都の他、沿岸や平野部にはいくつかの大小様々な集落が存在する。だが、彼女が言いたいのは今現在立っているこの首都についての話だろう。

「このイースアイランドは大陸にある王国の属国だからな。資源や技術はそっち頼りだよ」

「ああ、そういうことか」

 道理で、と彼女は納得の色を見せ、視線を商家に向ける。

「だが、食料はほぼ自給のようだな?」

「そりゃあな……日持ちのする干し肉とかならともかく、果実や生肉は船で運ぶあいだに腐っちまう。だから、肉は自分たちで育て、果物も農園を作って採集してる」

「平和だな」

 東の大陸から吹いてくる風が少女の髪を暴れさせ、その表情を隠す。

「ここは、と言うべきだろうけどな」

 俺は視線を見えぬ大陸に向け、吐き捨てる。戦争は厳然として存在する。この島まで届いていないだけだ。平和を歌うために作られたような、箱庭。それがイースアイランド。

「勇者がいたって、平和なんか作れっこない」

 俺のつぶやきを聞いてかは知らないが、

「まあ、あんな斬新な姿をした勇者は平和の象徴になる訳もないな」

 向けた人差し指は首都の広場に設置された勇者像を指す。その像はほかでもなく俺が首をもいだもので、その首はというと、

「剣の先に己の首を掲げるなんて、なんのつもりだ? 自己犠牲の象徴か?」

「きっとそういうことじゃないのか? 勇者は身を粉にして人に尽くした。だから、大衆にもその精神を見習って欲しいんだろ」

「……勇者がそんな精神でいいのか」

 俺の内心は露知らず、少女は半目になる。まあ、押し付けがましい勇者というのもいただけないのはよくわかる。

「さて、少し歩いて疲れた。お前の家でいいから案内しろ」

「さてもなにも、そんなことしてやる理由が見当たらない」

「い・い・か・ら」

 一音一音区切って言いながら、詰め寄ってくる。手のひらにはなぜか炎が灯ってるし、逆らわない方が身のためなのかもしれない。それに、こいつには何を言っても無駄な気がする。

 というわけで、家に連れて来た途端、いや、正確に言うと俺の親父の顔を見た途端意気消沈し、すぐさま引き返そうとする少女。

「おいこら、人様の親の顔見て引き返すやつがどこにある?」

「ここにある!」

 逃げようとする彼女の首根っこを掴み、家に引きずり込む。

「まったく、暴れるなよ……」

 凄まじい力で抵抗されたが、むりやり椅子に押し込めると流石に観念したのか大人しくなる。その間、親父殿は黙々と茶の準備をしていた。なんともマイペースなお人である。

「…………」

 無言で茶が差し出される。普段からほとんど喋らない人だから俺はその態度に慣れていたが、少女の方はそうではなく、そわそわしていた。

 俺は少女の向かいに腰掛け、茶を一口。親父は一度だけ視線を俺たちに向けたあと、無言で奥へと引っ込んだ。

「で、いきなりどうしたよ?」

「なんでもない」

「へいへい、そうですか。まあ、それよりも先に聞くことあったな。お前、名前はなんていうんだ?」

「ふん、ボクに名前を聞くなんて、随分と大きく出たものだな。普通ならお目にかかることもなかっただろう相手だぞ?」

 急に得意げになった少女。俺は若干面倒くさくなって、

「いや、言いたくないならいいや」

「なん……だと?」

 なんでそこまで驚く?

「言いたいなら言いなさい。お兄さんは待ってるから」

「いちいちしゃくにさわる男だな、お前は。まあいい、尊大なボクは教えてやることにした」

 椅子を蹴立てるようにして立ち上がり、ない胸を逸らす。ああ、平らだ。

「平らだ……」

「ふんッ――」

 茶に添えてあった鉄製のスプーンが飛んできた。が、俺はそれを揃いのスプーンで弾き飛ばす。

「おっかないなぁ」

「まったく、血は争えないというべきかなんというか……」

 少女は愚痴りながら再び席に着いた。

「いきなりなんだったんだ?」

「お前が失礼なこと言うからだろう」

「失礼なこと? ああ、たい――!?」

 テーブルの下ですねを蹴られた。これは流石に痛い。少々涙目になりながら抗議の視線を送ると、勝ち誇ったような笑みを返された。

「というか、そろそろ本当に名乗りたいんだが?」

「ぅぐ……勝手に名乗ればいいじゃないか。そうじゃないとムネタイラって呼ぶからな」

「巫山戯るな」

 恐ろしく低い声で恫喝すると、一度咳払いして、

「ボクの名前はデルフィアだ。種族は見ての通り魔族。だが、そんじょそこらの魔族と一緒にするなよ。なんて言ったって、ボクは魔王なのだからな」

「へー」

 まあ、名前以外に関してはある程度予測できていたので驚きはない。が、俺の態度がお気に召さなかったらしい。デルフィア――いや、長いからフィアと呼ぼう――はこめかみに青筋を浮かべて指を鳴らしている。

「人に名乗らせておいてその態度は流石にな……寛大なボクも堪忍袋の緒が切れるといったもので」

 拳に炎が灯り――

「おかわりだ」

 横からぬっと現れた親父が何も見えてないかのように俺の器に茶を注ぎ足す。

 フィアは気勢を削がれてか、拳から炎を消し、親父から目を逸らす。そんなに怖いかな?

 まあ、筋肉質な体型と顔を覆う濃いヒゲ。総合してみれば熊にも似た姿だが、別に人を取って食うようなことは決してない。

「久しいな」

 親父は確かにフィアを見据えてそう言った。知り合いだったのか? それは流石に知らなかった。

「殺した相手に久しいもなにもないだろう。なあ、英雄グレン?」

 皮肉そうに頬を歪め、フィアは親父を英雄と呼んだ。どうやら俺の知らぬ過去に因縁があったらしいのだが――

 俺の感想はただ一つ。




 どうやら世間は思ったよりも狭いらしい。

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