肝試し
すこーし生生しいかも。
楽しかった花火も終わり、夜も更けてきた。いよいよ肝試しだ。
お堅い中高一貫の女子高に通っていたありさは、夜遅くに肝試しなんてしたことがない。
といっても肝試しとは名ばかりで、本当の目的はカップルをつくることだ。
肝試しのルートの途中で分岐点があり、片方は普通の肝試しコース、もう片方は告白スポットにつながっている。
そこで告白するもよし、もう少し奥まったところでするもよし。
参加者80名弱の中から10組ほどのカップルが生まれる、メインイベントだ。
それを楽しみにしている者も多い。
航もそのうちの一人だった。
「瑠夏ちゃんまだかな~俺に告白してくれねぇかな~」
玉城がうきうきした調子でそう言うが、その可能性は限りなく低いと思われた。
きっと、瑠夏は玉城のことなんて微塵も意識していない。
その辺の男友達と同じ感覚だろう。
それよりも、ありさがどう航に告白してくるかが問題だった。
サークルメンバーがそれ以外の人をこのバーベキューに誘うというのは、告白させてくださいという意思表示だから、航は今日必ず告白されるはずだ。
もちろん返事はOKにするつもりだったが。
「別に浴衣のままでもよかったんだけどな~可愛かったし!」
山の中を歩くので、浴衣じゃやりにくだろうという部長の提案で、浴衣を着ていた人は着替えてもいいことになっていた。
着替えない女子もいたが、花火ではしゃぎすぎて疲れた瑠夏は普通の恰好に着替えるようで、ありさと一緒に一度バンガローへ戻って行って、今は玉城と二人きりである。
「ところで、ありさちゃん、どんな告白をすんだろな~・・・てか、したことあるのか?てか、付き合ったことあるのか?」
おせっかいな玉城が口出しをしてくるが、そこは航も気になっていたところだった。
見る限りでは男慣れを全くしていないし、少し話した感じではずっと女子高のようだったので、付き合ったことはないと思われる。
≪・・・ということは、処女か・・・≫
その考えに航はまた身体が熱くなった。
航も玉城も中学も高校も共学だったし、航自身、性格や見た目で女子に大変人気だったので、彼女がいたことも、キスをしたことも、セックスをしたこともある。
しかし、処女を相手にするのは初めてだった。
航に告白してくるのは自分に自信のあるモデル体型の手慣れた女ばかりで、航の好みであるぷくぷくしたおとなしい女のことは付き合ったことがなかったからだ。
「さぁな。あ、来たぞ。」
まるで興味がないといった風に受け流して、ちらりとバンガローの入り口を見ると、ありさと瑠夏がちょうどやってきたところだった。
瑠夏はみごとな脚線美をあらわにして、歩いてくる。
「すいません、遅くなって!」
「いいよいいよ~じゃあ、行こうか!」
肝試し会場に着くと、部長がこちらにやってきた。
あまり人はいない。
どうやらあつまった順に出発するらしく、前の人たちは行ってしまったようだ。
「4人来たね。じゃあ、説明するね。ミッションは、この道を下ってお堂の中にあるスタンプを押してくること!所要時間は30分ちょっとです!明りはこちらで貸し出します。途中で分岐点があるけど・・・ふふふ。正規コースは左です!じゃあ、健闘を祈ります!」
ありさは、部長が最後のほうで言っていたことの意味がわからなかった。
正規コースが左なら、右は一体何なのだろうか?
そして、どうして含みのある言い方をするのだろう。
もちろんそんな言い方をしたのは、部長は、ありさが航に告白すると思い込んでいるからなのであるが、そんな気は全くないありさは不思議に思っていた。
「俺たち最初でるよ!航たちは後で・・・」
「そうね~・・・ふふふ・・・」
変な言い方をした瑠夏と玉城は、渡された懐中電灯で足場を照らしながら先に出て行ってしまった。
残されて、二人の間に小さな沈黙が落ちる。
「前の人とは、少なくとも10分弱あけてね!」
部長が思い出したように付け加えたのを聞くと、ありさはちらりと航を見上げ、航とばっちり目が合ってしまいあわててそらした。
≪どうして目があったんだろう?私が見たことに気づいたのかな?もしかして私を見ようとして・・・いや、それはないか。≫
ありさは自分のうぬぼれを打ち消した。
「じゃあ、行こうか。」
「は、はい。」
二人が出て行ってから8分たち、ありさたちは出発することにした。
実はありさはおばけや幽霊などはあまり怖いと感じないのだが、航は理由もなくありさが怖がりなのだと思い込んでいた。
「はい。」
「えっ?」
差し出された手に戸惑うありさ。
航はすっとありさの右手をとった。まるで、おばけなんて怖くないよ、というかのように。
しかしありさはそれどころではない。
先輩と二人で歩くことができてうれしいな~くらいにしか思っていなかった肝試しで、まさか航と手をつなぐとは・・・!
「あの・・・手・・・」
「ん?」
「・・おおきいですね」
ずきゅーん
航の胸を貫いた言葉はそれくらいの威力があった。
暗闇でよかった。顔が赤いのも、あれが反応してしまったこともわからない。
航はそんなことないよ、と流したのだった。
*********************
「ここか・・・」
二人は分岐点に差し掛かっていた。
確か、正規コースは左・・・ということで、ありさは左に行こうとしたのだが、航はなぜか右へ行こうとする。
「あれ?右に行くんですか?」
「え?そうじゃないの?左は正規コースだよ?」
なんとなく会話がかみ合っていないような気がしたのだが、二人は気づかなかった。
≪正規コースだから行くんじゃないのかな・・・
もしかして、正規コースじゃないから探検として先輩は行こうとしているのかも!だったら行かないとまずいよね。≫
ありさは自分で自分をそう納得させて、航について行った。