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めざめたのはいいけど、いまいつだ?

 光が眩しくて、ボクは微睡みから覚める。

 目を開けたそこには、ボクを心配そうに見つめる魔族の男たちの姿が――

「って、暑苦しぃんじゃ、ボケェッ!」

 勢いよく起き上がり、眼前の男の顔面に渾身の右ストレート。拳に当たる硬い肉の感触が歪み、そして吹き飛ぶ。

「ごぶぅ!」

 男は醜い声を上げて壁に叩きつけられた。

「朝っぱらからテメェら全員雁首揃えやがって。ただでさえ狭い部屋がすし詰め状態じゃないか」

「申し訳ありません、魔王様。しかし、なかなか目を覚まされないものですから、我ら一同心配になりまして」

「ふんっ――一分や二分程度の寝坊で心配なんぞ」

 ボクはヘコヘコと頭を下げる初老の『一つ目』を見下ろす。

「それが……寝坊したのは実に四年。つまり、魔王城の降臨から既に四年経過してブホォ!」

「ふんッ!」

 再び右ストレート。

「なぜさっさと起こさなかった?」

「そへは、おおひへほ、なはなはおひなふて」

「なにを言ってるのかさっぱりわからん」

「……ごほん。我らも何度も何度も呼びかけ、ついぞ魔道具にも頼ったのですが、結局目を覚まされなかったのです」

 じーっと目が一つしかない顔を見つめる。目が一つであるがゆえに、他者より大きいその瞳を眺め、嘘はついてないのだとわかる。いつまでもこだわっていても仕方ない。なら、別のことを聞くのが建設的と思い、

「まあ、起きなかったのはボクの責任だとしてだ……当然、兵力は蓄え、侵略の準備は出来ているのだろうな?」

 頭の横から突き出す立派な一本角を撫でながら問う。期待を胸に見回すと、彼らはこぞって目をそらし、とある方向を指差した。

 そちらへ目を向けると、

「…………」

 ボクは半目になり、目をこすり、しかし、変わらぬ景色に頭痛がして、

「なんじゃこりゃぁ!」

 叫んだ。心の底から叫んだ。

 だって、そこにあったのは窓であり、そして、そこから覗く景色は、

「どうして人間の城がすぐそばにある!?」

 そう、魔王たるボクの宿敵であるはずの人間の城が眼前に聳え、なおかつ、視線を下に向けると、

「平和だな……」

 思わず呟いてしまうほど、今自分がいる“魔王城”の城下町にも笑顔の人々が溢れていた。

「なあ」

「はい、なんでしょう」

 答えた初老の一つ目は顔に汗を浮かべている。

「どうしてこうなった?」

「……偶然、としか」

「偶然か。うん、そうなのかもな」

 魔王城は人間界に不定期に降臨する。場所はランダムであり、大概は大きな地脈の近くに位置し、魔力を蓄えやすく、なおかつ守りに堅い場所に降臨するはずなのだ。だが、現状はどうだ。

 地脈こそ大きいようだが、目の前には城。ああ、城だ。立派なおそらく王城がある。守りなど無いに等しい。それは人間側も同様なのかもしれないが、魔王城が降臨したばかりというのは魔王そのものの力が弱い。四年程度じゃ、まともな力は蓄積されてないだろう。

 つまり、歴戦の戦士程度であれば倒せるほどボクは弱い。

「ふっ……ボクの命運はわずか数分で途絶えるのか」

「ひ、悲観することはありませんぞ。なぜか人間側は我らに手出ししてきませんし、我らも手出しをしていません。つまり、争う必要はないのです」

「それ、本気で言ってる? バッカじゃなかろうか」

 吐き捨てる。だって、なんか武装集団が魔王城の中にいるのわかるし。しかも、門兵や見張りが次々に消えてるのも手に取るようにわかる。城の管理者である魔王ゆえに、だ。

「…………」

 ボクは取り巻きを見つめ、そして、出て行くように身振りで示す。犠牲を増やす必要はない。

「ですが――」

「邪魔だって言ってんだよ、うすらボケ」

 そう、犠牲は少ないほうがいい。ボクが暴れると周囲の被害がすごいから。

「わかりましたよ。勇者でもない戦士に負けないでくださいよ。じゃあ行こうかの、皆の衆」

 初老は皆を促し、ドアから出て行く。その際、

「さて、今日はどこで遊ぼうかの。この前行った飲み屋の姉ちゃんが別嬪だったし、そこにするか」

 などとほざきやがる。だが、ボクは鋼の自制心で震える拳を押さえ込み――

「きれるかボケェ!」

 火炎魔法で背後から奇襲をかけた。

「ご乱心。殿がご乱心じゃ!」

 逃げ惑う取り巻きども。いや、こんなやつらを取り巻きだと思ったボクがバカだった。平和に浮かれ、人間と迎合しようとする輩など魔族に必要ない。

「死ねやゴラァッ」

 炎を乱射し、辺り一面を火の海にする。だが、それでも奴らは逃げる、逃げる、逃げる。蜘蛛の子を散らすように方々に散っていく。

「逃げるんじゃ――ないッ!」

 火力を上げても、そもそも当たらなければ意味もなかった。ただ、部屋だけが無残な姿へと変わっていく。壁は焦げ、床の一部は崩落。衝撃で窓ガラスも吹き飛んでいた。

「ハーイ、デリヘルでーす!」

 そして、突如部屋に飛びこんでくるマッチョの戦士二人。

「どうせ出張地獄とか言い出すんだろ? この人間風情が!」

「なぜわかったですか!?」

「知るか」

 そいつらも一緒に問答無用で焼き払う。

「ノオオォオォ!」

 人間の一人は火柱と化し、奇っ怪なダンスを踊り始める。

 もう一人はというと、

「妖精さん、わたしを守ってぇ!」

 と叫び、手近にいた魔族の首根っこをつかんで盾にした。

「妖精さん関係ないな……」

「むふふふ……じゃあ、こんどはわたしが! ふぁいやーぼーる」

 火柱と化していた相方を素手で掴んで投げつけてくるという非常識さ。だが、ボクもさすがに色々と危険を感じて大きく後方へと回避。なおバウンドして迫ってくる巨体をベッドを立てて壁にすることで防ぐ。当然、ベッドは延焼して燃え始めたが気にしてる暇はなかった。

「ダブルラリアット!」

 戦士のオカマは両腕を大きく伸ばした状態で回転。周囲にいた魔族はことごとく吹き飛んだ。

「どう考えても人間の腕力じゃないな……さては――」

 ボクはまだ無事なクローゼットへと駆け寄り、一つのモノを取り出す。

 それは手鏡。だが、姿を映すためのものではない。

「すべての虚飾をはがせ、裏鏡」

 起動の言葉を素早く唱え、頭上に掲げる。光が出るとかそういう演出は一切なく、ただ効果を発する。つまり、魔法による構築物の一切が消失した。

「あっ……」

 そういえば、この魔王城も魔法によって構成されたものだったことを思い出したが既に遅し。すべてが崩落し、ボクの体も宙に放り出された。

 オカマの姿を一目見ようと視線を向けた先には無数に増えていくスライムの姿が。

「凝集体かよ……スライムごときがボクに拳を向けるなんて無謀もいいところだ」

 ボクはため息をつき、しかし、そのこと自体はすでにどうでもいい。問題は、

「このボクの体で落下に耐えきれるかどうか」

 四年の歳月による魔力の蓄えはあるが、それは起きて積極的に得た場合よりもはるかに効率が悪い。つまるところほとんど蓄えがない。

「魔王、目覚めてすぐに転落死。ふっ……まったく笑えんな」

 そうこうしてるあいだにも地上は近づいて――意識が途絶えた。

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