ペンとギターと。
私は電車に揺られていた。これから見知らぬ田舎へゆくのだ。無論誰かに強制された訳でもお上に左遷を告げられた訳でもない。ただ、田舎へゆくのだ。そんな時間が小説家としての私を成長させるのだ。
電車に揺られ、駅に着いたのはおおよそ6時、この冬の日においては日は沈み、熱が感じられなくなるような頃だった。影が闇と混ざり合うように私は歩んだ。
耳を澄ませると田舎はあまりに音が多い。きっとビルの合間を往く人々には分からないだろう。洒落たグループが織り成す素晴らしい音楽も数多の人が鳴らす靴の音もない。だが誰かのなんとも言えぬ歌声が、獣たちの合唱が、遮蔽のないこの風が、私をこうも落ち着かせる。そんな私の耳にひとつの音が入ってきた。ギターの音だ。珍しい、そう思い私は音の鳴るほうへ急いだ。
「こんにちは、素晴らしい音だね。今平気かな」
そう言って顔を覗いた私はすぐに後悔することになる。
「大丈夫、です...」
その顔には泣きじゃくった跡があって、その声は恐怖に満ちていた。どうしたんだ、そういうのすらはばかれる様であまりにしょうがない。そっとその場を離れようとした。
「話、聞いてくれませんか」
落ち込んでいる彼女の方から提案があった。
「私で良ければ、どうしたんだい?」
彼女は自らが元プロだと明かした。
売れなくなって、事務所に契約を切られ、その結果田舎に帰ってくることになったというのだ。
どうすればよいものか、そう考えていると彼女は急に弦に手をかけたと思うと激しい声で歌い出した。
私はたまらなくこの歌が好きだ、そう思った。夢を諦めるにはあまりに惜しい。だから私はある事を決めた。
「私の部屋を貸そう。そこを拠点としてもう一度アマチュアでやらないか?」
演奏中の彼女がぴくりと一瞬止まった。そして何も無かったかのように再び歌い出した。そして歌いきったかと思うと大声で叫んだ。
『YES!!』