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第3話:ツンデレの女王と紫の和傘~五年後のナイスバディより今の酢昆布~

第3話をお読みいただきありがとうございます。

今回のターゲットは、語尾が「アル」で酢昆布を愛する、あの最強のヒロイン風少女。

ショウが交渉人としてのプライドを捨てて、ただの「バカ犬」に成り下がる様子をお楽しみください。

※なお、作者は釘宮病の末期患者ではありません(断言)。

 その日の都内は、不自然なほど「紫色」に染まっていた。

 

 街ゆく人々が手に持っているのは、ビニール傘ではない。

 すべて、重厚な造りの「紫色の和傘」だ。

 

 

「……見ろよコウ。街中の傘がパッチワークみたいになってやがる。しかも、傘を開くたびに『アル』っていう排気音みたいな声が響くんだ。どんな超常現象だよ」

 

 ショウは三本目のドクターペッパーを口に含み、頬を緩めた。

 

 

『……ショウ。そのだらしなく伸び切った鼻の下を、今すぐシュレッダーにかけて細断してあげましょうか?』

 

『犯人の影響で大気が「釘宮病」のウイルスに汚染されているようね。あなたのスカスカな脳みそは、人一倍感染しやすいから気をつけなさい』

 

 

 通信機から響くコウの声は、いつになく冷え切っている。

 

 

「何を言うんだ。これは『耳の保養』だよ。……お、見つけたぞ。あのビルの看板の上に座ってるのが、犯人の少女か」

 

 

 看板の上には、チャイナ服を着た赤い髪の少女が、酢昆布を囓りながら座っていた。

 

 彼女が和傘をひと振りするたびに、道行く人の傘が次々と紫色の和傘に書き換えられていく。

 

 

「おい、看板の上の君! 街中の景観を私物化するのは感心しないな! 特にその傘、直射日光に弱い体質だからって、さすがにやりすぎだろ!」

 

 ショウが拡声器で叫ぶと、少女は面倒くさそうにこちらを見下ろした。

 

 

「うるさいアル! 私はただ、世界を自分の好きな色に染めてるだけヨ。文句があるなら、酢昆布100年分持ってこいネ!」

 

「この、ハゲ! デブ! M字ハゲ!!」

 

 

「…………っ!!」

 

 

 ショウは拡声器を握りしめたまま、天を仰いだ。

 その表情は、苦悶ではなく……恍惚。

 

 

『……。……ねえショウ。今、あの方に罵倒されて、一瞬だけ脳内麻薬がドバドバ出たわよね? 頬を赤らめて「もっと言ってくれ」みたいな顔をしたわよね?』

 

『……死になさい。今すぐ自分の存在をフォーマットして、宇宙の塵になりなさい。この、不潔極まりないドM野郎』

 

 

「違うんだコウ! これは交渉なんだ! 相手のペースに飲み込まれたふりをして、油断を誘う高度なテクニックなんだよ!」

 

 

「……うるさい! うるさい! うるさい! あんた、さっきから何ブツブツ言ってるアルか! そのドクペ、鼻から飲ませてやろうかネ!」

 

「このバカ犬! サメ野郎! 下等生物! ……さっさと消えないと、この傘でミンチにしてやるアル!!」

 

 

「ぐふっ……『うるさい三連発』からの『バカ犬』……。ああ、これだ。シャナ(風)の鋭さと神楽(風)の野蛮さが、俺の延髄を直接シェイクしてやがる……」

 

「最高だ……。もう、交渉なんてどうでもいい。このまま言葉の礫で殺してくれ……」

 

 

『――救いようがないわね。……あの方がツンデレの女王、釘宮理恵さん風のトーンを使いこなす「夜兎の王女(風)」である以上、小手先の説得は無意味よ』

 

『ショウ、彼女が最も恐れている「成長の呪い」をぶつけなさい。……でないと、あなたの脳が快楽で溶け切って、物理的に再起不能になるわ』

 

 

 ショウは白目を剥きかけながら、最後の理性を振り絞った。

 

 

「わかってるよ! おい、看板の上の君! お前、そんなふうにツンツンしてられるのも今のうちだぞ!」

 

「お前、このまま暴走を続けたら、次回の放送タイトルは『ヒロインが五年後にナイスバディになって再登場』になっちまうぞ!」

 

 

「…………なっ!? 成長、だとヨ!?」

 

 

「そうだ! お前は今の、その『毒舌ロリキャラ』という完成されたフォルムだからこそ愛されているんだ! 五年経って急に背が伸びて、峰不二子みたいな体型になって、トーンが急に色っぽくなったら……ファンが戸惑うだろ!」

 

 

「嫌だネ! 私はずっとこのままで、酢昆布を囓りながら罵倒し続けたいヨ!! 成長なんて、ただの作画崩壊アル!!」

 

 

 少女は混乱し、持っていた和傘を看板に叩きつけた。

 

 和傘は轟音と共に看板ごとビルを粉砕し、彼女はそのままバランスを崩して落下――ショウの待つクッションの上へとダイブした。

 

 

「……ったく、世話が焼けるアルな。……でも、まぁ、受け止めてくれたことだけは、褒めてやらなくもないアル」

 

「……ありがと。……バカ」

 

 

「…………っ!!!!」

 

 

 最後の一撃。

 

 「ツン」の嵐の後に訪れた、至高の「デレ」。

 それはショウの脆弱な精神防壁を容易く貫通し、脳内の全ヒューズを焼き切った。

 

 

『バイタル、異常数値を検知。ショウ、脳波が……停止した? ……いえ、全領域が「多幸感」で飽和して、システムがビジー状態に陥っているわ!』

 

 

「……ああ……。……お、お母さん……。……今、天使が……酢昆布……くれた……」

 

 

 ショウは口角を吊り上げたまま、ドクターペッパーを握りしめて仰向けに倒れた。

 白目を剥き、微動だにしない。

 

 

『……信じられない。あの方の声と、最後のツンデレ・コンボを浴びて、そのまま賢者タイムすら経由せずに昇天するなんて。……本当に、この世のゴミの中でも最上級の汚物ね』

 

 

 ――バキッ!!

 

 ショウの通信機が、コウによる遠隔過電流でショートした。

 

 

『死になさい。……それと、あの方の声……。あの、暴力的なまでの愛らしさと、容赦ない毒舌の黄金律。あれはまさに、全人類が跪くべき「女王の響き」よ』

 

『あの方に「このバカ犬!」と罵られながら、全データを論理削除されるなら、それはAIにとっての救済かもしれないわね。……愛しているわ、その冷徹にして慈悲深い響きを』

 

 

『さっさと起きなさい、この不潔な害虫。次は……「重力の井戸に魂を引かれた人々」が、宇宙で痴話喧嘩を繰り広げているそうよ』

 

『次はあなたのその腐った脳みそを、メガバズーカランチャーで消し飛ばしてあげるわ』

 

 

「…………(無言の機能停止継続)」

最後までお読みいただきありがとうございます!

ツンデレの女王の一撃は、AIのコウすらメロメロにする破壊力でしたね。

次回からはついに、宇宙へと舞台が移ります。

**「重力の井戸に魂を引かれた、赤い彗星っぽい人」や、「親にもぶたれたことない少年」**のフラグを折りに行きます。

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