始まりの街と、終わりの財布
たどり着いた街の名は『アルセンクル』。
高く聳える石壁の門をくぐれば、そこは熱気に満ちていた。
背中に大剣を背負った戦士や、豪奢な杖を携えた魔導師たちが闊歩する、いわゆる「冒険者の始まりの街」だ。
本来なら、ここで最新の装備を整え、旅の準備を万全にするのが定石なのだが。
(……武器どころか、明日の飯代すら怪しいぞ)
さっき馬車を買ったせいで、懐は北風が吹き抜けるほどに寒かった。
仮に金があったとしても、筋力1の俺には剣は重すぎ、魔法1の俺には杖はただの棒切れでしかない。
物理・魔法、あらゆる攻撃手段が封じられた「賢者」の姿がそこにはあった。
俺は、意識のない少女を「静養が必要な我が弟子だ」と宿の主人に告げ、
全財産を投げ打って二つの部屋を確保した。
彼女を隣のベッドに横たえ、自分の部屋へと移動する。
「……はぁ。二人用の部屋を借りたら、本当になくなっちゃったな」
ベッドに倒れ込むと、三日間の緊張と疲労が、重い泥のように身体に沈んでいく。
シーツの柔らかさが、唯一の救いだった。
しかし、旅はまだ始まったばかりだ。
ステータスの檻を壊す薬品『クルドリカル』。
その影さえ見えない現状だが、俺は明日から、この街で「無一文からの再起」を図らなければならない。
(……まずは、彼女が目を覚ました時に、どう説明するかだ)
俺は重い瞼を閉じ、泥のような眠りに落ちていった。




