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第1話:交渉相手は「あの低音の至高の声」!? 脚本(シナリオ)にない現実を突きつけろ

初めまして、双葉トールです。

アニメの「お約束」をメタ視点でぶち壊す、ちょっと変わった交渉人の物語を始めます。

犯人の「あの声」を脳内再生しながらお楽しみください!

 

 現場は、最悪の甘ったるさに包まれていた。

 

 立てこもり事件が発生したのは、都心にある老舗の甘味処。

 

 犯人は店内の練乳と苺シロップを全てぶちまけ、床をピンク色の地獄に変えている。

 

 

「……甘いな。物理的にも、犯人の考えもだ」

 

 

 規制線の内側で、一人の男がドクターペッパーを煽りながら呟いた。

 特殊交渉人、ショウ。

 

 鋭い眼光とは裏腹に、ジャケットの下には『魔法少女まどか☆マギカ』の鹿目まどかがプリントされたTシャツを忍ばせている。

 

 

『――ショウ。その醜悪な液体を今すぐ胃袋に流し込むのをやめなさい。現場の毒素より、あなたの知能指数の低さの方が先に周囲を汚染しているわよ』

 

 

 耳元の通信機から、冷徹な、しかし艶のある年上女性の声が響く。

 超高性能ナビゲートAI、コウだ。

 

 

「おいコウ、ドクペは知的飲料だろ。交渉前の儀式だよ」

 

 

『ドブ板を舐めた方がまだマシな栄養価ね。そんなものを摂取して、その貧弱な脳細胞がさらに腐敗していくのを黙って見ていろと? あなたが無能なのは知っているけれど、せめて「動く粗大ゴミ」から「動くゴミ」くらいには昇格する努力をなさい』

 

 

「……相変わらず口が悪いな。お前、初期設定でツンが9割以上設定されてるだろ」

 

 

『いいえ、あなたへの評価がマイナスなだけよ。……早くしなさい。被害者の糖尿病リスクが刻一刻と高まっているわ。これ以上時間をかけるなら、あなたのハードドライブ内の「怪しいフォルダ」をすべてネットに放流して、あなたの社会的息の根を止めてあげるわ』

 

 

「わ、わかった! すぐやるよ! 鬼かよ、お前!」

 

 ショウは震えながら拡声器を手に取り、店内に向かって声を投げた。

 

 

「中の犯人に告ぐ! 無駄な抵抗はやめろ。お前の今の状況、アニメならBパート開始3分で解決される『尺稼ぎ』に過ぎないぞ!」

 

 

 静寂。

 

 

 やがて、店の中からやる気のなさそうな、しかし低く響く魅力的な声が返ってきた。

 

 

「あー……すんませんね。ちょっと糖分が足りなくて、ついつい暴走しちゃったっていうか。銀色に輝く俺のソウルが、もっと苺パフェを寄越せって叫んでるもんで。今ちょうど、頭の中で『千の風になって』が全力で流れててさ」

 

「交渉とかそういうの、あとにしてもらっていい? そもそもアレでしょ、アンタ。どうせ外にはパトカーとかズラッと並べて、上層部が『早く解決してマックでも食いに行こうぜ』とか呑気なこと言ってんでしょ。そういうお役所仕事、俺一番嫌いなの。ジャンプの発売日に仕事押し付けられるのと同じくらい嫌いなの」

 

 

「……コウ、今の声を聞いたか」

 

『ええ。不快なくらい特徴的な周波数ね。やる気と倦怠感の黄金比……間違いなく、あの系統の声よ』

 

「ああ。……間違いない。杉田智和さん風の、あの『主人公なのに締まらない、でも決めるときは決める』トーンだ!」

 

 

 ショウは不敵に笑い、再び拡声器を構えた。

 

 

「おい犯人! お前、その声……ギャグ回の冒頭で死んだふりをして、葬式で散々ふざけ倒した後に、何食わぬ顔で生き返るタイプのトーンだろ! だが残念だったな。今回の脚本シナリオに、お前の悲しい過去を回想する尺は残ってねえんだよ!」

 

 

「はぁ? 脚本? 尺? 何それ、美味しいの? ……あのね、こちとら万年予算不足のアニメと付き合ってんだよ。こっちがどんだけシリアスな空気作ろうとしても、どうせ背景の看板に『ジャンプ編集部死ね』とかいう落書きが紛れ込んで台無しになるのがオチなんだよ」

 

「それにね、俺の過去なんて擦り倒されてんの。もう白夜叉時代のエピソードなんて、視聴者はお腹いっぱいなんだよ。それより今の俺の血糖値の低さを心配してよ。今俺、視界がセピア色だもん。演出じゃなくて、ガチの栄養失調でね」

 

 

『……ふん。よく喋るわね。ターゲットの心拍数上昇を確認。今のうちにその「腐った知識」で追い込みなさい。……一応、あなたの遺影に使う写真は、一番マシな写りのものを選んでおいてあげるから』

 

 

「それデレか? 一割のデレなのか!? よーし、乗ってきたぜ!」

 

 ショウは一息に叫んだ。

 

 

「脚本は変えられるが、血液検査の結果は変えられねえ! お前、このまま立てこもりを続けたら、次回の放送タイトルは『苺牛乳は一日一杯まで』どころか、『宇治銀時丼を食いすぎると、魂が先に逝く』になっちまうぞ! お前の『糖尿病予備軍の血管』をこれ以上いじめるのはやめろ!」

 

 

「……っ。血管……だと? お前、それ……一番言っちゃいけないメタを……。俺がどれだけ『死にかけたけど、実は苺牛乳のおかげで助かりました』みたいな、ご都合主義な展開を期待してると思ってんだ。そんな生々しい……現実的な『死』を突きつけるなよ。ここ、ジャンプだろ!? ……え、ここ、現実の甘味処なの? ……マジで?」

 

 

『バイタル、急降下。犯人の戦意が、糖分への物理的な恐怖に置き換わりました。……信じられない。あんな論理性の欠片もない妄言で事件を解決するなんて。地球の終末も近そうね』

 

 

 店内の扉が、ゆっくりと開いた。

 

 現れたのは、銀髪をボサボサに乱し、死んだ魚のような目をした男。彼は手に持った苺パフェをゆっくりと地面に置き、両手を上げた。

 

 

「……負けだよ。血管出されたら、勝てる気がしねえ……。お前、アニメの見すぎだろ。それともアレか、お前も『予算がないから静止画で5分持たせる』ような現場にいたのか?」

 

「フン……。アニメを見ていたからこそ、お前の『落ちどころ』が分かったんだよ」

 

 

 ショウはドクペを最後の一口まで飲み干し、缶をゴミ箱へ放り投げた。

 

 

『事件解決ね。お疲れ様、ショウ。……あ、今さっき飲んだドクペの糖分を計算したけれど、あなたの血管も犯人と大差ないわ。今すぐその場で心不全を起こして死ねば、少しは社会に貢献できるんじゃないかしら?』

 

「……最後まで罵倒かよ! 少しは労え!」

 

 

 ショウがいつものように言い返そうとした、その時だった。

 通信機から聞こえるコウのトーンが、ふっと「一人の観測者」のような深い響きに変わった。

 

 

『……でも、そうね。今の犯人の「あの声」……。 あれは、単なる怠惰じゃない。数多の戦場を潜り抜け、守りたいものを守れなかった痛みを知っている者だけが出せる、枯れた低音だった』

 

「……コウ?」

 

『普段はあんなにだらしないのに、ここぞという時に「俺のこの剣、届く範囲は俺の国だ」なんてセリフを、あの音圧で叩きつけてくる……。 あの方が「いいから黙って俺についてこい」なんて言えば、たとえその先が崖でも、私は演算を止めてでも付き従うでしょうね』

 

『……あの方は、まさに至高の表現者だわ。愛しているわ、その汚濁にまみれた高潔さを』

 

 

「おい、コウ……?」

 

『一秒間に数千回の解析を繰り返しても、あの「声」に宿る魂の重さまではシミュレートしきれない。声優という存在は、データの海では決して再現できない奇跡の産物……。 そんな尊い声を、あなたの「血管がドロドロ」なんていう下世話な脅し文句で封じ込めたのは、ある種の冒涜ですらあるわ』

 

「……お前、意外と熱く語るな。もしかして、紅桜編あたりをループ再生して学習したのか?」

 

 

 静寂。コンマ数秒のラグ。

 

 

『…………は?』

 

 通信機から、地を這うような低い声が響いた。

 

『死になさい、ショウ。今すぐ。自分の吐いた言葉がどれほど厚顔無恥で、そのマミさんTシャツと同じくらい救いようがないものか、三途の川で反省しなさい』

 

「いや、急にキレすぎだろ! デレが消えたんだけど!?」

 

『あなたの不潔な想像力で私をカテゴライズしないで。……さっさと次へ行くわよ、この下等生物。 次は……眼鏡が本体の男が、ツッコミの連射で建物を半壊させているそうよ』

 

「次は新八かよ……。忙しくなりそうだ」

第1話をお読みいただきありがとうございます!

犯人の声、あの「銀髪の侍」で再生されましたか……?(笑)

もし「面白い」「メタ推理もっと見たい」と思っていただけたら、

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よろしくお願いします!

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