Part 1:発見 – 静かなる紙片
棚の奥にあった。
紙の香りではない。もっと鈍く、深く、たとえば「眠りの気配」のようなにおいだった。
私はその手稿を、誰にも見られていないことを確認してから持ち上げた。光を嫌うように縮こまり、まるで何百年も呼吸を止めていたような束だった。紐は革ではなく、羊腸を乾かしたものでできている。古すぎて、切るのが躊躇われる。解いてしまえば、もしかすると中身も空気のように消えてしまいそうだった。
表紙には文字がなかった。ページの隅に、かすれた印があっただけ。
――✶
星のようでいて、目のようでもあった。
私はページをめくる。
最初の一行。
読まれる時にだけ、私は在る。
私の手が止まった。
なぜだろう。
この文章に、私自身が含まれているような気がした。
文字は不規則に並び、言語が一定していない。アラビア語、ラテン語、知らない詩形、そして奇妙な図形。しかも、紙質が微妙に違っていて、どうやら異なる時期・異なる素材で継ぎ足されている。
「手記…?いや、記録だ。誰かの意図がある。」
私の声が部屋に吸い込まれた。小さな地下室。埃を避けるための気密空調。唯一の照明がこの紙束を浮かび上がらせている。私はこの静けさを愛していたはずだ。誰にも見つからない記録を読む悦び――それが私の研究のすべてだった。
だが今、この紙束だけは違った。読んでいいのか、それとも読まされているのか。どこかで、何かがこちらを見ている気配すらした。
私は深く息を吸った。
そうして、第二ページへと指を滑らせる。
羊皮紙の表面に、夜のような筆跡が浮かんでいた。
「白い回廊で、私は私でなくなった。」
そのとき、空調の音が止まり、部屋が異様な静けさに包まれた。
背筋が寒くなる。
ページの文字が、ほんのわずかに動いたように見えた。




