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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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作者: 遠回る
掲載日:2025/10/07

はじめて。




 紫陽花(あじさい)玄関先(げんかんさき)(かお)をみせるようになった(ころ)季節(きせつ)には(はや)線香花火(せんこうはなび)()た。


 (さま)()えたガラス細工(ざいく)世界(せかい)(くも)りガラスを(はず)して(かす)んだ視界(しかい)(なか)黄色(きいろ)凸凹(でこぼこ)感触(かんしょく)(たよ)りに(ある)(わたし)(とど)めた、ご機嫌(きげん)()らめく()(たま)(した)だった。


 いやに(ちか)星空(ほしぞら)他所(よそ)に、ぼうっと(のぞ)く。(かみ)()れる。


 綺麗(きれい)だった。パチパチと、(はげ)しく()らぐ鏡面(きょうめん)。けれど()えない。(あたた)かさも、(けむ)たさも()く、()れた雑巾(ぞうきん)みたいな(にお)いしかよこさない。まるで花火(はなび)じゃない。あれは人魂(ひとだま)だ。(あお)いと()いていたのは(うそ)だったのだろう。なにせ、こんなにも(あか)い。


 たしか、いつの(ふゆ)だったか、ガスストーブの(まえ)にしばらく(あし)(ほう)()していたことがある。(あたた)かくて、(あつ)くて、(つめ)たくて。(ほう)()(まえ)(あし)はどうだったか。(おも)()した。ただ(ねつ)があったのだ。あの()のように(ゆき)()っていないけれど、()()(ぬの)は、(まぶた)(おな)じでずっと(おも)い。


 ざあざあ。


 バラバラ。


 (あお)くはないけれど、()(はな)せない。(はな)さない。(つめ)たいというのは本当(ほんとう)で、ずっと(すこ)(さき)(ところ)にいる。(くら)(あな)(なか)で、()えずにいる。


 そろそろ(すこ)(かみ)()ろうか。この(あいだ)(おや)にそう()われたことを(おも)()す。(ひと)()というのは便利(べんり)なようで、(すこ)(すだれ)になった程度(ていど)()えなくなるということはない。いつもはずっとしているマスクは、()っても()くてもあまり()わらないけれど、気持(きも)()(ほう)(らく)だということでリュックのポケットの(なか)だ。


 鼻先(はなさき)(かみ)()らす鋼鉄(こうてつ)(はこ)。たまに派手(はで)(おと)()らして、(おお)きいものはたまに(うた)う。それが(みょう)(あたま)(のこ)って、(みぎ)(まぶた)痙攣(けいれん)させる。(はな)(のこ)()れた(けむり)。つま(さき)(あな)(はし)()れている。


 (はじ)めて(たけ)(ちか)くで()たとき、(ほそ)(ほそ)いとは(おも)っていたけれど、こうまで(ほそ)いとは(おも)わなかったと、感想(かんそう)としては(すこ)素直(すなお)()ぎることを(くち)から()らしていた。それから(すこ)しして、(ぼん)時期(じき)。そこで()(たけ)は、(はじ)めて()たものとは(ちが)って、(ふと)く、(なが)く、青々(あおあお)としていた。子孫繁栄(しそんはんえい)どうのこうのと()(たけ)だが、実際(じっさい)、あまり(この)まれていないことも()った。どこにでも()えるからと。(あらた)めて()(たけ)は、それでもやはり、(たか)背丈(せたけ)(わり)(たよ)りない(ほそ)さだった。


 (ほね)隙間(すきま)にまとわりつく(おも)さを(かん)じながら、(ひざ)()る。(すこ)(ちか)くで()線香花火(せんこうはなび)は、いつもとは正反対(せいはんたい)のはずなのに、見慣(みな)れた距離(きょり)にいる。つまんではいないけれど、()れることはないから()(つづ)く。


 ()()れようとしたことがある。(ちい)さい(ころ)から()(あつ)くて、ずっとゆらゆらしていた。空気(くうき)のようで空気(くうき)でない。気付(きづ)けば、それは(もの)なのかと()になったのだ。だが、()れることはなかった。()()ばすこともなかった。(あつ)かったから。いつもスープの(あつ)さに気付(きづ)かずに(くち)()れて、びっくりして(はら)にこぼしていたから、火傷(やけど)(こわ)かったのだ。(あつ)いことが(いた)いことだと()っていたから。


 (さいわ)いなことに(まわ)りの(ひと)たちは手元(てもと)(いた)にご熱心(ねっしん)で、(おこ)られることはない。そういえば、()(さわ)りたかったのだと()をついて、()ばす。ボツボツと(しずく)(あたま)(たた)く。


 ラムネを()むとき、いつもくびれの部分(ぶぶん)にいるB玉(ビーだま)をどう()ろうかと(かんが)えていた。(びん)綺麗(きれい)なままで()しいから、結局(けっきょく)()けることはなく、(あら)って、何本(なんぼん)かを(まど)のそばに()いていた。()(のぼ)ったとき、()らされた(びん)(なみ)のような模様(もよう)をフローリングの(ゆか)()とす。(たたみ)でないことが(すこ)残念(ざんねん)で、けれど、この(かげ)がある時間(じかん)(あい)していることも(たし)かだった。


 (すこ)しの抵抗(ていこう)があって、花火(はなび)()れた。(つめ)たい(みず)(なか)()(つか)んだ。



 そうして、()()えた。



 (ふえ)のような(おと)がした()がする。()れたガラスを(こす)ったような(おと)がしたような()もする。布団(ふとん)()()んだときよりは(つよ)()たった。スーパーボールのようにはいかなくて、そう何度(なんど)()ねることはなかったけれど、きっと人生(じんせい)一番(いちばん)記録(きろく)()せていたように(おも)う。「(いえ)にあるスーパーボールも、透明(とうめい)で、(なか)にラメが入っていて、()(まえ)()ねる(みず)みたいにキラキラしていて綺麗(きれい)だったなぁ」だなんて(かんが)えていたら、(たまご)()るような(おと)最後(さいご)に、視界(しかい)()(くろ)()まった。


 そういえば、(わり)最近(さいきん)になって()った(はなし)だったのだけれど、ラムネ(びん)の中に入っている(たま)B玉(ビーだま)ではなくて、A玉(エーだま)というそうな。なんでも、B玉(ビーだま)というのは綺麗(きれい)球体(きゅうたい)ではなく、ラムネ(びん)(なか)のラムネを(こぼ)さないように(ふた)をするということが出来(でき)ない、いわゆるA玉(エーだま)出来損(できそこ)ないらしい。普段(ふだん)()れるのはB玉(ビーだま)ばかりで、(ビー)意味(いみ)など(かんが)えたことがなかったから、()ったときはびっくりした。けれど、たまに(おも)うのだ。(エー)よりも(えー)(ほう)(まる)っこくて可愛(かわい)らしいと。(なに)よりも、(まる)似合(にあ)っているのだと。




 高速道路(こうそくどうろ)足元(あしもと)(とお)一般道路(いっぱんどうろ)(わき)歩道(ほどう)(ひる)にはネズミが横切(よこぎ)り、(いき)をすれば(のど)をくすぐる。どこまでもありふれた光景(こうけい)(ある)くのならサンダルはお(すす)めしない。梅雨(つゆ)()けて普段(ふだん)様子(ようす)()(もど)したそこは、やはり()わらずにひび()れた(した)(さら)していた。







一幕。

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