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幻の霊薬と、重すぎる旅立ち

王子を救った功績は、俺に「救国の賢者」という身に余る肩書きをもたらした。

王宮に招かれた俺が、褒美として真っ先に希望したのは、金貨でも領地でもない。

この国で最も知識が集まる場所――王宮書庫への立ち入り許可だった。

(……このままじゃ、いつか絶対に死ぬ)

石灰石やアレルギーの知識で切り抜けられたのは、単なる運だ。

ステータスALL 1。この絶望的な数値をどうにかしない限り、俺の人生は常に薄氷の上にある。

重厚な静寂に包まれた書庫で、俺は古びた一冊の本を手に取った。

『ステータス。その不変の檻を壊すことわり』。

ページをめくると、そこには残酷な現実が記されていた。

「本来、人を含むあらゆる生物は、生まれた瞬間にそのステータスが決まる。

後天的にそれを変えることは、理に反する不可能事である」

……やっぱりダメなのか。

項垂うなだれそうになった俺の目に、掠れた文字で書かれた追記が飛び込んできた。

「――しかし。世界に存在するかも分からぬ、幻の薬品がある。名を『クルドリカル』。

一滴で肉体を再構築し、ステータスを永続的に上昇させると言われる禁断の霊薬なり」

クルドリカル。

おとぎ話の類かもしれない。だが、俺にとっては唯一の、蜘蛛の糸のような希望だった。

「……探しに行くとしよう。この檻を壊すために」

俺は決めた。この国に安住して、いつか嘘がバレるのを待つより、化け物級のステータスを手に入れる旅に出る。

エルーシア王女には「真理の極致を求める旅に出る」とだけ告げた。

彼女は「なんと求道的な……」と瞳を潤ませて見送ってくれたが、俺の内心は冷や汗でぐっしょりだった。

そして、旅立ちの朝。

「……お、重い。無理だろ、これ」

俺は城の門の前で、膝を震わせていた。

 背負っているのは、最低限の水と食料、そして野宿用の布が入っただけの小さな背嚢はいのう

普通の男なら片手で振り回せる程度の重さだ。

だが、俺のステータスは筋力(ストレングス)1。

布一枚の重みが、まるで鉛の塊のように肩に食い込む。

一歩歩くごとに、足首がミシミシと悲鳴を上げ、視界がチカチカする。

「賢者様? どこかお加減でも……?」

見送りの兵士が不審そうに声をかけてくる。俺は必死に顔の筋肉を固定し、深遠な笑みを浮かべてみせた。

「……いや。この大地の重みを、改めて噛み締めていただけだ。気にするな」

本当は、重すぎて一歩も動きたくないだけだ。

伝説の薬を探す前に、まず城門から街の出口まで辿り着けるのか。

前途多難なんて言葉じゃ足りない。俺の命懸けの「徒歩」が、今、始まった。

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